case.3 召喚
よ!
『選べるわけないだろ?完全ランダムなんだよ。何から何までな』
■ □ ■
俺はついさっき、『召喚』のスキルを使い、とある一人の少女を召喚した。
魔族のルイン。銀髪赤目で超がつくほどの美少女。
俺はそんな美少女と二人、肩を並べて洞窟内を歩いていた。
途中、何度か魔物と遭遇したのだが、全てルインが対処にあたってくれた。
そこで分かったことだが。
まずこの子、めちゃくちゃ強い。
流れるように魔物を倒していく。
その動作は、まるで暗殺者のような物だった。
まあ、そうは言っても、出てくる魔物はどれも平均レベル3程度の雑魚モンスターだけどな。
ちなみに参考程度にだが、俺の現在レベルは1。対してルインは30と言っていた。
―――さて、現在そんな俺には二つの悩みがあった。
まず一つ目。
(戦い方が分からねぇ…………!)
そう。ステータスで分かったことだが、俺のスキル等はなかなか強い物だ。
だが、肝心なそれの使い方が分からないのでは、どうする事もできないのだ。
その旨をルインに伝えると、
「なら、主様もここら辺の雑魚敵倒して慣れましょう!」
なんて言ってきたのだ。
そしてここで二つ目の問題が現れる。
(俺が魔物を倒したら、それは蹂躙にならないか……? 弱いものイジメじゃないか?)
そう。前にも言った通り、俺は“蹂躙”という行為が嫌いだ。
現在判明している、この洞窟に出現する魔物は、
・スライム
・ゴブリン
・スケルトン
・グール
の計4体だ。
ちなみに名前は全部ルインが教えてくれた。
そして、この4体。一つ共通点があって、それが全員平均レベルが3前後なのだ。
それをレベル30のルインがなぎ倒していく。
これこそ、まさしく蹂躙なのでは無いだろう……か?
(いや……でも魔物だし……)
いや、だがしかしこれは、自分の命を守るための自衛だから、許されるはずだ。うんそうだ。
それにこの世界は、ゲームの世界なはずだ。
いくらリアルとは言え、ゲームの世界だと割り切れば、大した問題も無さそうだ。
まだ確定した訳じゃ無いけど。
だけど一応、何か手はないかと思ってもう一度自分のステータスを確認してみる。
(……ん?何だこれ?)
▶スキル『召喚』が幸運状態となりました。
“幸運状態”……?
今度は全く聞き覚えの無い言葉が現れた。
説明書にもそんな言葉が乗ってなかったような……。
「なあ、ルイン。“幸運状態”って何か分かるか?」
と、隣を歩くルインに質問する。
「はい、分かりますよ。確か、幸運状態というのは、スキルに稀に付与される限定効果のことですね。……もしかして主様、今スキルが幸運状態なのですか?」
「ん、ああ。『召喚』のスキルがそうなってるみたいだ」
そう言うと、ルインは目を輝かせて飛びついてきた。
「すごい! すごいですよ! 幸運状態なんて滅多に見られるものじゃないです! で、どんな効果なんです!?」
「え、えーっと……? 『スキル発動時の消費SPを無くす』って書いてあるな」
「ふぁぁぁぁ! すごいですすごいです! じゃあ無限に使えるじゃないですか!」
「あー、いや、そうでも無いみたいだ」
そう、さっきの続きに、『尚、効力は数回で終了する。』とあるのだ。
「そんなぁ……。でもでも! せっかくの機会なのでスキル、使ってみましょう!」
そうだな……。
この洞窟を抜けるまでにある程度戦えるようになっておきたいところだ。
ところで……
(SPって何だ?)
そう思い、ステータスを再三確認する。
(SP、SP……っと、あった!)
『所持/SP:900』……って書いてあるな。
ん、下に何か書いてある。えっと……?
『※SPとはスキルポイントの略である。尚、各スキルの欄に消費SPは記載されている。』
だって……?
そんなの書いてあったかな?
と、思いスキルの欄を見る。
そこには、
『召喚』/消費SP:100/幸運
『支配』/消費SP:500
(あ、あったぁぁぁ!)
多分、今わかったことをまとめると、現在俺の所持しているSPが0で、それを使ってスキルを使っていくってことだよな?
そして現在『召喚』は幸運状態の効果で消費SPが0になっているから―――
「よし、召喚してみっか!」
考えてもわかんないから、とりあえずやってみることにした。
「ルイン、今からスキルを試す。少し離れててくれ」
「了解しました!」
ルインが少し離れたのを確認して、俺はスキルを発動させる。
「さっきの感覚でいけるか……? ―――『召喚』ッ!」
あの時と同じイメージで、スキルを使う。
すると、目の前に魔法陣が現れる。
―――よし、成功だ!
あとは、何が出てくるか見守るだけだな。
『―――グルルル……』
来た!
……あれは、竜……? とにかく大きな身体をしているな。
「―――あ、あれは! マズイですよ主様! あれは伝説の生物……“青竜”です!」
「えぇぇぇっ!?」
そんな馬鹿な。
ギャグ漫画でもあるまいし、そんな流れるように伝説が出てくるとか……!
