第9話 はじめての苦戦
俺は男の拳を掴んだまま、反対の手で拳を突き出した。
だが男は、寸前のところで避け、掴まれた拳を解いて距離をとった。
「あっぶねぇなおい。なんつー速さの攻撃だ⋯何もんだてめぇ」
「人に物を訊ねるときは、まず自分からだろーが」
「はんっ!生意気な奴だなぁおい!俺はSランク冒険者、アグラス。七星剣の一人だ」
な⋯⋯。冒険者だと⋯!?それに、Sランクって確か一番上のランクだよな⋯⋯?
それに七星剣?なんだそれは?いや、そんなことよりも。
「冒険者なら、なぜ俺たちを襲う!俺も冒険者だぞ!」
するとアグラスは、目を見開く。
「あん?てめぇが冒険者だとぉ?ならなんでドラゴンなんかと仲良しごっこしてやがる!」
「んな事お前に関係ねぇだろ!俺が誰と一緒に居ようが、お前にとやかく言われる筋合いはねぇ!」
なんで見ず知らずの奴に、そんなことを言われないといけないんだ!
そう思っていると、アグラスは、呆れた表情で口を開いた。
「やれやれ⋯これだから素人は困る。いいかぁ?冒険者っつーもんは、魔物を倒すのが仕事なんだ!その冒険者が、よりにもよって漆黒龍とお友達だと!?そんなもんが許されるわけねぇだろが!!」
そういってアグラスは、またしても一瞬で俺の目の前まで来ると、さっきと同じように殴りかかってきた。
それをまた受け止めようとして。
「がっーー!?」
気づいた時には吹っ飛ばされていた。
な⋯⋯なんだ?今のは⋯⋯。
俺は何が起きたのか理解出来ずにいた。
「やはりまだまだ素人か。魔力が効かねぇなら別の手段を使うまでだ!」
俺は接近してくるアグラスに対して構えるが、さすがSランク冒険者。
速すぎて防御が追いつかず、アグラスの連撃をまともに受けてしまう。
すると、急に力が抜けて、その場に膝をついてしまった。
な⋯⋯んだ⋯これ⋯⋯。
さっきの鎖と同じような感覚だ。
力が抜けていく⋯⋯。
「馬鹿が!これだけまともに魔力穴を突かれて、立てるわけねぇだろが。これで終いだ」
くそっ!身体が動かねぇ⋯⋯。
これが実力の差ってやつなのか⋯⋯?
悔しいが、こいつは強いと認めざるを得ない。
それに、魔力が抜け落ちたみたいな脱力感で、力が入らねぇ⋯⋯。
俺は⋯⋯負けるのか⋯⋯?
クロエ⋯⋯。俺は⋯⋯。
【急激な魔力の低下を確認しました】
【生命の危機を感知しました】
【過度の精神負荷により精神のレベルアップを確認しました】
【精神がレベルアップしたことにより『自動戦闘モード』が使用可能になりました】
【生命維持のため、強制的に『自動戦闘モード』を開始します】
ーーーーーーーーーー
アグラスは勝利の余韻に浸っていた。
素人ながら、凄まじい力に恵まれた目の前の少年。
魔力量も異常だったが、やはり素人。アグラスの敵ではなかった。
久々にすこし楽しませてもらったと、笑みを浮かべて幼女の姿をしたドラゴンの元へと歩き出す。
憎たらしいドラゴンを殺すため、アグラスは幼女に、右の手のひらを向けた。
その時、背筋が凍り付く程の殺気が、アグラスを襲った。
アグラスは一瞬で背後を振り向く。
だが目の前には、さっきまで居たはずの少年の姿がない。
冷や汗を流しながら、全身が緊張している中、右腕の痛みに気づく。
「ぐ⋯⋯て、てめぇ⋯⋯」
アグラスの右腕は、肘から先が切り落とされていた。
背後には、幼女を抱える先程の少年。
だが、素人だと思っていたその少年は、先程までとは圧倒的に異なる存在感を放っていた。
アグラスは、切り落とされた右腕を押さえながら、痛みに顔を歪める。
少年の右手が血で染まっている。
おそらく手刀で切り落とされたのだろう。
そして悟った。自分ではこいつに勝てないと。
さっきまでの素人とはまるで別人。
このまま戦えば、瞬きをする暇もなく、殺されるだろう。
アグラスは考える。
どうすれば、今のこの少年から逃げられるか。
今まで逃げることなど考えたこともなかったアグラスは、自分の情けなさに嫌気がさした。
だが、死んだら何もならない。
勇気と無謀は違う。
アグラスは引き際を正確に理解していた。
だが、現実はそう甘くない。
目の前の少年はゆっくりとアグラスに近づき、目の前から消えた。
「ーーー!!」
間一髪、アグラスはかろうじて少年の攻撃を避けることができた。
だが、もう次を避けれる自信は、今のアグラスには無かった。
少年は⋯⋯動かない。
よく見ると、ドラゴンの幼女を守るようにして立っている。
なるほど、こちらから攻撃しなければ、攻撃されることも無いということだろう。
それを理解したアグラスは、一瞬安心してしまった自分に対して、とてつもない怒りと悔しさで表情を歪めた。
「くそがっ!!てめぇ覚えてろよ⋯⋯今度会った時は必ず殺す!」
アグラスはそういって、切り落とされた右腕を拾うと、ゆっくりと山を降りて行った。
そして少年は、ドラゴンの幼女を守るように、その場に立ち続けるのだった。
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