28話 傷心
今回はかなり短めです。
よろしくお願い致します。
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部屋に戻ると、スマホに一件のメッセージが届いているのに気付いた。
──まさか久遠? いや、それはないだろう……あり得ない。
案の定、彼女からではなく、差出人は……若葉ちゃんだった。送信時刻はつい先程、俺はその内容を確認する……ただ一言。短い内容のメッセージだった。
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『もう一度会いたいです』
………。
その画面をぼーっと眺めながらベッドの上に腰掛けた。その時にポケットに何か入ってる事に気付く。
……ああ、そうだった。久遠から受け取ったんだっけ──ヘアピン……彼女からの最後の言葉になるんだな……。
ヘアピン。純白の小さな花。彫られたその名は──ブライダルベール。
久遠と知り合い、色々とその知識を得る為に調べていたので、俺は既にその花言葉を知っていた。
──『幸せを願っています』──
───
「久遠……」
俺はしばらくそのままヘアピンの白い花に見入っていた……そしてスマホを操作し、電話をする。2コール目で彼女はでた。
───
『……洸……くん?』
「ああ、俺だよ。久し振り、若葉ちゃん……」
『……もう連絡してくれないって思ってた。ありがとう……とても嬉しいよ……』
久し振りに聞く若葉ちゃんの声──彼女は泣いていた……そして会う約束をする。
電話を終え、スマホを枕元に置き、俺はベッドに仰向けに寝転がった。
───
久遠が最後にくれたブライダルベールのヘアピン──『幸せを願っています』
彼女は俺の事を忘れ、幸せになる。その事を精一杯にがんばると言っていた。そして俺にも自分の事をちゃんと忘れ、きっと幸せになって欲しいと……。
そうだ、そうなんだ。その事が、別れる事となった俺と久遠。ふたりの中で今もある共通の想い──
久遠──彼女は幼馴染みの彼と、共にある幸せな未来を目指し、懸命にがんばって生きて行くのだろう。そして俺には……こんな俺の事でも若葉ちゃん。彼女は未だに、また俺の事を求めてきてくれている。
だったら、今度こそはちゃんと真剣に彼女と向き合い、幸せになる事に一生懸命にがんばろう。努力しよう。いずれそれが若葉ちゃんを幸せにさせ、その事を俺自身、幸せと感じる時がくるのだろう。多分、それが誰かと幸せに生きるって事なんだと思う。
──そう信じて……。
俺は思い出すかのように枕元に置いてあるスマホを手に取った。そして操作し、『一ノ瀬 久遠』──彼女に関する全ての情報や記録を消去する。
過去と決別する。その為に──
もうこれで彼女と交わる未来はない。これでいいんだ。そして明日から始めよう。幸せになるその事の為に──
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部屋の明かりを消して目を閉じる……。
「………」
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……くそっ……。
………。
───
諦めたつもりだった……。
前向きに生きて行こうと決心したつもりだった……。
それでも心の中で強く感じる虚しさ。喪失感。
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閉じた目、暗い闇の中。まぶたの裏に思い浮かぶのは……ピンクの花。スターチスのヘアピンで長い黒髪を止めた久遠の姿。
──そんな彼女がやさしく俺に微笑みかけてくる──
「……久遠──」
俺は天井に向けた目を薄く開けた──視界がぼやけ、涙が目尻の方から下へと伝っていく。
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やめだ──
──もうやめよう。久遠が他の誰かと幸せになる事を願ってるとか、俺が他の誰かと幸せになる事をがんばるとか、そんな事、本当はどうでもいいんだ! 俺はそんなに強くて、できた人間じゃないっ! 他の事なんてどうだっていい!! ただ久遠。俺はお前とずっと一緒にいたかっただけなんだ──!!
……そうだ。彼女も確か言ってた。
“久遠がいない”──これが夢なのならば、醒めてしまえばいい……。
涙を流しながらまどろみを待った……そしてやがて薄れていく意識──
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──『こんな世界消えて無くなってしまえ!!』──
その瞬間、失っていく意識の中──俺の身体の中で、何かがピキンと音を立てて壊れた……そんな気がした。
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──もう許してくれ。お願いだ!
──嫌なんだ……!
──こんな思いは、もうしたくないんだ……!
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