新生活と慣れとダレ
2018年11月18日……。
人生の終わりを迎えようとしている大作家。
時は15年前へと遡る。
八田 豪一 はた ひでかず(23)
命よりも偉大な人生を選んだ生涯。
上京してようやく住む場所と仕事を見つけたわけなんだが、仕事に慣れるまでは中々大変であった。仕事は夜中の3時頃から、自分の持ち出す部数分、本紙に折り込みチラシをセットして、自転車の前籠に、最初は横向きに新聞紙を入れて、次に、新聞紙を10部程とり、綺麗に扇形にズラしてそれを半分に折ると、前籠に入れた新聞紙の隙間に差し込む。右、左、と交互にタワーのように積めるだけ、差し込んでゆく。そして、後ろにも可能な限り新聞紙を積み、出発するんだけれども、コレがまた重いのなんのって!! 最初の1週間は進んでは倒し、進んでは倒しで大変だった。倒す度に、山田さんが自転車を起こすのを手伝ってくれるんだけれども、コレが又、山田さんが優し〜〜の。倒しても倒しても、笑顔で自転車を一緒に起こしてくれるし、謝る俺に、大丈夫ですよ!! って嫌な顔ひとつしないもんだから、もうその優しさに心救われっぱなしで……一生この人について行こう!! ってその時は思ったんよ。でもまぁ〜〜思っただけで一生新聞配達をする気はなかったんだけれども……それくらいに素敵な人だったって事が伝わるば幸いなんだが……。そんな山田さんの力添えもあって、ひと月もすれば全然余裕で配達が出来るようになっていた。仕事に慣れるまでの俺は、毎日筋トレしたり、仕事が終わってから、空回りしたり、必死で早く仕事を覚えようと、頑張っていたんだけれども、余裕で仕事が出来るようになってからは、それはも〜〜酷い生活だった。朝刊配達が終わると、パチンコ、夕刊配達が終わると、酒を飲みながら、映画やドラマやアニメ鑑賞。パチンコで勝った日は、風俗に行ったり、中古の小説やら漫画を大量に大人買いしては、休みの日に朝から酒を飲みながら、一気読みしたりと、ただただ暇を潰す毎日だった。このままでは駄目だと思い、たまにふらっと若者の集まる街に出かける事もあったが、楽しそうにワイワイガヤガヤはしゃぐグループや、イチャイチャするカップルやら、そういった同世代やら若者を見ていると、なにか凄く無性に孤独感を感じると共に、自分は誰にも見えていないんじゃないか?? なんて気にもなるくらい虚しい気分に苛まれる。変わろう!! とか、何かやろーーとか、何度も何度も試みてはみるものの、頑張ろーーとすればするほど、何も変わらない、変えられない現実に打ちのめされる。何に期待してるんだ?? 出来る訳ないし……。アホやな!? 心の中の冷めたもう1人の自分が罵倒してくるんだ。そんで、頑張ろーーって頑張った後の負のリバウンドに、やる気を根こそぎ奪われて、もはや全てに恐怖を感じてしまう。電車やバスに乗れば冷汗が出てくるし。人の視線がやたらと気になるし。全てが煩わしい……。何よりも、そんな自分が鬱陶しい……。毎日毎日こんな事を考えていた訳ではないのだけれども、ふッと した時に無性に怖くなる時があった。何が怖いのか? 自分にも分からないのだけれども、未来を想像した時に、幸せでいる自分の姿が全く想像出来なくて、何も成す事なく、ひとり老いて死んで行くのかなぁーー? なんて考えていると、今度は、死んだらどうなるんだろう?? って具合に死について考えてしまう。 今に至るまでに、亡くなった遺体を見た事があるが、俺には皆んな、ホッ とした表情に見えた。じぃちゃんに、ばぁちゃんに、親戚のおじさんに、そして、若くして亡くなった幼なじみに……。皆んな、俺にはうっすらと、微笑んでいるように見えたんだ。死ぬってどんなのかな?? って、考えてる時、亡くなった皆んなの顔を思い出す。そしたらなんだが、めちゃくちゃ怖くなる。死ぬ時は苦しかったのかなーー?? っとか、死んでからも魂は存在しているのかなーー?? っとか。酒に呑まれてべろべろになった翌朝は、ガンガンと響く頭を抱えながらひとり鬱状態でオチていた。
