15話 ──求める者
よろしくお願い致します。
───
戦闘は始まった。
集落から離れた瓦礫となった荒野──
その場所で今、俺達は異形の群れと対峙していた。多方面から複数の銃声が鳴り響く中、時折手榴弾による爆音も交じり、数ヶ所で爆風が舞い上がる。
大型化した犬や猫と思われる原形を、辛うじて留めた四足歩行の怪物。その中に猪や熊、それを彷彿とさせる巨大な者の姿も見受けられた……そしてそれらを先鋒に押し出し、ゆっくりとこちらに迫ってくる──“人型”。
その忌々しい姿も──
まさに多種の怪物、『変異体』の群れ。
それら異形の集団に向けて、横殴りの銃弾の雨が浴びせられる!
飛び散る怪物の赤い体液と、湿った赤黒い肉の欠片!!
……だが、奴らはそれを受けて、どれだけ身体を欠損させても、“移動する事ができる”──それが可能な限り、何度でも起き上がり迫ってくる。
容赦なく浴びせられる銃弾。そしてそれは続けられ、休む事はない。
やがて『変異体』達は動きを鈍らせ、その数もすり減らされていく。
「よし、いいぞ! そのまま前からすり潰していけ! ありったけの弾丸を食らわせてやれ!!」
ケンジの号令の声が響く。だが、その銃弾で倒れた『変異体』の隙間を、掻い潜るようにして迫ってくる新たな『変異体』──その複数の影に対応が間に合わず、銃を乱射していた男達の悲鳴が辺りに響く。
「──ぎゃああああぁぁーーっ!!」
「ひっ──ひぃいいいいっ!!」
「──がっ!──ぐああああぁぁーーっ!!」
ある男は喉元を食い破られ、ある男は胸を鋭い爪で切り裂かれている。
俺自身も銃撃で奴等を蹴散らしながら、持つ『能力』のひとつ、念動力 ──(念じる事によって敵を内側から破裂させる)を行使しているが、如何せん数が多過ぎた──とても護り切れない。そもそもこんな大規模な、対『変異体』戦自体、未経験なのだ。
「せめて、あいつがいてくれれば……」
思わず、そう呟いてしまっていた。
俺の念動力 は、まず、対象となる物を視覚に捉え、次にそれに対して念じ、発動させる──そう、即ち各個撃破しかできないのだ。
今は銃弾を放ち続けながら、視線を目まぐるしく動かし、個別に撃破していく──それをひたすらに繰り返していた。
でも、あいつは対象を視覚に捉える事なく、頭の中でその存在を感覚として認識し、そして複数のそれらを同時に一瞬にして破壊させる──そんな『能力』を持っている。また、見るだけで瞬時に発火させ、対象となる者を焼き尽くす発火能力 なんて“力”まで使いこなす事も……。
だが、圧倒的“力”を持つあいつの姿は、今この場所にはない──
「──ぐはっ! ぐがぁあああああーーっ!!」
俺の近くでまたひとつ、大きな絶叫の声が響いてくる!
───
……ちっくしょうっ! もうこうなったら俺が『能力体』だって事、バレても仕方がないっ! 青白い光線──俺のあの『能力』を直接叩き込んで、全て焼き尽くしてやるっ!!
───
俺は銃を左手に移し、右手のひらを前へと突き出した! その時──
「全員、装甲車のバリケードまで退避!! 早くしろ!!」
ケンジの大きな声が聞こえてきた──その指示に従い、俺は右腕を戻しながら振り返り、そして全速力で駆け出した。
「バリケードの内側に潜り込め! 入り込んだ奴から順に銃座の機関銃を使って、奴らに鉛の洗礼を食らわせやれっ!!」
ケンジ声に応じるように、やがて轟音と共に、前方の視界が霞むほどの弾丸の嵐とおびただしい数の薬莢。
──装甲車や戦闘車輌からの重機関銃やガトリングガンが各個、火を吹く──!!
耳をつんざく音がずっと鳴り響き、土埃が舞い上がる──しばらくの時間が続き、そして──
「──やめいっ! 止めろ! 銃撃一時停止だ!!」
ケンジの放つその声に、一斉に攻撃の手が止まった。
……前方は土埃や立ちこめる硝煙によって、全くといっていい程に視覚による確認ができない。
そして徐々に視界が晴れていく……こちらに向かってくる者の影は、見受けられなかった。
「やったか?」
「ああ、どうやらその様だな……」
辺りから男達の声が聞こえてくる。
……本当にやったのか? そう疑問に感じる俺……その直後!
