《Scarlet Online》
よ!
『過去は変えられない。だが未来なら―――』
■ □ ■
―――これは、とある一人の男の物語である。
俺、こと三雲翔一はどこにでも居るような、ただのサラリーマンだ。
年齢は20、職業はさっきも言った通りサラリーマン。しかも成りたてだ。
何か一つ特徴を挙げるなら、俺はこの歳の一般的な男性の平均身長よりも10センチ以上も背が低い、ということだろうか。
具体的な数字は言わせるな。俺が悲しくなる。
ちなみに最近の悩みは、この冬の時期にいつもなる乾燥肌。手がガッサガサなのだ。それが辛い。
ついさっき仕事を終え、終電ギリギリでなんとか帰宅した頃にはもう深夜2時を回っていた。
幸い明日(―――いや、もう今日か)は土曜日で、仕事は休みなので俺はオールすることを決意し、スーツ姿のままパソコンを起動した。
俺がオールを決めた理由はたった一つ。
今日はこの為に仕事を頑張ったと言えるような代物の為だ。
『Scarlet Online』。
日本国内で絶賛話題沸騰中の大人気王道MMORPGで、通称は《スカーレット》。“スカオン”とも略されることがあるが、大半のプレイヤーが「何か気持ち悪いから」と言って、“スカーレット”と呼んでいる。
俺はそんなスカーレットのいちプレイヤーだ。
―――まあ、とは言ってもこれからゲームを起動する完全な初心者なのだが。
ちなみに俺は、ゲーム自体なら色んなジャンルの物をやり込んでいる、自称プロゲーマーでもある。
単に、スカーレット“では”初心者なだけだ。
そんなこんなで俺は早速パソコン、そしてゲームと順番に起動し、画面には早速スタート画面が出てくる。
俺は“START”と書かれたボタンをクリックし、簡単なチュートリアルをこなした後、一通りの説明を読み込み、キャラクターメイクの画面へと辿り着いた。
さて、ここからも《スカーレット》の面白い所なのだが。
―――キャラクターメイク。ほとんどのゲームにおいて、最も重要なものであるこの時間は、この《スカーレット》には存在しない。
と言うのもこのゲーム、キャラメイクは完全なランダムになっており、ゲーム開始時まで分からないのだ。
キャラを構成する、外見・性別・職業・スキル・持ち物、さらには誕生日までもがランダムである上に、リセマラは出来ないときた。
リセマラ……つまりリセットマラソンをしようとすると、運営会社に報告が行くようになっていて、同じパソコンではプレイ出来なくなる仕様となっているのだ。
まあつまりキャラメイクは、一回限りの大勝負なのだ。
それゆえに日本中のスカーレットプレイヤーが、時には嘆き、時には感涙の叫びをあげた。
俺はたった今、その運命の瞬間を迎える。
プレイヤー名をいつもゲームで使っている“ルミナス”と入力し、“キャラクター作成”のボタンをクリックする。
(頼む……! かっこいいキャラであってくれ! そして願わくば、チート級のスキルを持った強キャラであってくれ!)
しかしそんな願いは虚しく、突然パソコンの画面はブラックアウトしてしまった。
(何だよ……折角いい所だったのに……!)
突然の事で俺は、抑えきれない苛立ちをそのまま態度にあらわすかのように貧乏ゆすりを始める。
と、そこでまたも突然に、パソコンの画面が再び光った。
(お……? 復活したか?)
そう思って、俺はパソコンの画面を確認した。
するとそこには、さっきまでは無かったこんな文字が浮かんでいた。
▶貴方は、“特別”ですか? 覚悟は、ありますか?
「何だ、これ……」
これは一体何なのか。
俺が“特別”かどうかを、そして“覚悟”があるかどうかを聞かれてるん…………だよな?
(そんなの、俺に分かる問題じゃ無いだろ)
とは言っても、このままじゃゲームをプレイ出来ない。
それなら、答えが“はい”にしろ“いいえ”にしろ、答えなければ進まないだろう。
と、言うわけで少し深夜テンションだった俺は、調子に乗って“はい”と入力した。
すると今度は、こんな文字が打ち込まれていった。
▶貴方を、我らの世界へ誘いざないましょう。
(ん、何だ? “我らの世界”って)
しかし、この文字が浮かび上がって以降、パソコンが何をしても動くことは無く、無反応のままになってしまった。
もうこのパソコンは壊れたのだと諦めて、布団へと潜り込んだ俺は、さっきの不思議な現象を思い返しながら、気づけば仕事の疲れからか、睡魔に負けて眠ってしまっていた。
■
翔一が深い眠りについた直後、再度パソコンの画面は灯った。
そして、そこには次々と新たな文字が打ち込まれていく。
▶『“召喚門【異世界】”を起動します。これより、対象の転移を開始―――』
一つの魔法陣が、そこに現れた。
それは、翔一の寝ている体の真上に。
そして、その直後。
パソコンの画面にはこんな文字が浮かび上がったのだ。
▶そ こ が 貴 方 の 現 実 に な る
直後、翔一は突如現れた魔法陣に飲み込まれて、人知れず消えてしまったのだった。
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