25話 困惑 そして
よろしくお願い致します。
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フォルスが運転するオフロード仕様車に揺られ、俺は今、自分の集落へと向かっていた。
車内で俺と奴とは、ほとんど会話なく終始無言だった。途中、何度か話し掛けようとフォルスの方へ目を向けたが、敢えて奴はそれを避けるように顔を背けた。
やがて、あの巨大な怪物との戦闘跡──その凄惨な光景を尻目に、俺達はそこを通り過ぎる。そして──
「悪い。ここで降ろしてくれ」
俺のその声に車が止まり、車から降りた俺は、地面に足を着けた。そしてドアを閉める。
ここはまだ集落からかなり離れた場所。その集落に戻る姿を、誰にも見られたくなかった俺は、取りあえずはこの場所に降ろして貰った。ここからは歩いて帰るつもりだ。
そしてその方向へと振り返り、歩き出す──その時。助手席側のウィンドウが開いた。
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「──アッシュ、最後に君にお願いがある。僕達があるべき本来の世界に戻った時、僕は計画を実行に移す。その時、僕の呼び掛けに応じ、協力してくれる事を約束してくれないかな? 君の持つ力は特殊かつ強力だ。きっと、僕達の強い力となる。その事を僕は確信している。返事は別に今してくれなくても構わない。何せ僕達、能力者は他の奴らとは違って、創り出されたプログラムなんかじゃない──実際に生きて考える事ができる人間だからね。気が変わるって事も充分にあり得る……どうだい? 約束してくれないかな?」
「………」
う~ん、どう返事をしよう?──俺は一体、どうしたい?
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「もうこんがらがって、何がなんだか訳分かんねぇよ……でも、そうだな。そんな時がきて、もしもそれが俺にとって必要な事だと感じれば……その時はお前に協力してやるよ。まあ、余り期待しないでいてくれ──じゃあな」
「アッシュ!──僕の名前はマサキ。“マサキ”だっ! 覚えておいてくれ。必ずまた会おう! 再会するその時を楽しみにしてるよ──!!」
その声に俺は振り向かず、手を上げて応えた。
◇◇◇
集落へと戻った俺は、まずケンジと会った。
その時に俺も初めて知ったのだが、どうやらあの戦闘から丸一日が経過しているらしい──という事は、俺はフォルス。いや、マサキの所で、ほぼ一日気を失っていたという事になる……やはりあの現象による症状が、かなり酷いものとなっているのかも知れない。
そして俺は、皆にマサキと出会った事以外の今までの事情を説明して、取りあえずの事態の収拾を図った──今はなんとか自宅へと戻る事ができているって訳だ。
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「そうか、ご苦労だったなアッシュ……それと許してくれ。俺ひとりでは、お前の事を庇いきる事ができなかった……すまん──」
ケンジは俺に対してそう言った。
「そう……うん。分かった」
そして周囲から俺へと向けられる多くの奇異と猜疑に満ちた目……うんざりとした俺は、足早にその場を去った。
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──この集落もダメになってしまったか……そろそろ立ち去る事も検討に入れないとな……あ~あ、やっちゃったよ……きっと、あいつ怒るだろうなあ──
そんな事を考えながら歩いていると、ひとりの女性が道の真ん中に立っていた。
ワカハちゃんだった──
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「アッシュさん。また集落を、私達の事を守ってくれて、本当にありがとうございました──何処か怪我とかしてませんか?」
「ああ、大丈夫、平気だよ。ありがとう」
彼女の表情がパァッと明るくなる。
「──良かった……あの、これまたお裾分けです。良かったら貰って下さい。明日の朝、エテルナさん帰ってくるんですよね? なので少し多めに作ってあります」
それを受け取りながら、俺は礼の言葉を言った。
「いつもホント、ありがと。あいつもきっと喜ぶよ」
そして彼女は恥ずかしそうに、小さくうつ向く。
………。
もしもマサキの言う事が本当なのならば、今、俺の目の前にいるこの子の実態も──命のない創られた偽者。
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「あの、ワカハちゃん。ちょっと俺と握手してくれないか?」
「え?……はっ、はい。いいですよ」
そして俺達は握手を交わした……握り合う手を通じて、彼女の暖かな温もりと脈打つ鼓動が確かに感じ取れる。
「えーと、ごめん。ありがとう」
そして俺は手を離す。ワカハちゃんは何故か顔を赤くして、まだうつ向いていた。
「……私、なんか勘違いしちゃいそうです。アッシュさんにはエテルナさんがいるのに……ふふっ、私なんかが、入る余地なんてないのにね……」
「──わわっ! ごっ、ごめん! 俺、そんなつもりじゃ……」
「うふふっ、大丈夫ですよ。エテルナさんには内緒にしといて上げます」
そう言いながらワカハちゃんは、ニコっと微笑んだ──そして俺達ふたりは、互いに別れの言葉を言い、手を上げる。
「それじゃ、ワカハちゃん」
「はい。じゃ、また──」
手を上げ、どこか寂しげな笑みを浮かべる彼女。
「……アッシュさん。この集落からいなくならないで──きっと、どうかこの場所にいて下さい……」
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ごめん、ワカハちゃん。俺達、もうこの集落にいられなくなるかも……いや、もしかすれば、この世界にさえいる事ができなくなるかも知れないんだ……もしも、そうなってしまったら、本当にごめんな──
だけど、こんな表情をする彼女が、プログラムで創られた偽りのものだなんて……そんな事、本当にあり得るのだろうか?──マサキ。あいつの言う事を信じていいのだろうか?
──もう俺には、何がなんだか全く訳が分からなくなっていた──
◇◇◇
「──はあ~。今日は本格的に疲れた……」
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巨大なつがいの怪物と対峙する事となった悲しく感じる戦闘。
自身の持つ能力の激しい行使。
そして金髪の青年、“マサキ”が言ったこの世界の真実──その事が本当に現実の事なのか?
特に頭に自信がある訳でもない俺にとって、それはとてもじゃないが、自分ひとりで判断するべき事ではない。
今の俺には、そんな事くらいしか理解できなかった。
やがて身心共に疲れた俺は、ベッドの上へと投げ出すように寝転んだ。
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今の俺には何も分からないが、ひとつだけ分かっている事がある──それは俺達がこれから進むべき道。その事に関して、自分ひとりで決定する事はできない……。
大事な事はふたりで決める。俺はそうあいつと誓い合った。そうなんだ──“俺達はふたり一緒なのだから”──
明日の朝、あいつが帰ってくる。よく相談してから決める事にしよう……。
そして疲れきっていた俺は、容易に眠りに落ちる事となった──
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