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1825  作者: タクト
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約束と覚悟、過去と上京

2018年11月18日……。

人生の終わりを迎えようとしている大作家。


時は15年前へと遡る。


八田 豪一 はた ひでかず(23)


命よりも偉大な人生を選んだ生涯。




2018年11月18日 am 1時45分


「なぁージャギュウル……死ぬのってこんなにも怖かったっけ……!?なぁージャギュウル……例えば後世に名を残せたとして、俺はそれを確認する事が出来るのかな……!?死んじゃったら後世に名を残そうが、偉大になろうが、カリスマになろうが、俺にはそれが分からないのならば、それってどうなんだろうか?なぁージャギュウル……そんなに怖い顔して睨まないでくれよ。感謝してるんだぜ!クソみたいだった人生が、ジャギュウルと出会えて、本当に濃いものになった。大好きな小説をいっぱい書けたし、想像を超えるような大金も手にできた……。大好きな人もできた……。5年前の俺では絶対に有り得ないような……そんな……素敵な時間だった。やりたい事、やれる事はだいたいやれた。約束だもんな……。分かってるよ……分かってる……。分かってるんだけど……さっきから涙がとまらないんだ……。なんでかな??……5年前に捨てたはずの命なのに……。もっともっと……生ていたくなっちまったよ……。偉大な……作家……

……なりたい自分に慣れても尚……まだ、欲が尽きる事ってないもんだな……。もっと生きて〜なぁー……。ちぃちゃんに逢いたいな〜……」


2003年6月 当時23歳だった俺は、地元兵庫県から、夢と期待を胸いっぱいに抱いて東京へ。当時の俺は、東京に行けば華やかな毎日に、ドラマや映画、小説にあるような刺激的な毎日を想像していた。元々、計画性のない俺は、貯金してお金が貯まったから上京して来た訳ではなくて、なんとなく代わり映えしない毎日に嫌気をさし、現状から逃げ出すかのように、僅か所持金9万円で無計画にも上京した。まぁなんとかなるだろうーーくらいの気持ちで乗り込んだ大都会の地は余りにもデカく……その人の多さや、規模のデカさにただただ圧巻したのを今でもよく覚えている。上京前は、自分は何にでも慣れるし、自分は特別な存在で、必ず大成すると思っていたんだけれども、実際上京してみて思ったことは、自分という人間の余りにも小さい事だった……多分、自分は何者にもなれない小物で……物語で言うところの、その他大勢の一人……に過ぎず、大したことは出来ないだろうーーそんな風に思い知らされた上京初日だった。その後、なにをする訳でもなくただぶらぶらと、都会の街を徘徊していた。夜は安いビジネスホテルに泊まり、朝チェックアウトすると、再び徘徊するそんなある日の事、やっぱりもう帰ろうかなーーなんて弱気になっていた俺は、どうせ帰るならと思い、池袋で見かけたイメクラ、8,000ポッキリと書かれた看板の、怪しげなビルに足を踏み入れた。確かビルの2階だったと記憶している。

ドアの前には黒いスーツを着た男が立っていて、俺と目が合うと丁寧に頭を下げて「8,000になります」っと言うので、「8,000だけですよね? 」っと男に聞くと、男は「はい」っと頭を下げた。俺はお金を払いドアの中へと入った。中は三つ程部屋があり、全ての部屋が、カーテンで仕切られていた。一番奥の部屋まで案内されると、カーテンを開け「しばらくお待ちください」と男が言うので、部屋の中に入りベッドに腰掛けて待つ事にした。しばらく待っていると、黒いレースのワンピースを着た、太ったおばさんが部屋に入って来た。ウソやんって声に出そうになったのを必死で堪えた。おばさんは俺の隣に座ると、「どーも。初めて? 」 「あッ……はぁい」と答えると、おばさんが「コースはどうする? 」っと聞いて来たので「えぇ?? コースですか? 」っと聞き返すと、おばさんが「うん。えっとねーー、一番安いので下から、6万5千円、7万5千円、8万5千円とあるけど? どれにする? 」っと言うので、俺は「えぇ‼︎ 8,000だけじゃないんですか?」って聞くとおばさんが「こういう所で遊ぶんだもん、8,000だけな訳がないじゃない」 俺は「いやッ……じゃーー 8,000はなんやったんですか? 」って聞くとおばさんが   

「あれはねぇーー、入室料よ、入場料みたいなやつかな」っとキモい顔で笑いながら言って来たので、俺は「じゃーキャンセルで」っとちょっと語尾を強めに言うと、おばさんが「キャンセルならキャンセル料が発生するけど、6万円」っと言うおばさんの表情がなにか薄気味悪く、だんだん怖くなってきた。財布の中は確か5万円しか入っておらず、少し考えた後俺は

