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あまつ空なる、君を恋ふ(1)

 長く、嫌な夢を見ていた気がする。

 頬に当たる、穏やかな日差し――

(ああ、今日は晴れてる……)

 あまねは、閉じた瞼を揺らした。

(猪を狩りに行こうって、頼朝が言ってたっけ……義平さんと、朝長さんも誘って、みんなで行こう。きっと、楽しい)

 …………きっと、楽しい。

 あまねは、瞼を持ち上げる。

「お疲れさま。あまねちゃん」

「……直愛さん?」

 直ぐ側から聞こえた声に、あまねは身を起こした。

 ……身体中が痛かった。

 爪が割れて剥けた指先が、じんじん鼓動する。

 あまねの意識は、微睡みの中から急速に覚醒した。

「よ、頼朝は!?」

 あまねは、一緒にいたはずの頼朝の姿が見えないのに、はっとする。

「安心して。まだ、生きてる」

 直愛は穏やかに頷いた。

 あまねは乗りだしていた身を元に戻すと、ゆるゆると力なく項垂れた。

 ――嫌な、夢。

「夢、だったら、良かったのに」

 あまねは、傷だらけの手を見下ろした。

 直愛は何も言わなかった。

 あまねは、あかぎれで捲れた皮を摘んで、引っ張った。じくり、と血が滲んだ。

「………………私にとって歴史は……数字と単語でした」

 教科書にマーカーを引く。

 語呂合わせで年号を覚える。

 テスト前に確認する。……それで、お終いだった。

「でも、血の通ったものなんですね。生きて、生きて、その生き様が綴られたものが、歴史なんですね」

 あまねは、直愛に訴えかけるような眼差しを向けた。

「私、未来を知ってるから、どうにかできるんじゃないか、って思い上がってました。この世界を、どこか、本の中のような、そんな、非現実的な所のように、思っていて」

 ぎゅっと上掛けを握り締め、あまねは唇を噛んだ。

「だけど、此処にいる私は、何かをどうにかできるような、凄い魔法使いじゃなかった。ちっぽけな、無力な、人間でした」

 脳裏に、精気を失った朝長の顔が過ぎる。義平の、力ない皮肉な笑みが過ぎる。

「――――――誰も、救えなかったっ!!」

 身悶えして、あまねは叫んだ。

 突きつけられる、無力無力無力……大好きな人たちが、いなくなってしまった。

 大好きな人が、悲しむのを止められなかった。

 頼朝は決して、あまねの前で泣かなかった。

 それが、自分の不甲斐なさを浮き彫りにしているような気がした。

「まだ終わってないよ、あまねちゃん」

 直愛の両手が、あまねの手を包み込む。

「俺たちの仕事は、頼朝を祟りから守ること。彼を守りきって、彼の命を未来に繋げて初めて、お終いなんだ」

「直愛さん……」

「頼朝の処刑は、今日だ」

「なっ……」

 言って、彼は背に隠し持っていた物をあまねに差し出した。それは……清盛が処分してしまったと言う、あの髑髏だった。

「行こう、あまねちゃん。頼朝を、助けに」

お読み下さり、ありがとうございます。

週2回更新予定です。できたらもう少し多めに更新したいかな、と思っています。

もう少しで完結です。宜しくお願いします。

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