③
衛藤は正直なところ就職などしたくはなかった。
やりたいことがない、
社会の厳しさなんて言うけど、理不尽に耐えることが厳しさなどと捉える社会が嫌いだった。
しかし世の中は金がなくては勿論生きていけない。
なにがあっても社会人としての立場にしがみつかざるを得ない世の中を軽蔑する。
彼もまた、先輩社員から雑用を山ほど頼まれていた。
ようやく社会人としての立ち位置に慣れてきた頃だというのになかなか仕事をもらうという段階に辿り着けない。
自分から動いていないわけではないのだ。
ただ新しい人材を歓迎しようという、そういった風潮を一秒も感じたことがない。
教育というものの重要さをひしひしと感じつつも、味気ない午前中が終わり、昼休みを迎える。
衛藤は、バッグの底に行っていたスマホを取り出し、大学時代のバイト仲間の大倉と梶井に連絡をした。
昼飯の麻婆丼と、自撮りを送りつけてやったが、なかなか既読がつかない。
二人ともすでに仕事を任されて忙しいのか…
忙しくはなりたくないものの仕事をしているであろう彼らを若干羨みながら、あまりの辛さにむせ水を口に含む。
もっとも社会に出て重要なのはなにかーー
おそらく給料なり休みなり、残業ゼロなり人間は殆どが楽をして稼ぎたいものだ。
ただ、衛藤にとってはそれらに加え、もうひとつ心に決めていたことがあった。
「俺は、有名になるのだ」、と。
このまま人生を閉塞したコミュニティで終わらせたくはない。
例え今の会社で部長になれど、その認知度なんか豆粒程度だ。
俺という人間が生きた証を犯罪以外で刻むことが夢であるーー
そう考えていると、あっという間に時間は過ぎているものだ。時間を確認するためにスマホを見ると梶井から返信が来ていた。
仕事やめたい