16話 新たなる影
よろしくお願い致します。
───
強烈な咆哮を放った後。その異形の王は、怒り狂った様に身体から複数の触手を伸ばし、叩き付けてきた!
触手による連続攻撃──俺はそれを次々とかわしながら、念動力によってひとつひとつ潰していく。
皆が脱出する──その時間を稼ぐ為、銃による攻撃を男の上半身に、『能力』による攻撃を迫ってくる触手に、それぞれ対応し、往なしていく。
──やがてケンジ達、生存者を乗せた複数の車輌が去って行くのを俺は確認した。
───
手にした銃を放り投げ、代わりに愛用のサバイバルナイフを取り出し、刃先を出す。そして念じた──『能力』を使う為に。
───
「………」
低い音と共に右手に発生する青白い光の剣。それを振りかざしながら怪物の元へと駆け出す──行く手を遮る怪物の触手を次々と溶断し、最後にその身体に剣を突き立てた!
──ジュッと、肉が焦げる音と匂いが感覚として伝わってくる。
そのまま突き立てた剣で横へと切り裂き、再び身体へと突き立てる! 次に俺は剣を持たない左手のひらを、前に突き出して『能力』を行使した。
左手の先から一直線状に伸びる青白い光線!
怪物の身体がその光線によって貫かれ、傷口が超高温の熱で焼き爛れる! そして光線を放ったままの手を、怪物の身体を切り刻むかの様に、ゆっくりと移動させ、交差させていく。
右手に持つ光の剣、左手からの光線、その攻撃により、怪物の肉体はことごとく破壊され、終わりに──
──ゴトリ。 そう音を立てて、俺の足元に焼き切られた男の上半身が落ちてきた。
……切断された男の上半身は、まるで地面から生えている様に直立している。
そんな光景の中、また俺と怪物の男の目が合った! その瞬間、再び割れるような頭痛に目が霞み、最早立っている事ができなくなっていた。
「──ぐっ! ぐうぅぅ……」
片膝を着き、地面に崩れ込む。
───
……くっ! よりによってこんな時に──こいつはまだ死んだ訳じゃない!……まずい! このままじゃ……。
──ジジジと、音が聞こえる訳ではないが、そんな音を連想させる様に視界にノイズが生じ、目に入る光景が歪んでいく……その歪んでくる視界の中、俺の方へと向かい、伸びてくる怪物の触手の姿が……。
───
──くそっ! ここまでか! もう無理っぽいな──お前は……お前は、許してくれるか……?
俺は心の中で無念と、先に死んでしまう事になるかも知れない……その事に対して、あいつに謝罪の言葉を思い浮かべた。
─────
『──ダメっ!──そんなの、絶対に許さないっ!!──』
─────
……そっか。やっぱ、お前は許してくれないか……って──なっ、なんだ今の声は!?
───
その直後、誰もいないはずの周囲から銃声が轟いてきた!──ひとつではなかった……ふたつ、みっつ──いや、もっとだ!
一体誰が? まだ生き残ってる奴がいるのか?
俺は頭痛に耐えながら周囲を見回し、今の状況を確認する。
「──!!」
──そこには俺の周りを、それこそ俺の事を護る様にして、さまざまな種類の多数の“銃だけ”が、まるで意志の持つ者の様に、それ単体で宙に浮いていた。
おそらく死んでいった男達が手にしていた銃なのだろう。
それらが俺の周囲で浮遊し、全ての銃口を怪物へと向けている──そして独りでにトリガーを引き、一斉にその銃弾を怪物に浴びせていた!
「す、すげぇ……」
──こんな凄い芸当やってのけるのは、あいつしかいない。
あいつは今、遠く離れた場所にいる筈……でも、そうか、俺の事。ずっと見守っててくれたのか……それで今は何処かで、俺の事を助けようとしてくれてるんだな……。
全く、どんだけ反則級な『能力』なんだよ……末恐ろしいわ……。
──やっぱ、あいつはスゲーな!!
それに勇気付けられた俺は、頭に続く激痛に何とか耐え、そして立ち上がった。
怪物の本体である蛇の様な身体は、もはや先程の銃撃により、粉々にただの肉片と化していた。
今、俺の目の前には地面に立つ上半身の男。その姿だけがあった。
──っ!?
……また、再び視界にノイズが走る──目に入る光景が、歪み始め様とする……。
──上半身の男が言葉を発する為、静かに口を動かした。
─────
『──ジュリ……ボクハココダ……キミハ、ドコニ……?』
───
頭に直接響いてくるその声に、俺は意識を朦朧とさせながらも、ある一台の車輌を探しに歩き出す……そして何とかそれを見付け出し、その車輌からある物を取り出した。
……そのまま、よろよろとした足取りで、上半身の男の元へと向かう。
───
──ジジジ……また。視界が歪む──
─────
『──僕はロミ、ロミだ……ああ、愛しのジュリ──君は今、一体何処にいるんだ……?』
俺は手にしていた物を男へと手渡した。
男へと手渡したのは、彼の半身である女の怪物の亡骸……。
男はそれを愛おしそうにその両腕で抱き締めた。
……俺の視界から世界がなくなり、残ったのは平面すらない。ただ、真っ白なだけの空間──
その中でふたりの赤くて黒い、男女が抱き合っていた。
───
『──ああ、ジュリ! ジュリ!……やっと逢えた。やっと僕の元へと帰ってきてくれた……もう二度と君の事を離さない……例え死んだとしても、僕達はずっと一緒だ──そう、久しく、永遠に──』
……そうか、こいつも俺と同じだ。ずっと愛しい者の事を追い求めてたんだ─って、えっ!?── 一体、誰の事なんだ──?
そしてその怪物の男が口にした言葉を最後に、抱き合うふたりの姿も溶け合う様に絡まり、遂には消え失せる。
真っ白な空間。残されたのは俺、ただひとり──やがて、俺は前のめりにくずれ落ちた。
───
──だんだん意識が遠退いていく──
俺は目を閉じた──
───
ふと何か、足音が近付くのを感じ、俺はかろうじて目をこじ開けた……ぼやける視界の中、自分以外誰も存在しない筈の真っ白なこの空間の中で──
───
「やあ、やっと会う事ができた──僕は君にすごく興味があるんだよね」
………。
「歓迎するよ、特別な“力”を持つ『能力体』くん──さあ、じゃあ行こうか」
──ひとり、誰かがが立っていた──もうそこまでが限界だった。
───
──こいつは一体、誰なんだ?
─────
────
───
そして俺の意識はなくなった。