たまに来る絶望感もひと時のもので、普段はそれなりに毎日を自分なりに楽しんで過ごしていた。基本的に頭の中はお気楽で、妄想する事が大好きな俺は、アニメや、映画や、ドラマに、小説、漫画の中に入り込み、新たなキャラを頭の中で創り、実際のキャラと戦わせたり、冒険したり、友情したり恋愛したりしながら、おバカな妄想を楽しんでいた。例え現実逃避でも楽しけりゃいいかな!! ってな感じに充実?? した毎日を過ごしていたそんなある日、東京に住む、地元兵庫の幼なじみから連絡があった。
夕刊の配達を終え、近くのレンタルショップでエロDVDを借りて、近くのコンビニで缶ビールとワインと、ツマミを買い、帰宅。帰宅後、缶ビールを飲みなが、パスタ鍋に水を入れ湯を沸かす。ニンニクをスライスカットすると、フライパンに入れ、オリーブオイル、バター、一味、ウスターソース少々、牛乳少々、コンソメを入れて火にかける。玉ねぎ、ベーコン、ほうれん草を切り終える頃、沸騰したパスタ鍋にパスタを入れる。グズグズしてきたフライパンに、玉ねぎ、ベーコン、ほうれん草を入れて炒める。フライパンの火をとめて、茹で汁を少しづつ入れながら和える。パスタが茹で上がると、フライパンに火をつけて、パスタを入れると、一気に和える。出来上がったパスタをお皿に盛り机の上に置くと、台所で缶ビールを飲み干し、新しい缶ビールを取り出して、机の上に置き、借りて来たDVDをプレイヤーにセットすると、机の前に座り、リモコンでテレビをつけて、再生ボタンを押して、缶ビールを飲み、パスタを食べながらエロDVDを観る。これが俺の最高の時間。酒を飲みながら料理をして、動画を観ながら飯を食う!! この時はたまたまエロ動画だったが、普段は普通の映画やドラマやアニメを観たりもしている。そんな至福の最中に電話が鳴った。知らない番号だった。とりあえずその時は無視して出なかったのだけれど、次の日もまた昨日と同じ知らない番号から電話がかかって来たので、電話に出てみたら、幼なじみのりょう君だった。りょう君とは小中と一緒で、小学生の時はいつも一緒に遊んでいた。俺が東京に住んでいる事を親から聞いたらしく、電話してきた。久しぶりに聞くりょう君の声に、ついついテンションが上がった俺は、なんだかとても嬉しくなり、話しの流れから近々会おうという約束をした。りょう君は今、原宿で美容師の仕事をしているらしく、後日りょう君の働く美容院に髪の毛を切りに行く事になった。
通常の休みと、休刊日で連休になったある日、俺は原宿へ向かった。りょう君には内緒で、りょう君の働く美容院へ行き、驚かしてやろうと思ったのだ。駅から歩いて5、6分のところに、りょう君の働く美容院『ルイ』はあった。ビルの細く狭い階段を登って行くと正面にガラスのドアがあり、カウンターの受付には綺麗な女性が立っていた。ドアを開けて中へ入ると、笑顔の素敵な店員さんが「ご予約はされていますか?」っと聞いてくるもんで、俺は、「いえ」っと答えると、店員さんが「当店は初めてですか? 」っと聞いてきたので、「あ、はぃ」っと答えた後に「小野君はいますか? 