003『夜勤明けの車窓から』
目頭を指でつまんで軽くもみほぐす。
「おつかれさん」
「お先に」
手に持った某有名喫茶店のタンブラーを軽く掲げて、同僚と入れ替わりで部屋を後にする。
私の仕事は四交代制のシフト勤務だ。今日の私は夜勤を終えた所だ。
”会社”の中のコーヒー店に立ち寄り、マイタンブラーにお替りのコーヒーを入れてもらう。代金の支払いは入館証を兼ねたIDカードを非接触式スキャナに読み込ませるだけ。
愛想のいい店員に別れを告げて地下の駐車場へ降り、自分の車に乗り込む。
車が地上へ出ると朝日が目を焼く。
出入口で車を止め、目を二度三度しばたたかせて馴れさせる。
二日に一回の出勤の後の、いつもと変わらない風景。
他に勤務を終えて帰る者は少ないが、代わりに出勤する者は多い。
今時遠隔操作や、自動運転で地球の反対側で飛行機を飛ばせるのに、こうして自分の手足を使って夜勤明けの眠気と戦いながら車を運転している不便さ。
頭を軽く左右に振って眠気を紛らわせて、アクセルを踏み込んだ。
滑りだすように走り出す車は、給料の割に高級な部類を買ったからだ。
クリアの視界には、三等級以下のスタッフ用の屋外駐車場が並んでいるのが見えた。
広大な敷地を抜けてやっと外に出れば、安全保障の関係で五キロメートル圏には何もない空白地帯が広がる。
遮るものがない青い空と、枯れた灰色の大地が続く。
仕事終わりの、いつもの風景。先ほどまで仕事で見ていた、地球の裏側と、何も変わらない風景。そこをただまっすぐ走り、帰路へ着く。