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追放

 地中歴140年、とでも言えば良いだろうか? はたまたアンダーグラウンド歴140年? 分かりづらいなら、西暦で数えようか。キリストが死んだり生き返ったりの大道芸をかましてからだいたい3020年経った。


 剣士育成学校にも歴史の授業はあった。それによれば、第三次世界大戦で退廃した世界に突如出現した地下迷宮の入り口は、そこから地上の生命力を吸収し、地中深くまで持ち去ってしまったのだという。


 今やコンクリートと枯れかけた植物の根がしぶとく絡みつく世界になりはてた地上で人類は生きていけず、エネルギーの行方を追って地下迷宮の中へ足を踏み入れたのだ。のちにダンジョンと呼ばれるその地下迷宮は、人類が総出で開拓を進めた結果、140年の間に文明を持つまでに成長した。


 一部の宗教団体はダンジョンの出現を、愚かな人類への神の裁きとか、ラグナロク、すなわち終末の時が近いのだと言った。しかし現実はどうか。人類はかつてない栄華を地中世界で築き上げ、新たな可能性を切り開いている。


 すさまじい速度の文明発達には理由があった。ダンジョンの入り口から吸収された生命力は地中で形態を変化させ、別の形で人類の前に現れたのだ。それはかつて地上での生活に必要不可欠だった電気の代替品であるだけでなく、電気よりも遙かに効率のよいエネルギー源となった。


 人々はそれを、魔力と呼んだ……



「――うぁっっっっ!」


 物理攻撃が通用しないゴーストガーゴイルの火炎攻撃に当てられて、俺はダメージを負っていた。


「おいっ、誰か援護を!」


 しかし味方は気づけば周囲から消えていた。どうしたことかと思い、通信機器で連絡を取る。回線がつながり、パーティの面々がニヤニヤと笑っている映像と、その音声が脳内に流れ込んでくる。


「よぉ、エイジ。今何階にいるんだお前」

「五階だ、お前達は今どこに」

「俺たち、もうギルドに戻ってるぜ、ハハっ」

「はぁ!? どういうことだよ! どうして俺を置いていった!」


 今は逃げるしかない、そう思って、洞窟の中を走った。かなり暗くて、周りがよく見えなかった。


「俺たち、もう目的達成したからよ、あとはお前が必死こいて頑張ってるとこ見させてもらうよ、いやぁ、悪いね」

「……俺を裏切ったのか」

「裏切ったも何も、最初から仲間だと思っちゃいねーよ」


 俺は舌打ちをして通信を切った。心の中で悔し涙を流しながら、必要とされない自分が許せなかった。


「うっ」


 地面の突起につまずいて転んだ。背後から追いかけてくるゴーストウルフの吐く炎がそこら中の雑草に燃え移って、あたりが明るくなった。


「――しまった」


 そしてその明かりに気づいたサイクロプスがこちらに向かってくる。挟み撃ちだ。


「くそっ、どうしてこんなことにっ……」


 サイクロプスは俊敏な動きで急接近してきて、緑色の豪腕をふるい、俺を鉄の鎧越しに殴打した。動きが速すぎてガードしきれなかった。


「ぐぁあっ」


 後ろにはじけ飛んだ。安物の防具だったために、鎧は衝撃で砕け散った。俺は壁際でうなだれながら、血反吐を吐いた。


「ちくしょう……、ちくしょう……」


 ――半年前、俺が十六の時、剣士育成学校を卒業した。一年留年して、ようやくの卒業は、ぎりぎりの成績と、教官のお情けによるものだった。


 晴れてギルドへの入場許可をもらい、どこかのパーティに入れてもらおうとたくさんの人に声をかけたが、誰にも相手にされなかった。ギルドでは魔法剣士が主流で、魔法の使えない純粋剣士はよほどの腕がない限り需要がなかった。


 俺は生まれつき魔法が使えなかった。魔力回路に何らかの不具合があると言われ、精密検査の結果、先天性の回路不能障害と診断された。


 貴族、剣士、平民、農民、奴隷。ダンジョンの地下一階、居住区の階級は上から順にこうなっている。貴族は生まれた家の格が貴族位でないとなれないから、多くの若者が剣士を目指す。農民の家に生まれた俺は家族の期待を胸に剣士を目指していた。


 しかし現実は厳しく、魔法剣士でなくては王室直属の騎士にはなれない。純粋剣士はダンジョンで活躍し、名を上げるしかない。


 俺は一生懸命訓練を積んだが、途中でうすうす気づいていた。俺に剣の才能はない。でも、農民として生計を立てるのは時代的にも難しいし、他に希望の持てる道もなくて、剣を振るうしかなかった。


 やっと入れてもらえたパーティでも不遇の時期は続いた。レベルが低いうちから難易度の高いクエストに連れて行かれ、無茶なことをさせられた。それでも最初のうちはみんなと戦えることがうれしくて頑張った。


 でも今回でお別れらしい。俺は役立たずなままダンジョンの地下五階で死ぬ。回復ポーションはすでに使い切った。体力もほとんど残っていない。


 サイクロプスが追撃してきて、剣で防いだが、それでも瀕死の域まで体力を削られて、体が吹き飛び、ぶつかった先の壁が崩落した。


 壁の先は空洞になっていたみたいで、どんどん落ちていく。薄れゆく意識の中で、下を見ると、そこにはどす黒い沼が広がっていた。――最悪だ、これは魔力原液の沼。落ちたら最後、精製されていない禍々しい魔力に飲まれて、命はない。


 俺は最後まで不運だった自分の人生を呪いながら、沼に飲まれていった。



需要があれば書いていきます。

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