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「危ない!酒呑童子!」
キリコの足は勝手に走り出し、酒呑童子に向っていく。そのまま手を伸ばし、酒呑童子に触れた瞬間。キリコは暖かい光に包まれた。
その光にクダギツネ達が弾き飛ばされる。
「ちっ」
安倍晴明は舌打ちし、光の球を睨む。光が強く、中を伺うことが出来ない。
光の中辺りを見渡すキリコ、状況が掴めないのだ。
「…ぁ、え?」
「キリコ、契約だ」
「契約?」
そうだ、と酒呑童子が頷き。先程よりやや低い声音で、キリコに語りかける。
「鬼の血を継ぐもの、キリコ。我、酒呑童子と契約を結び、鬼を狩るものから鬼を守れ」
「そんなこと言われても」
キリコは戸惑う、鬼を守るとは何なのか?自分なんかにそんな大役が務まるわけがない。
「このままでは大江山も危ないぞ」
「それは困る!」
酒呑童子に発破をかけられ、キリコは声が大きくなる。
「ならば…」
「やる!契約する!」
酒呑童子は笑うと、人差し指と中指をキリコの額に当てる。自然とキリコの瞼が落ちる。
「……(胸の奥がじんじんする…熱い…)」
酒呑童子はゆっくりとキリコの中に取り込まれていく。
『おい、目ぇ開けな』
酒呑童子の声がどこからか聞こえ、キリコは素直に瞼を開く。
「………あれ?光がない…あれっ?」
キリコは自分の姿に違和感を覚えた。きた時はTシャツにショートパンツ、スニーカーで来たはずだ。
しかし、今は手にゴツゴツしい手甲、見れば身体中に武具が着いている。
「なっ、なにこれっ!?ちょっ、まるで戦うみたいじゃん!」
『当たり前だろう、契約したんだぜ?』
「いや、そうなるって知らなかったし!」
そう言ってキリコが辺りを見回すが、酒呑童子の姿が見えない。
「え?待って、どこにいんの…?」
『俺か?お前の中だ』
「出てけ!!」
『無理言うな!』
「おい!何をゴチャゴチャと言っている!」
これまで完全に蚊帳の外だった、安倍晴明が声を荒らげる。どうやら、安倍晴明には、酒呑童子の声が聞こえていないらしい。
「巫山戯ているつもりなら、いくぞ!」
安倍晴明の指示で、再びクダギツネが襲いかかる。キリコはどうしていいか判らず、とりあえず両腕を顔の前に出し防御体制になった。
「ッ!?」
キリコにクダギツネ達がぶつかって行くのがわかる。
しかし、不思議と痛みは無く、キリコに傷も付いていない。
「……あれ?痛くない?」
『当たり前だろう、酒呑童子の力があるんだ』
「……これが、酒呑童子の…」
『さぁ!アイツに反撃と行こうぜ!』
「はぁっ!?」
驚いているキリコをよそに、酒呑童子はキリコの身体を勝手に操り安倍晴明に向かって行く。
「まっ!ちょっ、待ってぇ!!」
身体は待ってくれず、拳は安倍晴明を捉える。