(有り得ないだろうがぁぁぁ!)
『―――人間、煩いぞ。我を呼んだのは貴様だな』
「あ、ああ。俺だ」
『―――なら我と戦ってみろ。そして己が力を我に示してみよ』
「はぁぁっ!? いや、待ってくれ! 俺まだ戦い方を知らないんだ!」
『フッ、冗談はよせ。我を呼ぶほどの実力者が何を……。―――おっと、そこの魔族の娘。手出しは無用だぞ』
「は、はい……。頑張ってください! 主様!」
え………………。
(マズイ……まずいまずいまずいまずい! ガチで俺一人で戦うのかよ! ど、どうすれば……)
『行くぞ! まずは小手調べだ!』
そう言ってその竜は炎のブレスを吐いてくる。
「ま、待て待て待て待て!」
俺はそれを走って避ける。
(まじかまじかまじか……! 何かないか!? ―――っていや、一つだけあるじゃんか! この場を切り抜ける方法が!)
逃げながら俺は一つ思い出した。
スキル『支配』。確か効果は対象を自分の支配下に置くとか何とか……。
でも―――消費SPは500。そして俺の所持SPは900。
成功するかどうかも分からないし、SPも半分以上も使ってしまうが、やらないで殺されるよりマシ、か。
かなりの賭けになるが、ここはやるしか無いだろう!
(あーもうどうとでもなれ!)
「おい青竜とやら! こいつを喰らいやがれ! ―――『支配』ッ!」
俺のかざした手から、衝撃波のような攻撃が青龍に向かっていく。
『ほう、何かと思えばその程度か。まさかお前は本当に戦い方を知らな……イッ!!!』
(……? 上手く行ったのか……?)
確か、『支配』は対象の行動や能力を完全掌握できるんだったよな。
だったら……
「―――そこにおすわり! だ!」
『貴様、我を侮辱する気……か……って……おい、我は何を……やっているんだッ!?』
まさか……。
本当に……?
(おすわりしてるぅぅぅぅ!)
青竜は、見事なまでのおすわりをしていた。
その巨体には見合わぬ、キレイなフォームで。
『な、何をした……貴様!』
「スキル―――『支配』。聞いたことないか?」
『あ、あるぞ? 確かそのスキルは魔王が…………ッ! まさか貴様、いや貴方様は!』
えっ、急にどうしたのか。
青竜の奴、急に頭を深く下げて……。
一体何のつもりだ?
『―――魔王様とは露知らず、申し訳ございませんでした。これからはどうぞ私のことをこき使ってくださって構いませんので、どうかお許し願います』
「えっ、あっ、いや。別に気にしなくていいぞ。普通にしててくれ」
『はっ、かしこまりました』
急に態度が豹変して、どうすればいいか分からないんだが……。
と、そこにルインが駆け寄ってくる。
「魔王様魔王様」
「ん? どうした?」
「ここは一つ、魔王っぽく従えてみましょうよ!」
「魔王っぽく、か」
「はい! ではどうぞ!」
えぇ……急だな。
魔王っぽくってったって……。
(それって、ロールプレイってことだよな)
まあ、少し憧れてたところがあるから、やってみなくもないけど……
「んっんー! あ、あ、あー。よし……」
急に謎の行動をし始めた俺を青竜はジッと見ている。
そして俺はそんな青竜に向かって言い放った。
「我が名は魔王ルミナス! 『支配』の力でこの世界から争いを無くす者なり! いいか青竜よ、貴様は今この時を以て我の配下となる! そして我の配下となった以上、貴様を死なせはしない! それを我は誓おう!」
言っちゃった。
それもすごいノリノリで、スラスラと。
(あーあー! すげぇ恥ずかしい!)
「魔王、ルミナス……。分かりました。我は、あ、いや私は貴方様の配下となろ―――なりましょう。それと、私の名前は青竜では無く、“蒼玉竜サファイア”と。今後とも宜しくお願い致します」
蒼玉竜サファイア、か。
また一人(?)味方が増えた……みたいだ。
「ああ、宜しく頼む」
「やりましたね! 魔王様!」
ルインがまた飛び跳ねて喜んでいる。
「ありがとな、ルイン」
ポンッ、とルインの頭に手を置いてやる。
「ひゃっ! はわ、はわわわわわわ! えへへぇ、ありがとうございます魔王しゃまぁ……」
蕩けた顔をしているルインだが、そんな彼女を見てサファイアは言った。
『それにしてもそこの魔族の娘よ。貴様、今では珍しい夢婬魔の一族だな?』
「わかるん……ですか?」
『ああ。魔力が駄々漏れだぞ。今は我しか居ないからいいが、外へ出たらあらゆる生物の雄に襲われるだろうな』
「へぇぇっ!? 嫌です嫌です! どうにかしてください魔王様ぁ!」
(この流れでこっちに来んのかよ……!)
「えぇ……っと、どうしようかな」
何か方法が無いかと思案していると、再びサファイアが言った。
『何、主殿。簡単な事ですよ。そこの娘の魔力を抑えるなら……
―――主殿のスキル、『支配』を使えばいいのですから』
「―――え……?」
蹂躙が嫌いというのは、大事な伏線。
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