婚約者は 1
シャロットと白馬を走らせること15分ほど。
レミニアリスはトリスが受け持つ厩舎へ戻ってきていた。
しかし、そこで非常によろしくない事実が発覚してしまった。
こうして助けてくれた相手と国賓用の宮殿でテーブルを挟んで話をしているのには訳がある。
……順を追って説明させてほしい。
まず、トリスが「殿下!お待ちしておりました!」とにこやかに騎乗の2人に声をかけたのがきっかけだった。
「おまたせ、トリス。すっかり遅くなってしまって──────」
「律儀に待っていたのか?やはりあなたは────」
レミニアリスは皇女であるから、殿下と呼ばれることに疑問はない。だが、なぜこの人まで「殿下」という尊称に反応するのだろうか。男性皇族で若い部類に入るのは兄とその従兄弟のみ。しかも、こんな顔の皇族は見たことがない。
─────────殿下?どうして、と。
そして、そんな思考はキョトンとして首をかしげるトリスによって解決された。
「皇女殿下、ザーシュバルド王太子殿下とご一緒だったのですか?」
「「……はぁ??」」
これには驚くなと言われるほうが無理がある。
ザーシュバルド王太子殿下、とトリスは言った。つまりは自分の婚約者……。
「「えええええええ!!??」」
素っ頓狂な叫び声を上げると2人して馬から飛び降りる。
「トリス、それは本当ね?」
「はぁ、どうしたんですか?一介の厩舎番が皇女殿下相手に嘘なんてつけませんけど……」
トリスとひそひそと話すとレミニアリスは急いでザーシュバルド王太子に向き合った。
「えっ、と……。はじめまして、王太子殿下。レヴァイノス帝国第一皇女、レミニアリスと申します」
ドレスをつまんで礼を取ることはできなかったため、軽く膝を折ってみせる。ザーシュバルド王太子はなんとも言えない表情で一連のレミニアリスの挨拶を受けていた。
「は……?第一皇女って、婚約者…の?」
頭を抱えた王太子はグシャグシャと前髪を乱した。そして何かを噛みしめるようにして急に立ち上がるとスッと流れるように礼を取る。
「レミニアリス皇女殿下。ザーシュバルド王国王太子、ルベルトと申します。……そしてあなたの婚約者だ」
真正面から天青石の瞳と新緑の瞳がぶつかり互いを時が止まったように見つめ合う。
2人が同時に糸杉の森へ向かわなければ。
王太子────ルベルトが糸杉の森でレミニアリスに出会わなければ。
レミニアリスが無鉄砲な行動を慎むべきだったのか。
様々な偶然の歯車が重なって、きまぐれな運命は回り出すのである。
よろしくおねがいします.m(_ _)m