17話 ロミオとジュリエット
よろしくお願い致します。
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──そこは薄暗い場所だった──
まるでSF映画やアニメなどで良く目にする世界の終わり──そんな世紀末を彷彿とさせる光景。
そしてそんな世界の中にある荒廃した大きな建築物。それはまるで廃墟の様だ。その建物の薄暗い内部を地下へと向かい、ふたつの人影が歩いていた。
ふたり共、グレーの色をしたフード付きのロングコートを纏い、フードを目深に被っている為、その容姿までは確認できない。
共に手に長銃を持ち、言葉を交わす事なく、ただ地下へと続く階段を黙々と下り進んでいる。
──内部はまさに地下迷宮、ダンジョンの様だった。
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……何だ、これは? もしかして俺は、まだ夢を見ているのか……?
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そう自覚する俺の意識があった。
ふたりはそのまま地下に進んで行き、やがて大きな広い空間へと辿り着く。
そこに信じられない様な光景が広がっていた──
数え切れない程の異形の怪物。そのほとんどが赤黒い体色をし、赤い血管のような筋をびっしりと浮かせている。獣のような者もいれば、人間と思わせる形の者もいる……不気味で異様なその光景に、俺は恐怖を感じた。
……いや、恐怖と感じたのはそれとは別の理由があったからなのかも知れない。それは──
それら、数え切れない程の怪物の群れ。全てが何かを取り囲む様にして、まるで眠っているかの様にその動きを止めていた。事実、本当に眠っているのかも知れない。
そして、それらが囲む中央に──“それ”は……。
──いた。
どぐろを巻いた巨大な蛇を連想させる怪物の姿が──
多数の怪物がまるでその姿に付き従うように、円陣を組んで取り囲んでいる。そしてその中にいる、どぐろを巻いて鎮座する巨大な怪物の姿。
その様子も呼吸の為なのだろうか? 身体の一部が微かに上下と動くだけで、他の怪物と同様、動き出す気配はなく、死んでいるかの様に眠っている。そう見受けられた。
「……何なんだ。こいつは……?」
ふたりの人物の内、ひとりが小さく呟きながら頭に被っていたフードを下ろした。
隠れていた顔が顕になる。
アッシュブロンドの髪をした少し幼いが、整った顔立ちのおそらくは青年──その目は鋭い眼光を放っていた。
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……確か、こいつの名前はアッシュ……そうか。こいつは夢の中の俺だ──!
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俺という意識がそう認識すると共に、俺の視点がアッシュと言う名の青年の視点へと変わった。
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不意に誰かが、俺の肩を軽く叩く。
振り向くと、アッシュと行動を共にしていたもうひとりの人物だった。その姿はまだフードを目深に被っているので、顔までは確認する事ができない。が、僅かに覗く口元から女であろう事は予測できた。
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誰だこいつ。しかも女……俺、見た事ないんだけど……ん~そういえば、夢の中でアッシュがよく口にしていた自分の相棒ってこいつの事なのか? 確か名前は──エテルナだったっけ……?
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そんな事を考えていると突然、その女が無言で見上げ、ある場所を指で差し示した。
「……ほら、あれを──」
そう小さく声を発する。やはり女の声だ。その声に応じ、アッシュはゆっくりと顔をその方向へと向ける。
そこには蛇の怪物。その上方に生える様に突き出している、人間の男と女の形をした、ふたつの上半身の姿があった。ふたつのそれは赤黒く不気味な雰囲気を醸し出しながらも、互いのその造形はとても美しい。
そしてその上半身だけの男女が、お互いを求め合うように、抱き締め合いながら目を閉じていた。
頭である身体がふたつある双頭の──“つがい”の怪物。
やはりそれは眠っている様に感じられる……まるで二人の永遠の安息の時を慈しむ様にして──
しばらくの間、それに目を奪われる様に呆然と立ち尽くす、アッシュともうひとりの女。
「……多分、大丈夫、これは眠っている。放っておいても安全だと思う。逆に下手に手を出さない方がいいよ……さあ、もう行こう……」
女のその声に上を見上げたまま、軽く頷いて答えるアッシュ。
やがてふたりはこの場を立ち去ろうと歩き出す。
歩いてる途中。急にフードを被ったままの女が立ち止まり、再び怪物の方へと振り返った。
『あのふたり、互いに愛し合ってる……とても幸せそう』
……………。
『きっと、満たされてるんだ──』
……………。
…………。
………。
──────────
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──ジィリリリリーッ、ジィリリリリーッ──
いつもの、聞き慣れた音が鳴り響いてきた。
ガバっと俺は上半身を起こす。
「──うおっ!! 俺は洸っ! 神崎 洸だっ!……アッシュじゃないよな? そうだよな?──あーーっ! もう、どっちだったっけ……って、わっきゃ~~っ!!」
少し混乱している俺は、放置して鳴り止まない目覚ましへと目を向ける。
時計の針は午前6時を指していた。周囲を見回すと目に飛び込んでくるのは、代わり映えのない安アパートの我が部屋──
「はあああああぁぁーーっ! 良かった。夢で……」
……それと──
「──やっかましいわっ!!」
俺は目覚ましに正拳突きを御見舞いしてやった。
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……いっ、痛い……ぐすん。




