#2・秋は夕暮れ
「えっと、手紙の2日後って今日だよね? 」
日が落ちかけ、空が橙色に染まる。
そんな中、『銃器の魔女』である私は国の中央から離れた山の頂上まで来ていた。
「確か目標は、"魔女狩り省"の五大幹部のフラルだっけ? 帰ってきた所を撃てばいいんだよね? 」
軽く一度背伸びをしてから、何かを構える動きをする。
次の瞬間。私の手には1挺の狙撃銃が握られていた。
「さてと、そろそろかな? 」
首を傾げてスコープを覗く。
普通の狙撃銃では、せいぜいスコープの倍率は10倍程度。高いやつでも50倍程度だ。
だが、それはあくまでも普通の銃の話。
私の魔力によって創られた銃は、そんな次元のレベルの話ではない。
「───倍率1000倍、透視付加」
スコープ越しの景色が一変した。
先程まで、豆粒程度にも満たなかった存在をハッキリと視認できる程まで倍率は上がり、生物以外のありとあらゆる障害物を透視する事ができた。
「目標はっけ〜ん! 」
ここまですると、簡単にターゲットを見つける事ができた。
「既に付加してある能力に加え、対象追跡、消音効果、及び衝撃緩和を付加」
スコープで目標を捉えたまま、更に銃に能力を追加していく。
その途端、一気に疲労感に襲われた。
足元がふらつくが、何とか耐える。
「この作戦は失敗する訳にはいかないからね……」
背中を、嫌な汗が撫でる。
手は震え、目の焦点は定まらない。
だが、目標をスコープで捉え続ける。
「目標地点まで、──────あと5m」
4m
3m
2m
1m
カチッ
激しい音はなかった。
聞こえたのは、私が引き金を引く音のみ。
「……任務完了」
スコープの先では、1人の男の死体が転がっていた。
頭は弾け飛び、中身が周辺に散らばっている。
「ふぅ、」
軽く息を吐くと、握っていた銃をその辺に投げ捨てる。
地面に触れた瞬間、銃は光の粉となって消えた。
「じゃー、ロッチを迎えに行くとでもしますかな? 」
私も一応は一級魔女に登録されてはいるものの、この戦闘スタイルもあってか顔は割れていないので、ある程度は自由に動く事ができる。
それとは逆に、ロッチは要注意人物として魔女狩り達全員に顔を知られている事を考えると同情してしまう。
「いや、ロッチの魔法だったらあまり関係無いのかな? 」
私の一番の親友であり、6人の特級魔女の1人。ロチョウの魔法は『虚構』だ。
大勢の人達に同時に幻覚を見せたり、脳に誤情報を与えたりと、虚構に関係する事なら基本的になんでもできる凄い奴。
そのせいか、1人で勝手に突っ走っちゃうところもあったりする。
「全く困った奴だよね本当。手がかかる子どもってこんな感じなのかな? 」
と、その時だった。
ちょうど、私が山を降りる為に帰り道に振り返った瞬間。
ドォン!
背後で轟音が鳴ったのだ。
「え? 」
聞こえたのは、目の前に広がる街からだった。
轟音が鳴ったと思われる辺りからは、大きな火柱が遅れて上がる。
「ちょっ! もしかしてロッチが何かに巻き込まれたんじゃないよね!? 」
慌てて狙撃銃を再び創り出し、スコープで確認しようとしたが、先程の狙撃でほとんどの魔力を使い切ったらしく、数秒も保たずに光の粉となって消える銃。
それだけでなく、私の身体も全身の力が一気に抜けて、そのままうつ伏せに倒れてしまった。
「…………ぐぅえ……」
そのまま私は気を失った。
◇◆◇
ボクは1冊の絵本を腕で挟み、燃える建物の前にいた。
いや、正確に言うと少し違う。
正しく言うならば、こうだろう。
"ボクは1冊の絵本を腕で挟み、自らが火をつけた建物の前にいた"
挟んでいた絵本を取り出し、あるページを開く。
「一番最悪な終わり方は、コレで回避できたかな? 」
そのページを破り取ると、くしゃくしゃに丸めて、火の中へと投げ入れた。