「なっ、何だっ!──ぐっ、ぎぃやああああぁぁーーっ!!」
「どっ、どうしたっ!──うっ、があああぁぁーーっ!!」
男達の響き渡る絶叫の声と共に、俺の目に黒くて太い何かが、飛び込んできた。赤黒く太長い触手の様な物──それは未だ鮮明でない前方から姿を現し、こちらへと伸びてきていた。
複数のそれらは、男達の身体に絡み付き、その身を捕らえる。
次々にがんじがらめにされ、自由を奪われた男達は、その触手の力によって空中へと持ち上げられていく。
その間にも黒い触手達は地面を縦横無尽に駆け巡り、装甲車で作られたバリケードを横殴りに破壊する!
「くそっ! 例の化け物か!──いけいけっ! パンツァーファウストだ!!」
どうやらケンジは無事らしい。彼の声が響く!
敵の姿はまだはっきりと捉える事ができないが、前方に何か大きな影が揺らめいているのが確認できた。
その影に向かい、複数の弾頭が音を立てて飛んで行く。
そして“何か”に着弾し、轟音と共に爆発が起こる!
「──どうだ! くたばりやがったか!?」
新たに発生したその硝煙により再び視界が遮られ、ボンヤリと捉える事ができていた巨大な影が、完全に視界から消える事となった。
…………。
反応はない。今は皆、視界が回復するのを待つ……。
……漂っていた硝煙が消えてゆき、徐々に視界が戻ってくる……そして前方の視界が鮮明になったその時、俺の目に映った者──
──赤黒い体皮を持つ巨大な大蛇──そう形容しようがない者が、どぐろを巻くようにして鎮座していた。
その上半身は、まるで突き出る様にして飛び出す数多くの獣、または人間の腕や脚、飛翔能力はないであろうが、鳥の様な大きな翼までもが見受けられた。
まさに異形。
そして巨大な『変異体』の“王”──それを連想させる禍々しいその姿──
……間違いない。こいつはあの時に見た双頭の怪物だ──だったら、今こいつは……?
俺はそれを確認する為、怪物の上方へと目をやる。かつての頭部、男の上半身と女の上半身があった場所には……予測通り男の上半身しか存在していなかった……かつてその姿があったであろう場所には、ポッカリと引き千切られ、えぐられたかのような空洞が確認できた。
一瞬、俺の目と怪物の男の目が合う。
──悲しみと怒りに満ちた目──そう感じた。
……こいつは自分の半身を取り戻そうとしてるんだ。ただ、それだけを求めて……そしてその半身である女は集落に縛り付けられていた。こいつに襲わさせるために……。
一体誰が? 何の目的で?
「──ぎぃやああああああーーっっ!!」
俺の思考を中断させるかの様に悲鳴が木霊し、辺りから複数の絶叫が響いてくる!
触手によってがんじがらめに宙に浮かされていた男達の身体が、その締め上げる力によってバラバラに引き千切られる!
黒い触手が、蛇の様にのたうつ!
目の前で繰り広げられる悪夢のような光景。
ふと周囲を見渡すと、ただ呆然と立ち尽くしているだけのケンジと生き残った男達の姿が──
「ケンジさん! 生き残った者を集めてここから直ぐに逃げてくれっ! 早く!!」
俺はケンジの元へと駆け寄り、その身体を無傷な状態を保っている装甲車の方へと押し出した。
「……ああ、分かった。だが、アッシュ、お前はどうするつもりだ?」
「心配無用! 俺は強い。ケンジさん、俺は腕利きの優秀なトレジャーハンターなんだろ? 大丈夫、絶対に死にはしないさ。それでこいつも俺が殺る……だから、先に帰っててくれ」
「おっ、お前、一体何をっ……!?」
その時、俺と会話中だったケンジの不意を突くように迫ってきた怪物の触手!──その攻撃が届く寸での所で、俺は念動力によって、それを破壊した。
──赤い怪物の体液がケンジの頬をかすめる。
「……だから言っただろう? 俺は強いって──それに無茶はしないよ。後でエテルナにどやされる方のが怖いから……あいつをひとりぼっちになんて、できやしないからさ」
そう言いながら、俺はニコっと笑顔でケンジにサムズアップして見せる。
「……ああ、分かった。もう深く詮索はしない……だが、アッシュ。必ず生きて帰ってこい!!」
ケンジはそう言うと、早速行動の為に動き出した。
その後を追う様にして蠢く黒い触手。
俺はその触手を『能力』で破壊し、続けて巨大な怪物の男の上半身に向けて銃弾を放った!
「──お前の相手は俺だっ!!」
怪物の男の怒り狂う目が、俺を捉える──
───
『……ジュリ……ヲ──』
ギラリと猛る瞳。
『──カエセッ──!!』




