表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか醒める久遠  作者: Ayuwan
7章 覚醒
31/36

30話 消滅

よろしくお願い致します。

 ───


 ひび割れた壁のリビングにある小さなソファー。


 そこに俺とクオン。ふたりはお互いの身体を、隣に寄せ合うようにして座っていた。


 ───


「今日はどうする?」


「……そうだね。三日間も離れてたから、今日は……ううん、今はずっとこうしてたい……」


 俺の問い掛けに彼女がそう答え、その頭を、そっと俺の肩へと乗せてきた。そんな彼女の肩に、俺はゆっくりと手を回す。


 それと同時にクオンは身体をこちらへと預けてきた……密着する身体──互いにその温もりを確かめ合う。


 クオンは三日間の空白の時を埋める様に──


 俺は夢の中で感じた胸の隙間を癒す様に──


 そしてそれは今、こうやっている間にも俺達ふたりの間にどんどん広がっていき、やがて満ち足りた幸せという感情に、俺達は穏やかに包まれていく。


 ───


「そういえばさ、夢の中の俺って、何故か恋愛感情が持てない。そんな感じの設定だったけど、あれってなんで何だ?」


「──え?……そ、それは……」


 ……??


 俺のその問い掛けに、なぜか言葉を詰まらせるクオン。


「そ、その……嫌だったの。いくら夢の中の出来事だとしても、君が私以外の誰かを好きになる──そんなの、絶対に嫌だったから……」


 そう拗ねるように言う。


「それじゃ、お前が恋をした事がないってのも?」


「……うん。私も君以外、誰も好きになりたくなかったから──」


 頬をほんのり赤らめ、そして恥ずかしそうにうつ向いた。


 ──ええい! くそ、もうこの可愛い奴め……。


「だけど、そんなに細かい内容の思念は送れないよ。基本的にもっと大雑把なものでしか……だから、その事は多分、そういう意識が、元々君にあったからだよ」


 ??……ごめん、ちょっと良く分からない。


「どういう事?」


「え? 分かんないの?──このニブチン……」


 ──うぐっ! い、いや、もうここは敢えて無自覚とは言うまい……実際そうなんだからな──ぐふっ!


「それは、もう君の中で私、クオンがいるっていう意識があったからだよ。だって、奥さんがいるのに他の女の子に恋愛感情を持つだなんて、そんなの浮気になっちゃうもんね」


 クオンは顔を俺に向け上目使いで言う。そして悪戯っぽく笑った。


「ねっ? そうでしょ?──くすっ」


「……はい。全く仰せの通りでございます」


 そして彼女は俺の口元に、自身の人差し指を押し付けてきた。


「ふふっ、コウはよっぽど“久遠(クオン)”の事が大好きなんだね?──ふふっ、あはははっ!」


 ……やれやれ。やっぱ、彼女には敵わない……俺は顔を赤くし、苦笑いをするしか他に術がなかったのであった。


 ──ああ、ポンコツ野郎よ! 汝にもいつしか栄光の時あれ──!!


「でも私も同じ。“(コウ)”の事、凄く大好きだから──」


 ──ぐっ、ぐふ……俺の安っぽいポンコツの自尊心なんて、もうどうだっていいや……。


 ───


 俺は彼女の身体を、再びこちらへと引き寄せる。クオンもそれに応じ、俺の身体に寄り掛かかってきた。


 そしてふたり静かに目を閉じる。



 ──満たされる。満たされる。どんどん満たされる──



 やがてそれは、“満たされている”という充足感でいっぱいになる。


 あの辛い夢を体験した事も相まって、今のこのふたりの時が、とても幸せに感じる。


 穏やかなこの時間がいつまでも続けばいいと……。


 だけど、目が覚めてから今まで、微かに感じる頭の痛み──そしてそれは、ずっと途切れる事はない。


 “マサキ”──あいつが言ってた言葉が、今思い浮かんでくる。


 もしかすれば、俺にこの世界を消滅させる事のできる特別な何かが、あるかも知れないっていう事を──


 奴は言っていた。あるワードを願い、言葉とすればそれは起こるかも知れないと──




 ──『こんな世界 消えて無くなれ』──



 ………。


 俺はあの時──夢の時の眠りに落ちる薄れゆく意識の中で、どす黒い絶望と感じる感情に負け、心の底からの願望として、そんな言葉を頭の中で口に出してしまっていた。


 もしもマサキが言う事が真実なのであれば、おそらくこの仮想とされた世界は、間もなく消えてなくなってしまうのかも知れない──


 ───


「クオン。お前に話さなきゃならない事がある」


「──うん」


 そして俺は彼女の肩を抱き寄せながら、ゆっくりと説明していく。


  クオンが不在だった三日間。その間に起こった出来事を順を追って言葉にする。


 この集落を狙い襲い掛かってきた、巨大なつがいの怪物が率いる怪物の集団との戦闘。


 そして“虚偽”と名乗った金髪の青年、マサキとの出会い。奴が俺達と同じ能力者である事。


 俺と奴との間であったあの時のやり取り。そして最後にそのマサキが語った、自らの目的とこの世界に於ける奴の仮説──


 クオンは俺に身体を預けたまま、黙ってその話に聞き入っていた。


 ───


「面白い話だね……でも多分、その人の言ってる事は本当だと思うよ」


「──えっ? それじゃ、お前もあいつのような能力。それとも俺みたいな状況に陥った事があるのか?……あの真っ白い空間を見た事があるのか?」


 彼女は小さく頭を横に振った。


「ううん、見た事はないよ……だけど、なんて言ったらいいのかな、映像としての視覚じゃなく、身体で感じ取れるの。私達以外の人や物達。姿や心は感じられるのだけど、その全てになぜか空っぽな、まるで中身のない。そうあれは多分、“虚無”──そんな風に私には感じるんだ。そしてこの世界が壊れていってる──その事にも……」


「そう──なのか……」


「……これからこの世界はどうなるの? 私達ふたりはどうなっちゃうのかな……?」


 ───


 ……何となく気まずい雰囲気になり、お互い言葉が途切れた……もしかして怯えてしまってるのか?