「……するも……やらんも……どっちにしろお金がたりひんです……」

おばさんは眉を片方だけ上にあげて、「じゃーーいくら持ってるの?? 」って言うので、財布の中身を見せると、財布からお札を全て抜き取り、「5万円かーー」っと言うと、

「ちょっと待ってて」っとおばさんは部屋を出て行った。残された俺は心臓がバクバクでおばさんの戻りを待った。おばさんは部屋に戻ってくると、「お金足りてないけど、特別に一番安いコースでしてあげるよ」っと俺の隣に座ると「じゃーーズボンとパンツ脱いで寝転んで」っと言うので俺はズボンとパンツを脱ぎベットに寝転んだ。ベットに寝転ぶと、おあばさんが手でペニスを握り上下に動かしながら「イクときは言ってね」っと言ったが、イクことはなかった。っというか終始、半勃でイケる訳もなっかった。「全然ダメじゃん、おっぱい触る?? 」っておばさんが言ってきたが、俺は、丁重にお断りした。店を後にした俺の残りの所持金は936円だった。もはや絶望的だった。936円ではホテルにも泊まれないし、地元に帰ることも出来ない。考えに考えた末、住み込みで働ける仕事が無いか求人誌で探すことにした。土地勘のない俺は、とにかく即日勤務OKで住み込み可能な仕事だけに絞り、自分にも出来そうな仕事を探した。流石に東京といったところか、結構そういった条件の仕事が見つかった。その中から、新聞配達員募集、住み込み、即入居可、即日勤務可と掲載された新聞屋に電話する事にした。電話をかけると、女性の方が出た。自分の現状を説明すると、すぐに面接をしてもらえる事になった。最寄りの駅まで行ったら迎えに来てもらえるとのことで、電話をきると、すぐに指定された駅に向かう事にした。駅に着くと、新聞屋に電話をかけて、着いたことを伝えると、すぐに迎えをよこすとの事だった。しばらく待っていると、中学生くらいの女の子が俺の方に寄って来て、「面接に来られたかたですか?」っと聞いて来たので、そうですと伝えると、女の子が新聞屋まで案内してくれた。駅から10分程歩いたところに、新聞屋の営業所があった。営業所に入ると、奥の小窓から50代中頃くらいの女性が俺に気づき、「どうぞ」っと、手招きをしたので、横にある扉を開けて、失礼しますと靴を脱いで部屋に入った。6畳くらいの和室に入ると、女性が俺に座るようにといった具合で、手で畳をさしたので、再び失礼しますと俺は腰をおろした。俺が座るなり女性が、「所長の笹山です」っと頭を軽く下げた。俺も「八田 です」っと頭を下げて、事前に書いてあった履歴書の入った封筒を、所長の笹山さんに渡した。封筒を受け取った笹山さんは、封筒から履歴書を出して、一通り目を通した後、仕事の内容を俺にザックリと説明してから、「どうだろー、やれそうかな?」っと俺の目を真っ直ぐに見ながら聞いてきた。俺は「はい。よろしくお願いします」っと深々と頭を下げた。「よし。よろしくね」 所長は俺の渡した履歴書を後ろの机の引き出しにしまうと、「もう少ししたら山田君が帰ってくるから、ちょっと待っててね」っと立ち上がると、奥の台所の冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぐと、俺にどうぞと出してくれた。「ありがとうございます」お礼を言い、頂いたお茶は麦茶だった。しばらくの間待っていると、黒と白とが混じり合った長髪で、小汚い格好をした、年は40歳頃の男性が営業所の前に自転車を止めて、営業所の中に入って来た。「おかえり」所長がその男性に声をかけると、男性も「お疲れ様です」と頭を軽く下げた。所長が「山田君」っと呼ぶとその男性が「はい」と、小窓の方へ近づいてきた。所長が手をさし「山田君」っと、山田さんを紹介してくれた。そして山田さんにも「八田君」っと俺のことを紹介した。所長が「山田君、一緒に部屋まで連れて行ってくれない?」っと言うと、山田さんが「あぁ……はぃ」っと頭をかきながら「部屋は3号ですか? 」っと言う山田さんの問いに、所長が「あぁーーそうそう」と机から鍵を取りだして俺に渡すと、「そう、3号」っと山田さんに言った。「明日から山田君が教えてくれるから、出勤時間とか、細かい事は、全部山田君に教えてもらってね」っと俺に言うと、「頼むね」っと今度は山田さんの方を向いて言った。「じゃーー行きますか? 」山田さんが言うので、「はい」と返事をした。営業所を出ようとした時に、「八田くん」と所長が和室から出て来て、はいっとお金をくれた。「えぇ??」っと言う俺に、「お金ないんでしょ? 」っと。面接の時に、もう所持金が全くないこと伝えていたので、それでだと思うが、それにしても、その優しさに思わず涙が出そうになった。折り畳んだお金を広げてみると、3万円だった。山田さんに連れられて向かった先は、営業所から10分程のところにあるアパートだった。ここから俺の上京物語が始まるのかと思うと少しだけワクワクした。俺の部屋は103号室で、山田さんの部屋は向かいの101号室だった。アパートに着くまでの道中、色々と山田さんと話しをした。山田さんは大阪出身で42歳だそうだ。20歳近く歳の若い、俺みたいなものに、敬語で接してくれる、物腰の柔らかい素敵な人だ。この人となら仕事を頑張れそうだと心から思ったし、なんだかとても救われた気分になった。アパートの部屋は、ドアを開けると右側に台所があり、正面に六畳一間程の部屋があるのみ。トイレはローカにある共同トイレで、風呂はもちろんない。それでも全然気持ちは大丈夫だった。何もない狭い部屋で一人、上京してから、今に至るまでの日々と、これからの事を考えながらビールを飲んだ。





つづく。

ご精読ありがとうございました。

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