糸杉の森にて 2
王子視点?になるのかな。
やっとこさでてきましたよ、王子(笑)
─────親愛なる我が息子へ。
この度、レヴァイノス第一皇女殿下との婚約がまとまりました。追って沙汰します。そちらを発つ際に皇女殿下をこちらへ連れて帰りなさい。 母より
その書簡をみた瞬間『俺にもとうとう来たな』と思う反面、これを握りつぶしたい衝動に駆られた。
「なんで今なんだよ。母上の策略だな……くそっ」
レヴァイノスの国賓用の客室でカウチに足を組んで悪態をつき、そして、ひとつの気がかりも確認しておく。
「オマエも一枚かんでやがるな?シェス」
「なんのことでしょうか、ルベルト様?」
主従関係にあるはずなのに、なぜか座っている方が弱い気もする。
この客室の主であるルベルトはザーシュバルド王国の次期王だ。新緑のごとき瞳はすがめられて、慇懃無礼に立つ腹心を見つめている。
「すっとぼけやがって…。母上からの書簡に書かれている内容!これのこと、事前に知っていただろう?」
「はい、もちろんです。ザーシュバルドを出立する前に女王陛下よりこの卑小、シェスがお預かりしたものですから」
素直に自分の所業を認めた部下に今度はルベルトが納得しない。
「………。にしても第一皇女って大きく出たな、レヴァイノスも」
ふと、冷静になって考えてみるとかなり身分が高い。皇后から生まれた正妃の娘だ。
「いや、違う……。なにか理由があるみたいにも取れる。シェスならどう思う?」
「殿下とまったく同じことを考えました。第一皇女殿下には確か……母親の違う姉君が3人いたはずです。彼女たちに何か理由があるのではないでしょうか?」
さすがにシェスは頭の回転が早い。サクサクと同じ答えを導き出してきた。
「奇遇だな、シェス。だが無闇に帝国の内情を探ればこちらが追い込まれる。……ひとまずは皇女に接触して何か引き出さねぇとな」
だが、一度頭を冷やさないとこの小難しい問題は解けそうにない。綿密で確かな情報と対応が必要になるだろうから。
「ちょっと留守を頼むな、シェス。俺もいろいろ考えてみるから、オマエも練っとけよ?」
御意に、とシェスは一礼する。
「まだ行ってないあたりにでもいくか……。お、糸杉の森ってとこがいいな。まぁ、そのうち帰ってくると思う」
だか、殿下のそのうちは長いんですよ、とシェスに呆れられたことは言うまでもないだろう。
******
体を動かす武術全般を好むルベルトにとって、馬で疾走することはかなりのストレス解消法だった。わざわざ、レヴァイノスに来てまでこんなことをするとは思っていなかったが。
「誰か、ここの厩舎番はいるか?」
よく通る声でルベルトが問うとひょっこりと一人の若者が姿を表した。そして、ルベルトを見ると深く礼を取る。
「ここにフィルスタという馬がいるはずなのだか…。預かっていないか?」
「フィルスタ…。あぁ、ザーシュバルド王太子殿下が本国から連れて来られた馬ですね。しばし、お待ちください」
待つことほんの3分。純白の毛並みの駿馬が若者に手綱を引かれてやって来る。
「ありがとう。よくして貰っているらしいな。あなたはいい厩舎番だな」
大げさですよ、と謙遜しながらも彼は嬉しそうだった。
ひらりと馬に跨り、フィルスタを駆けさせる。風が耳元をかすめ、ごうっと音が断続的に続く。
糸杉の森は清廉な雰囲気を纏った広大すぎる森だった。これほどまでの森林を皇宮に囲うことは普通できない。
「さすがはレヴァイノスといったところか…」
ふと地面に目を向けるとまだ新しい馬の足あとを見つけた。土が乾いていないから、足取りは容易に辿れる。その足あとはこの慣らされた道からは外れ、どんどん森の奥へ続く。糸杉が鬱蒼と生い茂り、辺りは少し薄暗い。
危険かもしれないと頭ではわかっていても好奇心を抑えることができないのがルベルトの悪い癖だ。
「……馬?こいつの足あとだったのか」
辿ってきた足あとが途切れ、そこには栗毛の綺麗な馬がもそもそと草を食んでいた。馬は木に緩く手綱を括りつけられているが、これでは逃げられやしないだろうか。括った人間がいるということはここには馬の主がいるのだろう。
ルベルトはフィルスタを同じようにして括りつけるとまじまじと辺りを見回す。糸杉の葉に覆われることなく光が地上に届いているだけあって薄暗い森とは別の場所に来たような気がした。
ひときわ大きな糸杉の木を見やり、そして、どきりとする。
幹に寄りかかる一人の黒髪の少女がいたのだ。この清廉な森の主のごとき大木に守られるようにして瞳を閉じ、胸は規則正しく上下している。眠っているのだ、と気がつくのには時間が少しの必要だった。
近づいてみると少女の肌はキメが細かく、驚くほど白い。丁寧にすかれているのであろう黒髪は風にさらさらと弄ばれている。
すこしだけ魅入っていたのだが、気づかずに自分の踏んだ木の枝がパキッ!と音を鳴らすと少女はパチリと目を覚ましてしまう。
疑わしげに自分をみつめる天青石の瞳にルベルトはザワリと胸の奥がうずいた。
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