14話 求められる者と──
よろしくお願い致します。
───
え~と、さて今日は一体どうしようか?
──そうだ! 昨日の場所にもう一度行ってみるか。それなら取りあえずは、まずはトラックだな。
そう思い付き、俺は自宅である建物から外に出て、集落の中をひとり歩く。
───
相変わらず半壊した建築物が立ち並ぶ、まるで廃墟のような町並み──そんな中、前方に複数の人影が確認できた。
──長銃などで武装した五人の男達。
その中央にいる、スキンヘッドにサングラスをした男が俺に気付き、手を上げてきた。
「よう、アッシュ。ちょうど良かった。今からお前に連絡しようと思ってた所なんだ」
そう声を掛けてくるその男。
日焼けした黒い肌に長身でガタイのいい、なかなかの渋メンだ。この集落の自衛武装集団。そのリーダーである、ケンジと言う名前の男だ。
え~と、確か年は40くらいって言ってたか。
それにしても、相変わらず溢れんばかりの男臭──くっ、その無駄に多いオッサン臭さが逆に羨ましい……ちょいと俺にも分けてはくれまいか─って……。
──うきゃー! 違う、そうじゃないっ! 俺にソノ気はないっ! 俺はメチャクチャに女が好きなのだっ! 至ってドノーマルな健康優良児なのだーーっ!!
………コホン。
……もうこの話は置いといて……ケンジさん、今日もその見事なスキンヘッドが、光の反射で眩しいぜっ!!
──ってそうじゃないだろっ! もういい加減話が進まねえぇ~~っ!!
「え~と、ケンジさん。俺になんか用?」
その俺の声には答えず、ケンジは振り返り、無言で歩き出した。その後に続く四人の男達。そして──
「アッシュ、お前は腕利きのトレジャーハンターだ。色んな場所へと飛び回って、その知識も俺達より豊富だろう……付いてきてくれ。お前に見て欲しいものがある」
どうやらふざけている場合ではなさそうだ……。
その声に応じ、俺はその後を追って行った。
───
廃墟の様な街の中を、奥へと真っ直ぐに進んで行く。辺りに人の気配は少なく、とても静かに感じた。
そして進むにつれ、それは完全になくなる。やがてひとつの場所に辿り着いた。
集落の奥深く、外れにある開けた場所。この集落に住み着いて間もないが、初めて知った場所だ。そこに十数人の武装した者達が、何かを取り囲む様に集まっていた。
その集団が周りを囲んでいるそこには──
高さ十四、五メートルだろうか。何か鉄塔の様なものが立っていた。そこにいる者、全員がその鉄塔を見上げている。
そして近づくにつれ、明確となるその姿と音。
──ビタン、ビタンと上方で何かが打ち付けられている……そんな音がずっと続いていた。
俺は確認する為、音がする方へと視線を上に向けた。そこに──
──鉄塔の先端より少し下、半ば付近に、何かが 鎖のような物でがんじがらめに縛り付けられていた──
美しい女性の上半身を象った、赤黒い怪物。
だが、その下半身はなく、断面から複数の細い触手が、うねうねと蠢いている。そしてその身体全体は、ヌラヌラとした体液の様な物で湿らせていた。
それが、縛りつけられて苦しいのか、または束縛から逃れようとしているのか……ただひたすら、狂った様にして自らの身体を、鉄塔へと打ち付けている──その度に大きな音が周囲に響き、赤い体液が撒き散らされていた。
………。
──おぞましい。が、なぜか悲しい……そう、俺には感じられた──
───
「今朝早くに見付けた。昨晩にこんな物はなかった筈だ。という事はそれ以降に、この化け物がここに縛り付けられたって事になる。今の所目撃者はいない……どうだ、アッシュ。アレに見覚えはないか?」
そのケンジの言葉に、俺は縛りつけられている怪物へと意識を集中させた。
下から順に視線を上へと送っていく。
断面から飛び出る触手。赤黒くも美しい、女性の上半身と細い両腕──そして頭部へと視線が辿り着く。
──やはり美しい。そう感じる女性の頭部。その口からは奇声だが、何か言葉を発しているように感じた……。
そしてその怪物と──
──彼女と目が合った!!
瞬間。頭に衝撃が走り、激しい頭の劇痛へと変わる──ジジッ、ジジッと目にする光景にノイズが生じる……視界に入る全てのものに色がなくなり、形が歪んでいく──
「くっ!……ぐぐっ……また……これか……」
この自分に起きている現象に、俺自身自覚があった。今回が初めてではない。ここ最近何度も体験している……もうこれで何度目だろうか?……だが、今までの経験上、少しの間それに耐えれば直ぐに正常に戻る筈……。
だが……今回に限って未だそれは終わらない……。
やがて、俺の頭の中に怪物の……彼女の発する声が、言葉となって感じ取れた……。
─────
『……ワタシ……ココニイル……』
その言葉はより明確に感じ取れるようになっていく。
『……ああ……ロミ、ロミ……どこにいるの……?』
そして──
「──おいっ! アッシュ! どうしたっ しっかりしろっ!!」
そのケンジが俺に言った言葉を最後に、世界は真っ白となる。
─────
──何もない。真っ白な空間。
その中に俺と彼女、赤黒い上半身だけの怪物。ふたつだけの姿があった。
彼女はずっと、口から言葉を発し続けている。その美しい顔は悲痛に歪み、まるで見えない誰かを求めているかの様だった。
『……ジュリ、わたしはジュリ……あぁ、ロミ。あなたの姿が見えない……あなたの声が聞こえない……あなたのぬくもりが感じられない……』
彼女の、赤黒い怪物の目から涙が溢れ落ちる。
『……きて……わたしの所にきて……ロミ。わたしはあなたと……離れたくないの……』
──真っ白な空間の中。彼女が口にするその言葉に、俺はただ立ち尽くし、聞き入っていた……。
そして……その怪物の姿さえも、歪んでゆき、消えようとする……。
─────
そんな時、突然銃声が鳴り響いた──!
