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かっきまーす
昔の大江山には、鬼や異型の者だけが暮らす集落があった。
山の麓の村人は怖がって、山の奥には入ろうとしない。
そんな村人達は鬼が下りてきて悪さをしないよう、7年置きに生贄を捧げていた。
生贄に選ばれるのは、生娘ばかり。
今回も一人の娘が選ばれ、男達に連れられ山へ入っていった。
山の中腹まで行くと、男達は立ち止まった。
娘が問いかけると、ここから先は一人で行くようにと言われた。
男達は逃げるように、娘の前から去っていった。
娘は一人で山道を歩く。
そんな時だった、一つの提灯が揺れているのが見えた。
娘が急いで近寄ると、提灯を持っていたのは女性だった。
娘は驚いたが、女性が手招きをするのでそれについていくことにした。
女性について行くと、一つの鳥居が見えた。
その鳥居をくぐると、不思議な事に村へと入っていた。
娘が辺りを見渡していると、一人の男がそばへ寄ってきた。
『ようこそ、お嬢さん』
その男には娘には無い、角が生えていた。
よく見ると村人や子供にも麓の人々とは違う部分があった。
『あの…もしかして、ここが鬼の集落ですか?』
娘が尋ねると男は頷いた。
娘はとても恐ろしい場所を想像していたので、とても驚いた。
その驚いた表情が可笑しかったのか、男は吹き出した。
『俺は酒天童子、歓迎するぜ?』
先程よりくだけた話し方をする男、娘は呆気にとられていた。
『お前、名前は?』
『…きこ』
『きこな!よーしお前ら!新入りだぞー!』
村人達は彼女をあたたかく迎えてくれる。
生贄として捧げられた末路は暗いはずだ、なのにこんなに明るく出迎えてくれている。
鬼達の笑顔を見ていると、悪いものでは無い事がきこにも分かる。
『どうして、生贄なんて取ってるんですか?』
『麓の奴らがそれで安心するなら、それでいいと思ってる』
酒天童子が寂しそうな笑顔に、きこの胸が締め付けられる。
それから集落での生活が始まった。
きこは特に不自由もなく過ごしてこれた、それは酒天童子がきこを手助けしてくれたからである。
気がついたらきこは酒天童子に想いを寄せていた。
また酒天童子もきこに同じ気持ちを持っていたのだ。
時を同じくして、安倍晴明が転生を企んでおり、母体となる娘を探していた。
それを知らない二人はやがて結ばれ、一人の子供をもうけていた。
幸せな日々を送る二人だったが、安倍晴明がきこに目を付け攫いにやって来たのだ。
酒天童子は抵抗したが、虚しくも酒天童子は安倍晴明に首を切られ、きこは連れ去られてしまう。
それを知った茨木童子も、安倍晴明に仇討を仕掛けるが返り討ちにあい、なくなく戻ってきた。