26話 予感
よろしくお願い致します。
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「──ああっ、しまったっ! 俺とした事が、よりによってこんな日に寝坊しちまうなんてっ!!」
俺は今、いつもの待ち合わせの駅前のベンチへと向かって、全速力で駆けている。
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『全部片付いたよ。明日会おう──』
『その時に、この前の言葉の続きを聞かせて──楽しみにしてる』
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待ちに待った久遠からのLINE。しかも今回は午前中からの一日デートの予定だ!!
──だってのに、ホントに全く俺って奴はよう!!
肩で息をしながら待ち合わせのベンチに辿り着く。
彼女はすでに待っていた。そして俺の姿に気付いたのか、久遠は笑顔で手を上げながらこちらへと駆け寄ってくる。俺もそれに手を上げて応えた。お互い駆け寄り──
そして彼女はそのまま俺の横をすり抜けた。
「え──!?」
何が起こったのか理解できず、俺は呆然とその場に立ち尽くす……やがて背後から、久遠の陽気な声が響いてきた。
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「も~っ、遅いよ! どれだけ待ったと思ってんのっ!」
「悪い悪い、ちょっと寝坊しちゃってさ。許してくれよ。お詫びに昼、奢るからさ」
それに答える聞いた事のない男の声。
俺はその声の元へと呆然としたまま、ゆっくりと振り返った。
「もう、しょうがないな。今日の所はそれで勘弁してあげる─って、とりゃ!」
「おわっ! あっ、あんまりくっつくなよ。恥ずかしいんだからさ……」
「え~っ、別にいいじゃない。なにを今更恥ずかしがってんのよ? もう。くすっ、あははははっ!」
楽しそうに談笑の声を上げるカップル……俺が知らない男の腕に、久遠が自らの腕を絡ませ、そしてその男の肩にそっと頭を寄せる……やがてふたりは歩き出した。
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……何なんだ。これは……?
混乱する頭の中、俺はずっとそのふたりの後ろ姿を見続けている……やがて、ふたりの姿は人混みの中へと消えていった。
「………」
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「──行っちゃったね」
──!?
不意に背後から声が聞こえ、俺は振り向いた。そこには──
グレーのロングコートを纏い、フードを目深に被った人物が立っていた。
余りにも目立つ場違いなその風貌。でも何故か、周囲の行き交う人達は、まるでその人物が目に入っていないかの様に、視界に捉える事なく過ぎ去っている。
フードから僅かに覗いた形の良い唇が動く──
「どうせ、どうでもいいんでしょ?」
誰だ、こいつは?──!! そうだ! こいつは夢の中に出てくるアッシュの相棒の、確かエテルナ……だけど、なんでこんな所に? これは夢なのか?
漠然と俺の中でそう考えがよぎる。そんな中、再び彼女の口が開いた。
「言ったよね? 『仕返ししてやる』って──」
!!…………。
『どう? 今でも“満たされてる”って感じられる?』
……………。
…………。
………。
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◇◇◇
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──ジィリリリリー! ジィリリリリー!
耳障りな音を元気に鳴り立てる二代目目覚まし。その名もめざましくん弐式・改──
……残念だが、朝の彼のようなじゃんけんの技能は、こいつにはない……俺はそれに向かって今、怒りの鉄拳をっ!─って、そうじゃない!
そして俺はその音に目を覚ました。
それにしても──
うげっ! 気持ち悪っ!!……やっぱり夢だったか。しかもよりによってあんな内容だなんて──くそっ! ホントに最悪だ!!
……さて今日も仕事、仕事……はあ~。
気を取り直し、今日という一日を始める為に、支度を終え、そして部屋を出る。
俺が今、この世界でするべき決まり事、“会社での勤務”。それを実行する為に、通勤の電車内で人混みにもみくちゃにされながら、勤め先へと移動して行く。
いつもと変わらない。当たり前とされた日常だ──
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あれから俺と久遠は、二週間以上連絡を取り合っていない。
『待っていて……』
彼女はそう言った。だからそれを信じて、今はただ待っている。
……本当は今直ぐにでもLINEをして近況を知りたい! 電話してその声を聞きたい! 会ってあの笑顔が見たい!
それでもその考えが起こる度に、久遠のあの言葉が思い浮かんできた。
『君の告白を、心からの喜びで受け取りたいから……』
『私、がんばるから……』
『だから、待っていて──』
そして俺は答えた。『ずっと待っている』と──
なら今の俺にできる事、それは彼女からの連絡を待つ。それしか思い浮かばなかった──久遠の事を信じているからこそ。
前に会った時にくれた白い花、アングレカムのヘアピン──『いつまでもあなたと一緒』
それを手に取り見つめる事で、時折不安になる自分を勇気付けた──
彼女と一緒に写したスマホの写真やプリクラ。その微笑む笑顔で寂しさをまぎらわせた──
そうやって、心が“満たされてる”──そう思い込む事に必死に足掻いた。
そんな事を繰り返し、俺はずっと待ち続けている……そして最後に彼女と会ってから一体何日経ったのだろう? 四週間? いや、もう一ヶ月近くになるのかも知れない。
そんなある日の夜遅く、スマホに久遠からメッセージが届いた。内容は──
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『会いたい。話があるの。それと──』
『──ごめんなさい……』
──!!
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連絡が遅過ぎる事に、何となくそんな予感はしていた。
だけど、どうして!……俺達はお互い想いが通じ合えたはず、なのに何故なんだっ!?
……いや、まだどんな事情が? どんな理由があるのか? その事を俺は何一つ知らない。もしかしたら、まだどうにかなるのかも知れない!!
──ええい! くそっ! こうやってネガティブな考えになるのは俺の悪い癖だっ! 取りあえずは……そう──
久遠と会ってからだ──!!




