エリカと白詰草 Part3
ユイが失踪したという知らせを聞いたのは、夏休みの真っ只中、8月1日……自分の誕生日の日だった。
最初のうちは冗談だと思っていた、というのもユイは母親と嫌な事があると直ぐに家出して夜中帰ってこないなんてことは、度々あったからだ。だから今回もそうだと……その筈だと信じたかった。そうしなければ、自分の心が壊れてしまいそうな気がした。
だが、自分の願いとは裏腹に、ユイは自分の前に姿を現すことはなかった。1週間経っても2週間経っても。毎日、何かと理由をつけて自分を外に連れ出しに来ていたあのユイが、姿さえ見せなかったのだ。ユイは…『誘拐』されたのだった
その事を警察から聞いた時、自分は警察に問い詰めた。失踪する直前の様子、怪しいヤツがユイの周りにいなかったか、ユイの最後の足取りも全て。それでも、中学生だった自分にわかることなんて何一つなかった。ただその時の自分にできたことは、部屋の中で慟哭することだけだった。
それからの自分はどんどん壊れていった。飯をほとんど口にせず、部屋の中で狂ったように泣き叫び、時折外に出て何時間もユイと行った場所に座り込んで動かなかった。
憎かった。兎に角何もかもが。ユイを見つけ出せない無能な自分や警察が、ユイを誘拐した誘拐犯が、自分に酷い仕打ちしか仕向けない世界そのものが、憎かった。
自分に何も出来ないのは、自分が『出来損ない』だから。無能だから、優秀ではないから、天才ではないから。
自分の周りの人間は消えていく。自分の事を気にかけてくれる人間はいずれ自分を置いて何処かに行ってしまう。嫌だ、それだけは嫌だ。ならどうしろと言うのか。簡単ではないか。
『生きていなければいいじゃないか』
これが『出来損ない』だった自分が出した答えだった。そして自分は
ユイとよく話し
自分達2人のお気に入りで
兄さんも気に入っていたあの屋上で
自らの命を絶った
『兄さん、ユイ、ごめんなさい。……私最後まで、出来損ないだった…代わりに何てなれなかったよ……』