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いつか醒める久遠  作者: Ayuwan
4章 恋慕
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19話 求愛の狩人 VS 戦乙女ヴァルキュリア

よろしくお願い致します。

 ───


 ──ぱ~っぷ~っ♪── ←脳内に響くクエスト開始の角笛──のつもり。


 ───


 さあ、賽は投げられた! いや、ぶん投げられたつもりで行ってやるっ!!


 俺は電車から降り立ち、決意を強めた。そして歩き出す──いざ行かん、決戦の場へ!!


 ──ん? まだ、きてないようだな。


 周囲を見渡した俺は、取りあえずベンチへと腰を下ろした。


 ───


「──じゃじゃんっ! 召集に応じ、久遠、只今参上致しましたっ!!─って、早いねーーっ、もしかして、そんなに早く私に会いたかったりした?」


「……えっ、え~っと、そういう訳じゃ─って、時間通りじゃん! 会って早々、からかうんじゃねぇよ!」


 いつもの待ち合わせ場所である駅前のとあるベンチ。そこに腰掛けていた俺の肩に、背後から手を乗せ、声を掛けてくる久遠。それに対し、俺は振り向きながらそう答えた。

 

 俺の目に入ってくる彼女の姿──


 黒髪ロングに彼女のトレードマークともいえるピンク色の花。スターチスのヘアピンが、今日もその魅力的な顔を際立たせている。


 デニムのハーフパンツに黒のタイツ。そしてピンクのポロシャツの上に薄目の白いカーディガンを羽織っていた。実に彼女らしい、活発そうなファッションだ……やはり、これはもう何といっても──


 ──かっ、可愛いっ!!──


 ───


 ──ぐふっ! クエスト開始早々、既に俺は彼女の魅力にメロメロだ!──さっ、さすが、戦乙女ヴァルキュリア……その力、実に素晴らしい。


 だが、俺は負けん! 社畜の狩人の名に懸けて!!


 ───


「え~と、こういう時って、男は女に対して、可愛いとか言わなきゃいけないんだよな?──いっ、いや、実際に可愛いんだけどさっ!!」


「─って君、普通そんな事聞く? それにもう可愛いって、言ってくれてんじゃない。でも──くすっ、やっぱりそういう所。何か、洸らしいって感じ……ぷっ──あははははっ!」


 ……はい、どうやら盛大に誤爆した模様です……やっぱ、経験不足の俺には、ちょっとハードルが高かったか……。


 まあ、でも笑ってくれたなら、別にそれでいいや。それに──まだまだこれからだ! 見ていてくれ皆! 俺はリアルに狩人になるっ!! 


 ───


「だけど、洸、確か店の予約って、6時からだったよね? まだ5時過ぎだよ。何処か寄る所でもあるの?」


 頭を少し横に傾げ、不思議そうな表情をする彼女。


 よしっ──“食い付いた”! 


 俺は心の中でほくそ笑んだ。そう、俺はある秘策を用意してあるのだ!


 この瞬間、俺は一介の狩人からその存在を、()の天才軍師、諸葛孔明へと昇華させた──って、ブレブレじゃねぇかっ! 大丈夫かよっ!?


 ──うん、大丈夫!


 多分……。


 ───


「え~と、あのさ、景色が綺麗な場所があるんだ。ちょっと遠回りになるけど、そこを通って、ゆっくり話でもしながら歩こうかなって、そう思ってさ──」


「……ふふっ、いいね、そういうの……じゃあ、早速行こうよ──」


 俺の返事に、久遠はそう答えながら手を差し伸べてきた。俺はその手を、自分でも不思議なくらい自然に掴み、立ち上がる。


 そしてその手を繋いだまま、俺達は歩き出した──


 ───


 何か、少しふざけた妄想をしている自分が、急に恥ずかしくなってきた……。





                   ◇◇◇





「──わぁ~綺麗! 夕日がこんなにはっきりと見える場所なんてあったんだ。私、今まで知らなかったな~っ!」


 ここは少し駅から外れた川の堤防沿いの道。この場所は特に大きな障害物も少なく、この時間帯には綺麗な夕日が拝める事を俺は知っていた。

 そして今、予約の時間までの暇潰しと称して、店まで遠回りとなるその道を、俺達ふたりは並んで歩いている。


 ───


 そうなのだ……この場所へと久遠を誘い、美しい景色の力を借りて、その雰囲気の元、俺は彼女に自身の思いの丈を打ち明けるのだーーっ!!