 …………。


「──そうだ! そういえばさ。前にあのつがいの怪物と戦ってた時、俺が例の症状に陥ってピンチになってた時の俺の事、助けてくれたアレって、お前だったんだろ? たくさんの銃が一斉に浮かび上がってさ。とにかく凄かった!──やっぱ、お前はすげーよっ! おかげで助かった……俺の事、ずっと見守ってくれてたんだろ? ありがとな」


 クオンが上目使いで俺の事を見上げる。その顔には少し笑顔が戻っていた。


 ──ああ、良かった。


「うん──遠隔視リモート・ビューイング千里眼クリヤヴォヤンス、それに念動力サイコキネシス──同時に三つも能力を発動させたのは、さすがにキツかった……私、その後直ぐに倒れちゃって、大変だったんだからっ! ホント、感謝してよね!」


 少しふてくされながら、得意気にそう話すクオン。


「ああ、勿論。大いに感謝してるよ。我が愛しの戦乙女クオン様──」


 俺は彼女の手を取り、その甲にそっと口付けをして、畏まる仕草をして見せる。


「くすっ。こんな時にふざけるの止めて……って、何なのそれ──ふふっ、あははははっ!」


「─って! いててっ!」


 クオンに頬をギューっと、つねられた……い、痛い……笑いながらつねるなんて、器用だな! おいっ!


 そしてふたり笑い合った……そんな時──


 ───


 ──!?


 また──“あれ”が始まった。



 頭に割れるような激痛が走り、視界にノイズが生じる。俺の目に映ったクオンの姿が歪んでいく──


 目に入る全ての光景がその象をなくそうとする──


 ……そして意識までもが遠退こうと──


 ───


「──ぐうっ!! くっ……ううぅ……」


「──コウ!? どうしたのっ、しっかりして!」


 クオンの驚愕の声に、俺は辛うじて目を見開いた。そして俺の目に入ってくるその光景は──



 ──俺の直ぐ傍で心配そうな表情のクオン。その彼女を象っているもの以外、全て一面何も存在していない、ただ真っ白な空間──


「──コウっ! コウっ!」


 その空間の中でクオンの上げる声だけが木霊する。


「ぐっ……だっ、大丈夫だ……」


 今回はなぜか頭痛は収まった。だが、いつもと様子が違い、真っ白い空間の時は元に戻る事なく、ずっと続いていた。


 俺とクオン。ふたり以外は何も存在しない──そう思える真っ白な空間。そしてきっと、それはもう二度と戻る事はないのだろう。


「……そうか、もうこの世界は消えて終わっちまうんだな……」


「──えっ? そう……なんだね。コウ……」 


 俺の呟きに、不安気な眼差しを向けるクオン。俺はその彼女の身体を力強く抱き締めた。


 ───


 ──ジ、ジ、ジ……と、まるで音が聞こえる様に、ノイズが俺の視界をさえぎ様とする。そして抱き締め合う俺達ふたりの身体。


 その身体さえも、足元からせり上がるように消えてなくなろうとしていた。


 ───


「クオン……」


「コウ……」


 俺達ふたりさえも最早、消えようとしている……。


 そんな時、不意にクオンは俺から身体を離し、自分の頭へと手を伸ばす。そしてその手にある物を俺へと手渡してきた。


「これはコウ、君が持ってて。ううん、君が持ってなきゃいけない……何故かそんな気がするから──」


 それは例の彼女がいつも付けているスターチスのヘアピン。


「……うん、分かった」


 俺はそれを受け取り、そして再び抱き合った──抱き合いながら、俺の手のひらの上にあるピンク色の花のヘアピンをふたりで見つめる──


 ……気付けば俺達ふたりの身体は、その下半身まで消え去っていた。そしてそれは止まる事なく、ゆっくりと順に上へと迫ってきている。


 そんな中。俺達はふたりして、ただスターチスのヘアピンを見つめていた──


 ───


「大丈夫、クオン。俺達は絶対、次の世界でも逢える──」


 そう言いながら、ヘアピンが乗っている手のひらを彼女の方へと差し出す。そのヘアピンにそっと手を添えるクオン。


「うん、そうだったね。『永久不変』──ずっと変わらない……きっと私達は一緒にいる──」


 クオンは涙を流しながら微笑む。その背中に俺は再び手を回した……その手先さえ、既に消えかけ様としていた。


 ───


「……私、何だかちょっと疲れちゃった……今日はもう、このままこうやって眠ろ──?」


「……うん。俺もなんか疲れた……」


「おやすみなさい──」


「ああ、おやすみ──」



 ──『また、明日』──



 俺の方へと顔を向け、そっと目を閉じるクオン──その唇に俺は自分の唇を重ねた。


 ……抱き締め合いながら口付けを交わす俺達──そして


 

 ──そこからの記憶はなくなった──



 ………………。


 ……………。


 …………。


 ………。




 ──────────




                   ◇◇◇





 

 ──真っ白な空間──


 そこにあった最後の象あるもの。その男女の重なり合った姿が、交わるように溶け合い……そして消えてなくなった──



 ──ジ、ジ、ジ、ジ、ジ──



 最後に真っ白な空間さえも、ブツンと音を立てるように遮断し、消え失せる。



 ──ジ、ジ……ジ─



 ──ブウゥンッ──



 ───



 ──残ったのは何もない。真っ暗な無の闇──



あと二話で完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