005『探偵』
探偵と傭兵は、たしかに語呂的には似ている。
しかし全くの別物である。
似ている側面があるとすれば、それは誰かに雇われて仕事をこなすという一点のみだ。
飲み屋の受付席に座る男は杯の中で、ランプの光に照らされて揺れる蒸留酒をまずいそうに一口煽った。
「おい、これは酒か? それともヤギの小便か?」
男は顰めた顔で店主の男に尋ねる。
グラスを乾いた布で乾拭きをしていた店主は、額に青筋を浮かべた。
「てめぇみたいな野良犬にゃ、うちのショットの味んなんざ輪からねえんだよ」
怒りをあらわにする店主。それを無視して男は杯の中身を一気に飲み干した。
「ご用は?」
男の背後には、黒づくめの人物が立って居た。
店主の顔が青ざめていく。
男はため息を吐いて、肩を落とした。
「探偵ってのはな、浮気の調査とか、嫌気がさして逃げ出した女房や愛玩動物を探すのが仕事だ」
男は振り向かないでそういった。
「……」
「用件があるなら聞くが、あんたが犬や猫を飼っているようには見えないし、どうやら逃げた女房を連れ戻したいわけでもなさそうだが?」
男の背後に立つ人物は、近付くさいに足音がしなかった。店主もそこに現れるまで、入店した事にも気付かないほど希薄な存在感の人物だ。
「戦争を、行って欲しい……」
「いいか、俺は探偵だ。浮気の調査とか、犬探しが専門だ」
「前金で通商協会金貨五十枚。成功報酬でその倍」
「まあ、ここに座れ。背中に立たれたままじゃ、おちおち話も出来ねえ」
その人物は男の隣に腰かけた。
この街には探偵がいる。
場末の飲み屋で客を待つその探偵の主な仕事は……。