 これぞ調虎離山の計──用意しておいた俺の取って置きの秘策だ!


「本当に綺麗……」


久遠は再びそう呟きながら、手でその黒い後ろ髪を掬い上げた──チラリと白いうなじが覗く。


 ───


 手を繋ぎ合った男女がふたり、綺麗な夕日に見入ってる……こ、これは、この状況は!?──うおおおおーーっ! これぞまさしく俺が望んでいた絶好のシチュエーション!!


 ──言えっ、言うんだっ! 男、洸──今こそ一世一代の勝負の時!


 戦乙女のハートに、自らの想いと言う名の楔を、今ここで打ち付けるのだーーっ!!


 ───


「あっ、あの……久遠、あ、あのさっ──!」


「──ん、なに……?」


 その声にゆっくりと顔を向けてくる久遠……彼女の頬もほんのりと紅潮させていた。


 いけるっ!──しかも高確率のクリティカルヒットで!!


「久遠! 俺はお前の事が──」


 ───


「──あのーっ、すみませーーん! ちょっといいですか~~?」


 ───


 ──!?


 ……少し離れた所から響いてくる、俺にとっては無慈悲とも思えるその声……そして──


「──あっ、洸、何かあの人、私達の事呼んでいるみたい──えーと、どうかしましたかーーっ!?」


 ───


 「………」


 ──くっ、どうやらこの作戦、失敗となったようだ……。


 将星、五丈原に落つ──去らば、臥竜、諸葛亮孔明。あんたのその尊い犠牲は、きっと俺の糧となって生き続ける事だろう。


 ……って──はああああああああぁぁぁ~~……。


 ───


 声がする方に目をやると、俺達の少し前方で、ふたりの若い男女がこちらに向かって手を上げていた──どうやら俺達に声を掛けていたらしい。


 俺達ふたりは、揃ってその元へと向かった。


 見知らぬ人達、それでもお似合いと思える美男美女のカップルだ。歳は俺達より少し上に見える。


 ……むぅ、これはいわゆる環境不安定による乱入というやつだな? さしずめこの人達は、例の赤い奴と緑のあの娘──うん、つがいのアレですな。


 ───


「あの、何かあったんですか?」


「いえ、大した事じゃないのだけど、ちょうど振り返ったら、あなた方が目に入ったので──少しお願い事、聞いてくれませんか?」


 問い掛ける久遠に、女性の方がそう答える。


「え~っと、取りあえず、それは何でしょうか?」


 今度は俺がそう問い掛ける──少し不審そうな俺の口調に気付いたのか、女性に代わり男性の方が答えてきた。


「ああ、ごめん。急に何か変な事言ったりして──その、ここから見える夕日がとても綺麗だったから、彼女と記念に夕日をバックに写真を撮りたいなと思って……勿論、ツーショットでね」


 そしてそのふたりは俺達に、ニコリと笑顔を向けてきた。


 成る程、そういう事ね──勿論、御安い御用です。


 ───


「いいですよ。それでは、何処で撮りましょうか?」


「場所はここでいいよ。夕日を中央の上側に、その下に僕達ふたりが写る様にお願いできるかな?」


 そう言いながら男性は俺にデジカメを手渡してきた。


 ───


「ちょっと彼女さん、もっと寄り添って……ああ、彼氏さんの方は笑顔が硬いっ、もっと柔らかく──あっ今、いい感じ、いいですか? 動かないで下さいね?」


「じゃあ、いきますよ……1、2、3。はい、チー──」


「──まる“ちーずっ”──!!」


 ───


 ……俺が発すべき最後のチーズ──その言葉を遮る様にして重なる声──


 俺はジト目をその方へと送った──そして目に飛び込んでくる、久遠が頭にその手で、猫耳いや、多分そうじゃなくて、おそらく犬耳のポーズを取りながら立っているその姿──


 やがて彼女は俺の視線に気付き、犬耳ポーズのままこちらへと振り返る──そして目と目が合ったその時。


「──わんっ!」


 ひと吠えする久遠──その後、悪戯っぽくチロッと舌を出し、ニコッとウィンクする。


「くぅぅ~ん……な~んちゃって──てへっ」


 ───


 うぐっ!……がはっっ!!──俺のハートに神槍グングニルが突き立てられる!! 


