表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか醒める久遠  作者: Ayuwan
2章 邂逅
13/36

12話 花言葉

章の設定上、すごく短いです。


よろしくお願い致します。

 ───


「どうしたんだ。何かあったのか?」


 俺は少し前屈みになりながら、呼吸を整えている久遠にそう声を掛けた。


「……はぁはぁ……私、ちょっと忘れ物。……」


 舌をチロッと出し、微笑みながら片目を閉じてみせる彼女──


 ──ぐふっ! その仕草もとても可愛いっす!


 彼女は肩に掛けていたショルダーバッグから、何かを取り出した。そしてつま先立ちになりながら、俺の頭へと手を伸ばす。


 彼女の手が俺の顔に触れ、右の前髪がその手によって、やさしく横へとすくい上げられる──そして手にあった、おそらくはヘアピンであろう物で、それはまとめ、止められた。


 ───


「はい、出会った記念に私からのプレゼント──ちなみにそれも私の手作りなんだ……ふふっ、とても良く似合ってる……だから、家に着くまで絶対に外したらダメだから──」


 久遠は上目遣いで俺の事を見上げ、次に人差し指で俺の頭にあるであろうヘアピンを差し示した。


 ……そして再度放たれる。悪戯っぽい笑みからのウィンク──


 ──ぐはっ!! 俺の心の奥深くへと炸裂する、容赦のない渾身の一撃!!


 そんなアプローチなる連続攻撃を受け、俺はヘアピンを付けたままで帰るのが恥ずかしくて、顔が赤くなっているのか──それとも、彼女のその魅力に魅了されて、赤くなっているのか──もう訳が分からくなってしまっていた……。





                   ◇◇◇





 部屋に辿り着いた俺は、まず顔を洗う為、洗面所へと向かった。


 ──鏡に写った、見慣れた自分のあまり好きじゃない、あどけなさの強く残る子供っぽい顔。そして黒く染めた髪──


 俺は生まれつき髪の色素が少なく、何でも稀にみる特殊な例らしい──そのまま放っておくと、どんどん色が抜け落ち、白っぽくなり、更にはほとんど灰色のソレと変わらない色となってしまう。


 なので物心ついた頃から、俺は髪をずっと黒く染め続ける事を強いられてきた。


 ──本当は灰色のアッシュブロンドで、実は偽りの黒髪──


 そんな髪の右側を上げて止めてあるヘアピンが、俺の目の中に入ってくる。


 青と紫が交じった色の花が、飾りとして付いていた。俺はそれを取り外し、手に取って見る。


 花の裏側に何か、文字が彫り込んであった──“カタクリ” そう彫り込んであった。

 俺はスマホを取り出して検索してみた。


 え~っと、カタクリ。花言葉っと……。


 ───


「へぇ~、カタクリって、片栗粉の花なんだな……その意味は──」



 カタクリ──『初恋』『寂しさに耐える』



「………」


 俺は上のジャケットを脱ぎ捨て、そのままベッドの上へと寝転がった。


 もう時刻は午前2時を過ぎている。明日は土曜で休日だが、仕事を追い込む為に出勤するつもりだ。そろそろ寝ないとヤバイ──風呂は、明日の朝にでもシャワーを浴びよう……。


 照明を落とし、ボンヤリと暗い闇の天井を眺める。


 ───


 ──暗い闇の中、久遠の顔が思い浮かんできた。やさしげで、でもどこか寂しそうな表情の彼女が、静かに口を動かし、声にならない言葉を発する──



『──ずっと、寂しさに耐えていた。でも今は……私は……初恋を──』



 ──俺の勝手な願望なのかも知れない、都合の良い妄想ともとれる。だけど、俺には思い浮かんできた彼女が、確かにそう言った──そう聞こえた。


 ──そんな気がした……。


 ───


 ……ああ……明日も仕事……がんばれそうだ……そういえば、久遠にLINEするの忘れてたな……もう……寝ちゃったか……。


 ………………。

 

 …………。


 ………。


 やがてそのまま、俺は眠りに落ちていった──





















 『──始まった……君は()()()()()のかな──?』



 『──その時、君はなんて感じてくれるのかな──?』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