」っと訪ねると店員さんがニコリと微笑み、「はぃ! 小野を指名なさいますか? 」 っと言うので、俺は「小野君でお願いします」と伝えた。小野君とは、りょう君の事で、本名は小野涼太と言う。店員さんによると、りょう君は今他のお客さんの対応中でしばらく時間がかかるとの事だったので、お店の中でしばらく待つことにした。待合室で、雑誌を読みながら待っていると、カウンター横にあるドアから、スラっとスリムな男性が近寄ってきた。「カズ!? 」っと近寄ってきたその男性はりょう君だった。りょう君とは5年ぶりの再会だった。俺は近寄ってくるりょう君に手を挙げて、「久しぶり」っと言うと、「ビックリするわ〜〜!? 来るならゆっといてくれたら予約しといたのに! 」 っと俺の肩をポンポンと叩き、「も〜〜ちょい待ってな。も〜〜終わるし」っと手のひらをこちらに向けて、後ずさりするように、カウンター横のドアを開けて、中に入って行った。りょう君と最後に会ったのは確か、高校2年生の時にフットサルをした時だ。どういう経緯でそうなったのかは覚えていないが、中学時代のサッカー部の友達と、地方の高校に進学した俺の高校のサッカー部の友達とで、コートを借りて皆んなでフットサルをした。それきり会う事はなかったけれども、風の噂でりょう君が東京に住んでいる事は知っていた。中学時代のりょう君は少しがっちりした体型で、男女問わず友達が多く、皆んなから慕われていた。中学時代から美容師になるのが夢で、よくりょう君に髪の毛を切ってもらう事もあった。
20分程たった頃、りょう君がドアから身体を半分だし、手招きをするので、俺はりょう君のいる方へ向かった。ドアの中に入ると、椅子が三つあり、左端と、真中には客がカットされていて、俺はドアから一番遠い右端の椅子へ誘導され腰を下ろした。鏡越しに久々に見るりょう君と目が合うと、なんだか少し照れくさい感じになった。りょう君は鏡越しに俺の目をみながら「どうする?? 」っと聞いてきたので俺は「任せるわ 」っと答えた。ん〜……ってな感じでしばらく考え込んだ後、うん!! っと言うと椅子を回して背もたれをゆっくり倒し、俺の頭を洗い始めた。優しい手付きで髪の毛を洗いながらりょう君が「痒いところはないですか〜〜? 」ってゆうもんだから俺はとりあえず「ケツの穴が痒いです。」って言ったら、りょう君が「おケツのお穴のどの辺が痒いですか〜〜」って返してきたもんで俺は「穴の奥の下の方ですかね〜〜。あぁッ!? 後、玉の裏っかわも少し痒いです」って言うと、りょう君が「アホやな〜〜」って笑いながら、俺の髪の毛をお湯で洗い流し始めた。髪の毛を洗い終わると、軽くマッサージをしてもらい、カットが始まった。髪の毛を切ってもらっている間、色々とお互いの近況を報告しあった。りょう君は現在、同じ中学の飯田と、高校の時の後輩の丸山と三人で一軒家を借りて暮らしているらしい。美容師の専門学校を卒業後、上京して今の美容院は2店目だそうだ。久しぶりにりょう君を見た時は、とても大人でかっこよくて、少し距離を感じていたんだけれども、鏡越しに話しをしていくうちに、だんだん昔の面影が見えてきて、少し遠くに感じていた距離も、すぐにグッと近ずき無くなっていた。明日は仕事が休みだと俺が言うと、りょう君が家に泊まりにおいでよって言うので、りょう君の家に泊まりに行く事にした。髪の毛をカットしてもらい、りょう君の仕事が終わるまでの間、原宿をブラブラする事にした。
上京して初めて来た原宿は、正に上京前にイメージしていた大都会!!
