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一人の少女が大きい荷物を抱え、街にやって来た。
彼女の名前は『暁 キリコ』。今年の春から高校に通うため、大江山の村から街へと下りてきた。
一つのアパートの目の前に立ち、建物を見上げる。
「今日から一人暮らしだ」
ご近所さんとは仲良くなれるだろうか、学校は馴染めるだろうか…。
不安と期待に胸を膨らませ、キリコは鍵をドアノブに差し込んだ。
部屋は広めのワンルーム。高校生には勿体なく感じる。
「おじいちゃんに感謝しなきゃなー」
部屋のお金は、一緒に住んでいたおじいちゃんが出してくれたのだ。
「家具は搬入されてる…。よし」
キリコは深呼吸をし、荷解きを開始した。
一人暮らしの荷物達は、さほど多くなく数時間で終わってしまった。
「終わったぁ~」
床にゴロンと寝転んだが、キリコは妙な胸騒ぎを感じで飛び起きた。
「っ!?だ…誰」
部屋の中には誰もいない、当たり前だキリコの部屋なのだから。
「……」
キリコは立ち上がり、玄関へ向かう。
どうしてかは分からない、ただ、身体だけが勝手に動く。
靴を履き、外へ。
見知らぬ道をただただ歩く。
その足がある場所で止まる。
「…大江山入口…?え?何で?」
気がつけば、キリコは実家のある大江山への入口に立っていた。
街からここまでの距離は、かなりあるはずだが、キリコはどうやってここへ来たのか分からない。
「普通だったらバス乗り継いで来るのに?」
財布を所持しておらず、携帯もどうやらアパートに置いてきたようだった。
「……はぁ、マジで~?」
深くため息を吐き、肩を落とした時だった。
「………呼んでる?」
誰かに呼ばれた気がして顔を上げる。
辺りを見渡すが人気は無く、外灯がチカチカと点滅しているだけだった。
「……さっきからなんなの?」
気味悪いと呟いて、この場から離れようとしたが
『時は来たれり』
「え?」
いきなり生暖かい風がキリコに吹き付け、キリコは腕で顔を覆う。