頭に銃弾を受けた彼女の顔が、まるで信じられない──そういった驚愕の表情に変わり、大きく目を見開いた。そして呟く……。
『──あぁ……ロ……ミ……』
その声と同時に、俺の頭の中で目も眩む様な閃光が弾け、消え失せた。
……そして俺の視界に再び世界の光景が戻る。その戻った視線が捉えた先には……。
「──やめろっ! そいつを撃つなっ!!」
……だが、間に合わなかった。俺が放った声が大量の銃声によってかき消され、同時に鉄塔に縛りつけられている彼女へと、下方から弾丸の雨が浴びせられる。
赤い体液と肉片が辺りに飛び散り、やがて美しい怪物は動かなくなった──
───
「ちっくしょうめっ! ざまぁみやがれってんだ。急に雄叫びなんぞ上げやがって!」
「ああ、でも、こいつホントに死んだのかな」
「あ? 大丈夫だろ。もう動かねぇし……」
呆然と立っているだけの俺の耳に、男達の様々な声が聞こえてくる。
……死んだのか?
あの怪物の女の顔──そうだ! 俺はこれに見覚えがある。あれは確か……あいつと、何処かの廃墟を探索に行ってた時に……。
そして思い出す。この怪物との記憶を──
──!? でも、何でなんだ……この怪物はあの時。“身体がふたつあった”双頭の格好をした怪物だった筈だ……何故、その片方だけがこんな場所に……?
─────
『──あのふたり、互いに愛し合ってる。とても幸せそう──』
─────
その時にあいつが言ってた言葉を思い出す。
……だとすれば、これはっ──!!
俺はケンジに向けて声を上げた。
「ケンジさんっ、これは罠だ! 誰かがこの集落を襲わさせる為に、仕掛けた謀略だ!!」
「何だって!!」
大声で答えるケンジに、俺は言葉を続ける。
「俺は、あいつ、いやエテルナとある場所でこいつを見た事がある……双頭の怪物だった。その時、奴はまるで死んでるかの様に安らかに眠っていた……そしてエテルナも言ってた。おそらく、この怪物はこちらから手を出さない限り、この眠りから覚めるような事はないだろうって……確かに俺もそれには同意見だ……だけど、その“双頭の片方”の姿がここにある……って事は、もう──間違いない!!」
「──何だと……!」
俺は動かなくなった女性の怪物の姿を見上げる。
「あれを奴の元へと返せば、あるいは事態を収集できたかも知れない。だけど、殺してしまった──もう遅い……」
俺の言葉にケンジも含め、この場にいる全員が息を呑み無言になる。
その時不意に響く、静寂を破るようなエンジン音。次に一台のバイクがこの場所に割り込んできた。
「──ケンジ、大変だっ!!」
「どうしたっ 何かあったのか!」
バイクに乗った男が上げた声に、ケンジが問い掛ける。
男は顔をひきつらせながら、言葉をまくし立てた。
「『変異体』の群れがっ! とにかくすげぇ数なんだっ! この集落に真っ直ぐ向かってきてやがる。あんなの初めてだ……それに見た事のないとんでもねぇ化け物もその中にっ!!」
「………」
その言葉を受け、俺とケンジは顔を見合せ、無言で頷き合う。
「……もう、戦るしかないのか……」
ボソリそう呟くケンジ。そしてこの場にいる者達のリーダーでもある彼が、周囲に激を飛ばす大声を上げた!
「皆、聞いた通りだ。事態は把握したな? とにかくだ、この集落に近付く迄に必ず食い止める。そして何がなんでも全滅させる! 気合い入れろっ! 帰って寝る場所がなくなっちまうぞっ!!」
皆一同激に応じ、おのおのその拳を天へと振り上げた!
──“おおうっ”──
「お前ら、ありったけのパンツァーファウストとロケットランチャーを積み込めっ! 手榴弾もだ! さあ、迎撃に出るぞ! 覚悟を決めて行けっ!!」
───
……なんかすげぇ事になってきたな。こりゃ俺も覚悟を決めなきゃかもな。
今は遠くにいる俺の“相棒”さんよう──お前の力がなくてもこの状況、何とか凌ぐ事ができるか? もし正体がばれるような事になっても……その時は勘弁してくれよ?
……えっ、なんだって、許さないってか──はいはい……まあ、ご期待に沿うよう、せいぜい努力致しますよ。
──それじゃ。行ってくるからな!!