 ──って、ずるい! それは貴女が所持する物ではないでしょーがっ! でも、やはりさすがは戦乙女ヴァルキュリア──


 ──可愛い奴め、こんちくしょう──!!


 ───


「いい写真が撮れたよ、どうもありがとう。それじゃ、僕達これから直ぐに予定があるので、これで──」


「──どうも、ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げて別れを告げるその人達。


「それじゃ、行こうか──」


「──うん」


 そして手を繋ぎ、歩き出した。


 ───


 ……うん、何かいい感じ、幸せそうだな……。


 やがて、そのふたりの姿は消え去ってしまった──しばらく過ぎ去った後も、何故か呆然としている俺達。


 ───


「──あっ、洸、もうこんな時間!」


「げげっ、やばっ! もう過ぎちゃってる!」


 そして予約している店へと、足早に向かう俺達の姿があるのであった。


 ───


 かくして──


 クエスト名 現世に現れた戦乙女、ヴァルキュリアのハートを掌握せよ! 第一回目の挑戦は、俺の完全敗北となってしまったのであった。


 だが、しかしまだ一乙──俺の戦いはまだまだこれからだっ!!






                   ◇◇◇






「ようこそ、いらっしゃいませ。御予約されてた神崎様ですね? どうぞご案内致します」


 和服姿の店員に先導され、予約していた座敷部屋へと向かう。


 ───


 えっへんっ! 今日は奮発して高級和食店にしてみました~!


 ふっふっふっ……今日という日に、俺がどんな心意気で挑んでいるか、その覚悟。これでお分かりになって頂けたであろうか?


 命運は全てお前の手に掛かっておるぞ! 愛の狩人、洸よ!!……いや、愛の狩人ってのはやめとこう……そ、そのっ……小っ恥ずかしいから……あううっ……。


 そしてその部屋へ辿り着き、店員が座敷部屋の引き戸を開け、俺達を中へと招き入れる──畳張りの広めの和室。そこに横に並べて置かれてあるふたつの長方形の座卓。


 どうやら相部屋のようだ。その座卓のひとつには、既に一組の男女が席に着いていた。


 ───


「──あっ! 君達は!?」


「──えっ! まさか、あなた達は!?」


 ───


 そこにいたのは──例の、赤いき○ねと緑のた○き──


 じゃなくて、先程堤防沿いの道で出会い、写真のやり取りをした、あの美男美女のカップルだった。


 ───


「こんな偶然ってあるんですね! あっ、先程は素敵な写真、どうもありがとう」


「いえいえ、そんな大した事はしてませんよ。でも、本当に凄い偶然ですね!」


 礼の言葉を述べてくる女の人にそう答えながら、俺達ふたりは隣の座卓にそれぞれ向かい合って座る。


「え~と、おふたりは恋人同士なんですか?」


 何となくその事が気になっていた俺は、そう二人に声を掛けてみた。


「ちょ、ちょっと、急に失礼でしょっ! 洸っ」


 久遠が慌てたように小さな声で俺に呟く。


 えぇっ!──何かまずかった?


 そう考えていると、男の人の方が大きな笑い声を上げた。


「──ははははっ! 別に構わないよ、君達にはさっきお世話になったし……え~っと……」


 あっ、そっか、俺達って、互いにまだ名乗ってなかったな……。


 それに気付いた俺は、座卓の上に置いてあった注文用紙の裏に自分と久遠の名前を書き込む。その意を汲んだのか、男の人の方も同じ様に紙に何かを書き込んでいた。そして、それをお互い交換し合う。


「──神崎 洸くんと、一ノ瀬 久遠ちゃんね」


 女の人がその名前を確認する様に、声に出して読み上げた。


 こっちは、えーっと……。


 久遠とふたり、その書き込んである文字を覗き込む。


 ──『綾小路(あやのこうじ)  露弥(ろみ)樹里(じゅり)』──


 そう書き込んであった──



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