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20○○年××月△△日①


私は震える手で退職届を書き直した。


”この度は会社および、共に働く同僚、先輩、後輩、上司、また友達、家族……その他大勢と私わたくしの都合により、()()()()()()()、20○○年××月△△日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。”


これは駄目だ。

こんな退職願はこの世に存在してはいけない。


そりゃ私だって本音を言えば、”お前らのせいで”と思わないこともない。

だけど、そんなことを書いて、どうなるっていうんだ。遺恨を残すだけだ。

私が、書いたばかりの退職願をくしゃくしゃに丸めて捨てようとしたところ、背後から声がした。


「おー、よく書けてるじゃないか。随分と良くなった」


いつの間にか、部長が背後に立っていた。

顎に生えた無精ひげを右手で擦り、さぞ得心したといった表情で私の退職願を覗いていた。


「いえ、やはり部長これは……」

「ただ、もう少しだな。もう少し訂正すればもっと素晴らしいものになるぞ」


ここからまだ訂正するというのか。

悪い予感しかしない。


部長はもしかして私に恨みがあるんじゃなかろうか。

彼にまんまと乗せられて、ここまで退職願を書き直してきたが、部長が私に悪意を持って接しているとなれば、これはもう中断した方が我が身のためだ。


「部長、もうこれで勘弁していただけませんか?私はこれから辞める人間ですが、皆の心証を損ねるのは好ましくありません」


私は部長の目を真っすぐに見つめて、そう言った。

だが、私の予想に反して嬉しそうな顔を満面に浮かべている。


「いい顔だ。やはり、辞めるには勿体ない男だ」


力強い言葉に、心が揺れる。

部長は、普段掴みどころが無くて、人に興味が無さそうにしてる。おかしなことを言いだすのは普段通りだが、今日の部長には凄みがある。


部長は私の肩に両手を置く、ずっしりとした重みが肩にかかる。


「私はね、単純だよ。深読みなんかする必要はない。ただ君に優れた退職願を書いてほしいってだけだ。何故そうするか?それは、これが君の”最後の仕事”だからだ」


部長は真剣だ。人を茶化して楽しんでるような雰囲気は、そこには無かった。









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