花の都東京って感じだった。とにかく全てが洒落てて、建物や行き交う通行人、空気さえも色鮮やかに感じられた。こんな所で暮らして働けたらどんな気分なんだろう? ワクワクする反面、それと同等か、それ以上の疎外感が心の中に湧き上がってきた。何かを期待した時、それが果てしなく非現実的で、全くもって自分自身がそれら期待した姿とは無縁だと感じた時に来る絶望感?いや、自分は何者でもないその他大勢の中の一人!? だという現実に直面した時、無性に虚しくなり、恥ずかしく思い、期待した自分を罵倒したくなる。気分がだんだんと落ちてきた俺は、あぁーー!! やっぱり帰ろうかな?! なんて、色々と帰る理由を考え始めていた時に、りょう君から電話がかかってきた。電話の内容は、早めに仕事が終われそうなので店前まで戻って来てくれとの事だった。やっぱり帰るわ! なんて言えず……結局店前まで戻る事にした。店前に戻る道中も、帰る理由を考えていた。
店前に戻り、りょう君に電話をして店前に着いた事を伝えると、電話を切り、りょう君が出て来るのを待った。しばらくするとりょう君が出て来た。「おまたへーー」っと言うと、店横に停めてあったビックスクーターからヘルメットを取り出して、俺に投げ渡した。渡されたヘルメットを装着すると、ヘルメットを装着し、バイクに跨りエンジンを掛けて準備万端のりょう君の後部座席に俺も跨った。「よし!!」っとりょう君がバイクを発進させた。
バイクで10分程走った所に、りょう君の家はあった。二階建の木造住宅。ドアフェンスの前でバイクから降りると、ドアフェンスを開けてバイクを手で押しながら中へ入るりょう君の後に続いて俺も入り、ドアフェンスを閉めた。りょう君は玄関の横のスペースにバイクを止めると、玄関の鍵を開けて、ドアを開け、中へ。俺も家の中へ「おじゃましま〜〜す」っと続けて入った。中へ入ると、正面右側に階段があり、左側に通路があった。りょう君は靴を脱ぐと、右側にある階段を上がって行ったので、俺も続いて階段を上がった。階段を上がると左右に8畳程の部屋があり、りょう君の部屋は左側だった。部屋に入るとりょう君は、肩から掛けた鞄を置き、部屋の窓を開けた。ポケットの中の物を取り出し、ヒノキの丸いローテーブの上に置き、腰を下ろし、タバコに火を付け吸い込むと、窓の方へ向かってフゥ〜〜っと煙を吐き出した。俺も鞄を置き、ポケットからタバコを取り出してタバコに火を付けた。りょう君の部屋は和室で部屋の真ん中に丸いローテーブルが置いてあるだけで、後は備え付けのクローゼット以外、他にはたいして物は無かった。りょう君はタバコを吸いながら携帯電話でメールを見ていた。俺はりょう君の部屋を見回しながら視線のやり場を探して、最終的に窓の外に視線を落ち着かせた。しばらく、外を見ていると、りょう君が、「も〜ちょいしたら直也も貴志も帰って来るし」っと携帯電話をテーブルの上に置くと、りょう君は立ち上がり、なんか飲む? っと階段を下りて行った。テーブルの上に置いてあった雑誌を手に取りパラパラとページをめくった。書いてある記事は一切頭には入って来ず、ただただページをめくって時間を潰した。しばらくすると、りょう君が両手に缶ビールを持って戻って来た。はい!! っと俺に缶ビールを手渡すと、腰を下ろし缶ビールの栓を開けゴクゴクと美味そうに飲んだ。俺も缶ビールの栓を開けてビールを飲んだ。飲みながらりょう君とたわい無いをしていると、階段を上がって来る足音が聞こえた。階段の方を気にかけた俺に気づいたりょう君が
「貴志かな? 」っと呟いた。階段を上がって来たのは見たことのない若い男性だった。男性が階段を上がりきった時にりょう君が「おかえり〜〜」っと声をかけると、男性は「ただいまッス〜〜」っとりょう君を見た後、俺の存在に気づき目が合ったので、とりあえず軽く頭を下げたら、男性も、どうも!! ってな具合に俺に向かって頭を下げながら右の部屋へと入って行った。りょう君は俺の方を見て「今のん高校の時の後輩の丸山貴志」っと男性がいた方向を指さして言った。そのすぐ後に、右の部屋から丸山がこちらの部屋に入って来た。入って来る丸山にりょう君が「八田豪一」っと俺の方を指し「幼なじみ!! 」っと丸山に紹介した。聞くと丸山は二つ下で、俺達が高校三年生の時に一年生で、丸山もサッカー部だったらしい。りょう君の通ってた高校には、りょう君以外にも同じ中学のサッカー部の友達が結構通っていたので、丸山とは中学時代の友達の話しなどで、すぐに打ち解けられた。しばらく三人で話しをしていると、一階、玄関の方から、物音が聞こえた。「お! 直也帰って来たな」っと りょう君が言った。りょう君は立ち上がり、「下行こか」っと階段を下りて行った。続いて丸山が立ち上がり階段を下りて行き、俺も後に続いた。
ご精読ありがとうございました。