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001『朝帰り』

 私は高校生の頃は、朝まで遊び歩いている事が多かった。


 センパイや友人と共に行っては、バーやクラブで朝まで遊ぶ。


 しかしそれも高校まで。大学に進学してからは真面目に就学して、そこそこ有名でそこそこ安定感のある企業に就職した。


 遊びは十代まで。ハタチを過ぎれば真面目なのが一番楽なのだ。


 私が朝六時の目覚ましで目を開けるタイミングで、このシェアハウスの住人のある人物が帰ってくる。


 若さを謳歌しているのか何なのかは知らないが、私はかっちりと仕事着で身を固めてリビングルームへ降りていく。


 シェアハウスであるこの家はリビングルームが共有エリアになっていて、そこにしかキッチンがない。個々の部屋では原則火気厳禁になっている。


 いつもは誰かしらが朝食を用意している。そこでおこぼれにあずかるもよし、ダメなら会社の入っているビルのコンビニで買っていく。


 今日は、どうやら誰かが朝食を用意しているようだ。


「おはよう」


 声をかけるとキッチンに立つ住人が振り向いた。


 愛らしい顔立ちに嵌め込まれた少し勝ち気な目。少し明るすぎる色に染色した髪は短く、振り向いた拍子にふわりと揺れた。


「あ、おはよう。今日もばっちり決まってるね」


 にこりと愛嬌たっぷりな微笑み。同性が見てもくらりとする。


「営業職だかたね」


「コーヒー飲む? 朝ごはんもあるよ」


 トーストにハムエッグを載せた彼女の朝の定番メニュー。葉野菜をちぎって持っただけの簡単なサラダ。


 私が答えるより先に目の前に並ぶ朝食たち。


 正直に言えば、ここはもっといい家に住むためまでお金を貯めるのを目的に決めただけだった。家賃が破格に安く、一人になる事が少ないため防犯的にもいいと思っていた。


 引っ越し費用などはもう十二分にたまっている。それでもここから離れる事ができないのは、彼女がいるからだ。


 悪い気は微塵もない。


 むしろ上々だ。


 いっそ、彼女も誘ってルームシェアというのも、悪くない。


「ちょっと後ろごめんねー」


 そう言って両手に自分の分の朝食を持った彼女は、私の後ろを通り過ぎていつもの定位置に座った。


 私のついたダイニングテーブルの斜め向かい。そこが彼女の席。


 私は今日も彼女を誘わない。


「ありがとう。いただきます」


 両手を合わせてありがたく頂戴する、彼女の手料理。


 三日に一回ほどの周期で、彼女は夜遅くに出かけ、私が起きるタイミングで帰ってくる。


 何をしているのかは、聞いたことが無い。


 彼女が通り過ぎた後に、かすかな鉄臭さと刺激臭が残っていた。


 私は、何も感じなかったように、トーストをかじった。

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