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虚構の魔女  作者: PEN
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#4・予言

 

 目を覚ましたら、見慣れた天井があった。


(あれ? 何がどうなって……)


「目を覚ましたのね」


 すぐ近くから聞き慣れた声がした。


「……ロッチ、何がどうなってるの? 」


「私が連れて帰って来たのよ、あの山から」


「はい? 山ってどの山っ────」


「そうよ、その山よ。アナタ、山の頂上で気を失ってたのよ。目立った外傷は無いから、多分魔力切れだと思うけど」


 そういえばそうだった。

 フラルの狙撃後に起こった火事の様子を確認しようとして意識を失ったのだ。

 そして、今いるここは私とロッチが住んでいる隠れ家のような所だ。

 使われなくなった山小屋を最低限住めるようにしただけの建物。


「距離もあったし、結構大変だったでしょ? ごめんね? 」


「そうね、結構、とても、凄く、果てしなく、えげつなく、びっくりするぐらい大変だったわ」


「……ご、ごめんなさい」


 ◇◆◇


「まぁ、その事はもういいわ。私の勝手な行動に付き合わせた事もあるし貸し借り無しのチャラという事にしてあげるわ」


 少し言い過ぎただろうか、シータが泣きそうな顔をしたので、この話は切り上げる事にした。


「ねぇ、ロッチ? 1つ聞いてもいいかな? 」


「アナタが気を失っている時の話について? それとも作戦が成功したかどうかの話? 」


「前者について、というか後者は聞くまでも無いから」


 それもそうだなと思った。

 私が今ここにいるという事自体が、作戦の成功を意味している。

 もし失敗しているのなら、私はここに─────いや、この世にいないのだから。


「私が気を失う寸前というか、まぁ間接的に言えば気を失う原因の話なんだけど、大きな火事があったんだよね? タイミング的にもロッチがやったのかな?って思ったんだけど……どう? 」


「あぁ、あれね。結論から言えば、私は何もしていないし知らない。けど、あれのおかげで助かったわ」


「うん? どゆこと? 」


 可愛らしく小首を傾げるシータ。

 その仕草を見て、思わず抱きつきそうになる気持ちを抑えて話を続ける。


「どうやら、私がフラルの家に忍び込んでるのがバレてたみたいでね。四魔伐のアクの隊が向かってたらしいのよ」


「アクって、『羅生門』のアクだよね!? ロッチの天敵じゃない!? 」


「そう、だからアクの隊が私の所まで来ていたら終わりだったわ」


「その言い方からすると、来なかったんだよね? 何で? 」


「だから、その火事のおかげで来なかったんだよ」


 そこで、先程とは逆に首を傾げる彼女。


「アク達が火事に巻き込まれたって事? 」


「違う違う。巻き込まれた人を助けたから遅れたんだよ」


「へぇー そんな事があったんだ、ラッキーだね」


「それが偶然ならね」


 そう言って、私は部屋の隅で縮こまっている人影を指さした。


「……」


 見た目だけだと15歳ぐらいの少女。

 黒髪黒眼で、両腕で大事そうなに1冊の本を抱えており、しっかりと私達に目を合わせくる。

 この子は、気を失ったシータを拾う前に、様子を確認しに行った火事現場で会い、連れて帰ってきた子だ。


「君、名前は?」


「それは聞いたけど答えてく─────」


「アスカ」


「アスカだって」


「……はは、」


 何とも言えない気持ちになった。

 私が聞いた時はシカトしたくせに、シータが聞くとこうだ。

 正直に言って、殴りたくなる。


「で、何でこの子連れて来たの? 」


「それは─────」


「ボクも魔女だから。魔法は内緒。けど魔女。ロッチョウを助けた。ボクが火をつけた。アクの気を引く為に」


「なるほどね」


 ……何だろう、この気持ち。

 何でこの子は、私の話を遮りながら話すのだろうか。

 そもそも何だこの話し方は、黎明期の人工知能かよ。


「ま、まぁ、とりあえず、こう言うから連れて帰ったんだよ。あのまま放っておいてもよかっただろうけど、魔女狩りも近くにいたからね」


 さて、この無愛想な子をどうしようか。

 一度軽く息を吐き、少し考える事にする。

 その時、


「必要無いよ」


 彼女は立ち上がりながらそう言った。


「ボクの衣食住を気にしているなら必要無い。ボクはボクだけで生きていける。心配しなくていい」


「そうは言ってもな、


「「私達は、住む場所が無い年下の女の子を見捨てる程、薄情じゃない」って? 」


「「……え? 」」


 私の言葉に重ねて話すアスカに驚き、理解が追いついていない私達を置いて、彼女は話を続ける。


「ボクは君達の優しさを知っている。そして、それが悪い結末(バッドエンド)に繋がる事も知っている。だから大丈夫。ボクは1人でいたい。むしろ、1人の方がいい」


「そこまで言うなら止めないけど…… 大丈夫? 」


「うん」


 シータの問いかけにも冷たく答えるアスカ。


「あ、そう言えば」


 部屋を出る寸前、彼女は一度私達の方に振り向いた。


「次、満月の魔女がここに来ると思う。助けを求めてね。その時は助けてあげて。それはとても大事なピースだから」


「ピースって何の話だい? 」


「如何なる傷も炎と共に再生し、寿命以外の事で死ぬ事は無いとされている鳥。それを殺すピース」


 彼女はそれだけ言うと、静かに部屋から出て行った。


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