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いつか醒める久遠  作者: Ayuwan
6章 決別
29/36

28話 傷心

今回はかなり短めです。


よろしくお願い致します。

 ───


 部屋に戻ると、スマホに一件のメッセージが届いているのに気付いた。


 ──まさか久遠? いや、それはないだろう……あり得ない。


 案の定、彼女からではなく、差出人は……若葉ちゃんだった。送信時刻はつい先程、俺はその内容を確認する……ただ一言。短い内容のメッセージだった。


 ───


『もう一度会いたいです』


 ………。



 その画面をぼーっと眺めながらベッドの上に腰掛けた。その時にポケットに何か入ってる事に気付く。


 ……ああ、そうだった。久遠から受け取ったんだっけ──ヘアピン……彼女からの最後の言葉になるんだな……。


 ヘアピン。純白の小さな花。彫られたその名は──ブライダルベール。


 久遠と知り合い、色々とその知識を得る為に調べていたので、俺は既にその花言葉を知っていた。


 ──『幸せを願っています』──


 ───


「久遠……」


 俺はしばらくそのままヘアピンの白い花に見入っていた……そしてスマホを操作し、電話をする。2コール目で彼女はでた。


 ───


『……洸……くん?』


「ああ、俺だよ。久し振り、若葉ちゃん……」


『……もう連絡してくれないって思ってた。ありがとう……とても嬉しいよ……』


 久し振りに聞く若葉ちゃんの声──彼女は泣いていた……そして会う約束をする。


 電話を終え、スマホを枕元に置き、俺はベッドに仰向けに寝転がった。


 ───


 久遠が最後にくれたブライダルベールのヘアピン──『幸せを願っています』 


 彼女は俺の事を忘れ、幸せになる。その事を精一杯にがんばると言っていた。そして俺にも自分の事をちゃんと忘れ、きっと幸せになって欲しいと……。


 そうだ、そうなんだ。その事が、別れる事となった俺と久遠。ふたりの中で今もある共通の想い──


 久遠──彼女は幼馴染みの彼と、共にある幸せな未来を目指し、懸命にがんばって生きて行くのだろう。そして俺には……こんな俺の事でも若葉ちゃん。彼女は未だに、また俺の事を求めてきてくれている。

 だったら、今度こそはちゃんと真剣に彼女と向き合い、幸せになる事に一生懸命にがんばろう。努力しよう。いずれそれが若葉ちゃんを幸せにさせ、その事を俺自身、幸せと感じる時がくるのだろう。多分、それが誰かと幸せに生きるって事なんだと思う。


 ──そう信じて……。


 俺は思い出すかのように枕元に置いてあるスマホを手に取った。そして操作し、『一ノ瀬 久遠』──彼女に関する全ての情報や記録を消去する。


 過去と決別する。その為に──

 

 もうこれで彼女と交わる未来はない。これでいいんだ。そして明日から始めよう。幸せになるその事の為に──


 ───


 部屋の明かりを消して目を閉じる……。


「………」


 ───


 ……くそっ……。


 ………。


 ───


 諦めたつもりだった……。


 前向きに生きて行こうと決心したつもりだった……。


 それでも心の中で強く感じる虚しさ。喪失感。


 ───


 閉じた目、暗い闇の中。まぶたの裏に思い浮かぶのは……ピンクの花。スターチスのヘアピンで長い黒髪を止めた久遠の姿。


 ──そんな彼女がやさしく俺に微笑みかけてくる──


「……久遠──」


 俺は天井に向けた目を薄く開けた──視界がぼやけ、涙が目尻の方から下へと伝っていく。


 ───


 やめだ──


 ──もうやめよう。久遠が他の誰かと幸せになる事を願ってるとか、俺が他の誰かと幸せになる事をがんばるとか、そんな事、本当はどうでもいいんだ! 俺はそんなに強くて、できた人間じゃないっ! 他の事なんてどうだっていい!! ただ久遠。俺はお前とずっと一緒にいたかっただけなんだ──!!


 ……そうだ。彼女も確か言ってた。


 “久遠がいない”──これが夢なのならば、醒めてしまえばいい……。


 涙を流しながらまどろみを待った……そしてやがて薄れていく意識──


 ─────


 ──『こんな()()()()()()()()()()()()()!!』──


 その瞬間、失っていく意識の中──俺の身体の中で、何かがピキンと音を立てて壊れた……そんな気がした。


 ─────


 ────


 ───


 ──もう許してくれ。お願いだ!


 ──嫌なんだ……!


 ──こんな思いは、もうしたくないんだ……!


 ─────


 ────


 ───

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