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3 転生



 一瞬の意識の暗転。


 爽やかな風を頬で感じた私は、瞳を開けた。

目の前にあったのは、青空。そして、深緑の葉を茂らせた木々。どうやら仰向けになってるみたい。

起き上がって、周囲を確認してみると森か林の中だと思う。けれど、今いるところは、そんなに深いところではなさそう。見渡してみたときに、少し先のほうで木々が途切れていたし、そっちへ向かえばひらけた場所へ出ると思う。


 でも、その前に”今の私”の確認をしよう。


 『ステータス』



◆◇◆◇◆


 名前:イリス = エル = レイン

 種族:野狐やこ

 魔力量:3350/7000

 称号:「金狐の系譜」「識者」「始祖返り」「魔人」

 加護:「精霊の隣人」「始祖返り」


◆◇◆◇◆



 名前は置いといて。魔力量は私の前世を引き継ぐために、ある程度スペックが高いのは仕方ないにしても好スタートだと思う。

で、おかしいものは……「始祖返り」だね。称号にしても、加護にしても。


 思い当たるのは、あの4人しかないわけだけど、どういうこと?始祖っていうのが、なんか引っかかる。私の前世に近づく、もしくは前世と同等になるとは思っていたから、それならもっと別の表現になるはず。

始祖――私の種族の始まりがいたってこと? ”ナイン”は突然変異みたいなものだって思っていたけど、違う?……よく分からないな。


 「……」


 気を取り直して、周辺の散策と身体を慣らしていこうか。





 結論から言うと……。


 ”階段”がありました。


 いやいや、まさか木々を抜けて平原を歩き回っていたら、地面に階段があるとか思わないよね。

階段?……下りるわけないじゃない。下りた先に何があるか興味はあるわ。でも万が一、危険に曝されて生還できなければ無駄死にするだけ。それに、転生してまだ慣れていない状態っていうのがよろしくない。危険な好奇心は身を滅ぼす、なんて笑えない。


 そういうわけで引き続き、周辺の散策と身体の慣らしといきますかー。



 平原は、なだらかな丘にぽつぽつと低木が生える長閑な風景。

遠くに山脈が連なり、その麓には森が広がっていて見渡した限り、街や村といった人工物は影も形もない。あ、さっきの階段は別として。


 とりあえずこの辺は、平原と私が目を覚ました森があるだけなんだね。遠くに見える山脈――けっこう遠いな。あれを越えれば街とかあるかな。けど麓までに何日かかるかわかんないし、それにこの辺で私の危険となるものがいないとも限らない。主に魔物や魔獣、あとは人間も、かな。

 ほら、私ってば一見、獣人に見えるかもしれないけど魔人だし、バレたら敵対されるんだろうなぁ。最悪、殺される可能性もあるし、どうしたっていい事にはならない。その時に、逃げるにしろ返り討ちにするにしろ、動けないとねー。今も考えながら、走ったり跳ねたり風を纏ったり感覚を掴もうと動き回ってるのよ。ま、だいたい分かってきたから、あとは全力でどこまでやれるかってところね。


 お、丁度いいところに、狼が三匹こっちに向かってきてるし、お相手願いましょうか。

でも、いきなり三匹の相手はちょっと不安なので、戦力を削りましょう。


『エアスラッシュ』


 風の刃を複数生成、それを狼に向かって放つ。放ったそばから、再度生成、放つ。

最初のは余裕で避けられたけど、次のは避けた先に放ったから避けられないでしょ?ほら。


 なんて余裕を見せてたら、無事だった二匹が飛び掛かってきました。あれですねー。仲間がやられてお怒りのようです。

でも、残念。空中じゃ軌道を変えられないんだよ?だから、こうやって回避されると後は無防備になっちゃう。……何か武器でもあれば、空中で叩くなり切るなり好きにできたんだけどなー。

ないもんはないし、とりあえずさっきみたいに魔法でも撃っておこう。


『ファイアウォール』


 放った魔法は炎の柱。壁みたいに広げるんじゃなくて、一点に集中させるから柱ってわけ。

それを狼の着地点に生成。すると、あら不思議。狼さんが自ら炎へと身を投げているように見えます。


 これで残るはあと一匹。正確には、瀕死と火達磨、無傷が一匹ずつってところね。

止め刺さなくても死にそうだし、前の二匹は放置しましょう。


 ところで、正直お仲間が手も足も出ずにやられちゃってることだし、退いてくれませんか?


 あ、退いてくれます?いやー、良かった。これ以上やっても無意味というか、私の目的は達成しちゃったわけですし、あとは邪魔者を排除するだけ?みたいな。

あれ?でも、これで見逃したら今度は群れで襲ってくるかも?――やっぱり見逃すのやめよ。


 こちらを気にしながらも逃げていく狼に向かって、


『エアスラッシュ』


 追いかけながら風の刃を複数生成、放つ。再度生成、放つ。狼は避けながらも、その先へと魔法が飛んでくることもあり、無理な回避行動をせざるおえない。そうして徐々に狼との距離を縮めていく。

そして、避けきれず風の刃が脚を切り裂かれた狼は、続けて放たれた刃を体中に受け倒れた。

私は止めを刺すため、ある程度の距離から魔法を撃ちこむ。


『フレイムアロー』


炎の矢は違わず狼へと命中し、その亡骸は赤い炎に包まれた。



「ふぅ、なんとかなった」


 これで一先ず、この狼が属していた群れに襲われるってことにはならないかな。先の事はわからないけど、敵討ちみたいなことはなくなったはず。

しかし、今回魔法しか使ってないなー。これは早めに武器の調達しないとかな。素手で戦うには、ちょっと今の身体能力じゃダメージ低そうだし。いや、低そうだなっていう予想なだけで、実際は結構いけるかもしれないけど。

その辺というか、物理的な攻撃手段も持っておくに越したことはないよね。今後の目的の一つにしよう。


 目的といえば、転生する直前に聞いた「最果て」についても調べなくちゃね。そこに行けば、また彼らに逢えるみたいだし。

そのためには誰かに聞くとか、街か都市で調べものか。結局、人がいるところに向かうことになるんだねー。

とりあえず、この見渡す限り平原と森でなにを標にしたものかな。


 あー、やっぱりあの山脈にしようか。越えた先に期待ってところね。途中のことは、その時考えましょ。


 そういえばお腹減ってきたし、さっきの切り刻んだ狼さんは食べられるかな? 香辛料とかないから味気ないかもしれないけど、毒さえなければこの際味なんて気にしてられないよね。

それじゃさっそく切り分けて……。


 切り分けようにも、刃物がなかったよ!――あぁ、うん……あれだね、これ引き千切れないかな……?



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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