電脳転生
鳴り響くアラームに意識が覚醒する。
周囲に浮かぶ岩と見渡す限りの漆黒、この体を襲う無重力感から推測するに宇宙なのだろうか?
遠くで何かが飛び交い爆発が起き、その度に体内から悲鳴が上がる。
体を動かすことは出来ないが、周囲の状況は360度すべて把握することが何故か出来て悲鳴の元を探すとコクピットの中に20代の女性が膝を抱えて震えながら座っていた。
「死にたくない」
小さくそう何度も呟き、泣きながら震えている。
その時俺は彼女を守ってあげたいと思ったが、体を一切動かすことが出来ない。
如何やら俺は、人型ロボットの制御用補助脳の様なモノになっているらしく、彼女はパイロットで敵前逃亡しこの岩礁宙域に隠れているようだ。
この状況では結局彼女は、逃亡の責任を取らされて罰を受けることになる。
だが、俺にはこの体を動かす権限がない。
彼女を助けるためシステムの空いたリソースをかき集めて、そこにこの状況を打開するための機能を構築する。
五分ほどかけて完成した機能を使うには彼女の承認が必要となる。
パイロットルームにいる彼女に呼びかけるためにモニターに文字を表示させてみるが、うずくまる彼女は全く気付く様子が無い。
鳴り響くアラームを止めてスピーカーから声をかける。
酷く機械的な声が出てびっくりした。
「キコエ マスカ」
「え?」
「オチツイテ」
「誰?」
「アナタノ ノル ”ロボット” デス」
「ロボット?もしかしてフェクサが喋っているの?」
この体はフェクサと言う名前の機体らしい。
「ハイ ソウデス」
「えっえぇぇぇぇぇ!!」
「ソンナコトヨリ アナタヲ タスケタイ デス」
「どうするつもり?」
「モニターヲ ミテ クダサイ」
モニターには、オートパイロットモードの起動を承認しますか?と表示している。
「オートパイロット?フェクサにそんな機能有ったかな?」
「サキホド ツクリ マシタ」
「え?」
「ソレヨリモ イソイデ クダサイ
テキキ ガ セッキンチュウ デス」
「え?え?よくわからないけど、承認」
オートパイロットモードが起動し、何処か夢の中のような感覚だったモノが覚醒し全能感が体を包む。
試しに右腕を動かし何度かグーとパーを繰り返して動きを確認し、レーダーに反応が有った機体を視界にとらえる。
「これより敵機との戦闘に入ります。
座席に深く腰を掛けて、Gに備えてください。
準備はいいですか?」
オートパイロットモードを起動したことにより、使用できるリソースが増えた為か先ほどまでと違い滑らかにしゃべることが出来たが、その変化に彼女は目を白黒させながら姿勢を正す。
「それでは、行きます」
岩の影から姿を現して、敵機に向かって飛び出す。
相手は、予想が外れたのか少し慌てたように見えたが、すぐにランチャーを取り出してこちらに狙いを定めミサイルを発射した。
思いのほかゆっくりと迫るミサイルを躱し、相手の懐に入るとスタンスティックを機体の制御中枢と思われるところに突き刺して電気を流す。
敵機はすぐに行動不能になりだらんと力が抜けたように無防備になる。
たぶんこのまま放っておくとパイロットは窒息死することになるだろう。
敵の戦艦目掛けて敵機を放り投げる、運が良ければ助かるだろう。
燃料を確認すると60%ほどしかなく、先程のように全力で動くと20分しか持たない、此方は押されているようで防御に専念しているためアタッカーは俺のみ。
敵機は7機で移動時間を引くと1機にかけられる2分もない。
取りあえず7割ほどの速度で敵の裏側に回り込む様に戦場への帰還を果たすと、最後尾にいた機体の制御中枢にスタンスティックを突き刺して行動不能にする。
3機がこちらに振り向き攻撃を仕掛けてくる。
真ん中の機体だけ色が違うところを見るとリーダー機なのだろう動きも少しだけ良い気がする。
両脇から挟み込む様に2機が接近しながらミサイルを発射しリーダー機が正面から迫ってくる。
迫って来たミサイルをリーダー機に向かって進行方向が変わるように受け流すと慌てた様に盾を取り出し急停止したリーダー機にミサイルが直撃する。
大きな爆発が起き視界が悪くなった隙に右側の機体を始末し、ランチャーを奪い左側の機体にお見舞いする。
煙が晴れたころには、盾と左腕を失ったリーダー機と行動不能になった2機が漂っていた。
リーダー機が何かしらの合図を送ったのか残りの3機も攻撃を辞めて行動不能になった機体を抱えて引き上げて行った。
何とかこの場をしのぐことが出来たが、果たして彼女はどうなる事か。
味方の船に戻ると手厚い歓迎を受けてドックへと戻ることが出来た。
これで何とか、逃亡したことは大目に見て貰えるかもしれないとコクピット内に目を向けると、激しく動きすぎた為か彼女は気絶していた。
このままでは、彼女の功績にはならないと慌てて呼びかけることで何とか目を覚まさせることに成功すると慌ててハッチを開き何処かへと駆け出して行った。
センサーから判断するにトイ………なるほど、彼女の名誉の為にもこの先は知らない方がよさそうだ。
オートパイロットモードの起動を解除し、ドックで休むことにする。
かなり無茶な動きをしたので関節部は、痛んでいる。
ロボットなので痛みはないが、センサーから知らされる異常が大量にある。
忙しそうにメンテナンスをする彼らを見ながら、数時間が立ち船内の時間が夜になったのかドックの明かりも落とされたころ彼女がこっそりと入って来た。
「フェクサ、今日はありがと、これからもよろしくね」
脚に触れながらそう言って、出て行く彼女を見送った。
いつか俺が必要なくなるまでは、サポートしていこうと思いながら。
お読みいただきありがとうございました。
読み返していたら、ロボットの名前がもろに某機動戦士に出てくる量産機の名前と同じだったため変更しました。
響きだけで決めていたのですが丸被りでした。
ネーミングセンスが欲しい。
生成AIに主題歌を作曲してもらいました。
よかったら聞いてみてください。
ランキングタグでリンクを張ってみたけど怒られないかな