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閑話 ノエルの願い

息抜き程度に、ノエルとレミニアリスの幼い頃のお話です


ノエルがレミニアリスと初めて会ったのは8歳の頃だった。


その日、皇后と皇女がリアネス伯爵邸へ来るとかで屋敷はてんてこ舞いの状態だったと記憶している。  


ノエルは2人を出迎えるべく、総出でエントランスホールに立っていた時に、姉たちに質問してみた。


『姉様、皇女殿下ってどんな方なのですか?』


一番上の姉に聞いてみると彼女は、


『そうねぇ…。とっても気さくな方かしら?』


と教えてくれた。ノエルは隣へ向き、二番目の姉に聞いてみた。


『姉様、皇女殿下はどんなお人柄ですか?』


『…決まってんじゃん、皇后陛下そっくりだよ』 


皇后陛下に謁見したことのないノエルは首を傾げた。そして微笑ましそうに3人を見つめる母に疑問を投げかける。


『かあさま、皇后陛下って───────』


その質問は2人の到着を告げる執事の声で掻き消えた。皇家の紋章が金箔で記された馬車が姿を表し、扉が開くと同時に黒髪の可愛らしい女の子が飛び出してくる。それに続き、慌てて金髪の女性が女の子を止めるべく走りだす。数メートルの格闘の後、無事に女性は女の子と手を繋いだ。そして何事もなかったようにリアネス伯爵邸総出で待つエントランスホールへやって来る。


『ご機嫌麗しゅう、皇后陛下。お待ちしておりました』


両親は恭しく女性──────皇后陛下へ礼をとる。それに倣ったノエルは垣間見えたその方の美貌に目を見張った。両親もなかなかの美男美女だが、皇后陛下の美貌は群を抜いているような気がする。


『お出迎えご苦労様、伯爵。先日は無理を行ってごめんなさいね』


『とんでもない。我が家に来ていただけるなど、最上の誉れでありましょう』


そんな父をくすりと笑ってあしらうと、皇后陛下はノエルたち三姉妹と目線を合わせる。


『……あら、初めましての子がいるじゃないの。ユリィ、この子は?』


『末娘のノエルですわ、皇后陛下。皇女殿下の一つ下になります』


『お初にお目にかかります、皇后陛下。ノエルと申します』


教えられた挨拶をすると皇后陛下は優しく頭を撫でてくれた。


『きゅんきゅんするわ…。どんな躾をしたらこんなイイ子になるのかしら…。ユリィ、詳しく教えて頂戴?』


執事が応接室へ皇后陛下を案内し、二人の貴婦人は楽しげに会話をしている。


『……ノエル?』


それを見送っているとどこからともなく聞こえた自分の名を呼ぶ声にビクッと肩を揺らす。振り向くと皇女殿下、とよばれる女の子が立っていた。どう、対応すればよいのだろうか。姉は母について行ったし、使用人はごく一部しか残っていない。無礼を働いたら怒られるのだろうか……。


『なにか、御用ですか?』


『ごよう……?ないよ?一緒に遊ぼう、って誘いに来たの!』


にっこり笑って見せた皇女殿下にノエルはえ?と目を丸くした。


『ねぇ、おかあさまは夫人とお話してるのよ。……だからわたしたちもお話しましょ?』


ほらほら、と手を伸ばされる。反射的にその手を取るとぐいっ、と引っ張られた。


『ここのお庭はすごいのよ、っておかあさまがおっしゃってたの。…どこにあるの?ねぇ、教えて!!』


パタパタと軽い足音を響かせながら皇女殿下は走った。ノエルは足が絡まりそうになり、転倒するのを必死に耐える。悪戦苦闘しながらも皇女殿下をノエルのお気に入りの場所へ導いた。


『すごい、すごいのね、ノエル!』


そこに広がるのは一面の花畑。風に煽られて花びらを舞わせている。くるくると楽しそうに回る皇女殿下の笑顔はキラキラしていた。


『ノエルも、いっしょにしよっっ!』


また手を引かれ、今度こそノエルはバランスを崩して花畑に飛び込んだ。2人はどちらともなく笑い出す。


『ノエルは一緒にいるととってもたのしい。…おねえさまとは違う…』


ひとしきり笑うと、レミニアリスの笑顔が曇った。みるみると瞳には涙の粒が溜まっていく。ノエルはオロオロしてそっと、ハンカチを差し出すことしかできない。


『ごめん……ね。おかあさまの前だったらこんなにならないの。なんで、かなぁ………?』


次第に声は落ちていき、皇女殿下はぎゅと拳を膝の上で握りしめる。


『……な、泣かないでください!!私がお側にいますよっっ!』


ノエルは必死に皇女殿下を慰めた。どうか、泣かないで。悲しまないで、と。


そんなノエルに皇女殿下は視線を彷徨わせる。そして思いついたようにノエルの手をぎゅっと握りしめた。


『じゃあ、おともだちになって……?』


弱々しい声にノエルは『はい!』と頷く。


二人の姿が見えない、と慌てた使用人達が探しに来るまでノエルはふたりだけの時間を過ごした。




後日。


皇帝陛下から直々の書面が届き、それを読んだ両親が驚いたのは当然だと思う。古くから続く名門伯爵家とはいえ、皇族付きになった者はひとりもいなかったからだ。その書面には『ノエルと家族を引き離すようなことはしない。そちらの準備が整い次第で構わない』という控えめな文章も添えてあった。



そして、今。


「やっぱり何回来てもここの庭はいいわねぇ~」


「ありがたきお言葉です、姫様」


あの日レミニアリスと出会った花畑は大切にされ、あの頃のままの時間を止めたように美しい。すると、レミニアリスは花畑に倒れこむ。一瞬、驚いたノエルだがすぐに笑みを浮かべた。



これからのノエルが望むのは、ほんの少し。


……願わくは、こんなに時間が続きますように。そして、姫様の笑顔が曇りませんように。


あの時のようではなく、ノエルはレミニアリスに続くようにして花畑に飛び込んだ。

進路が決まるテストや期末テストがあるので更新が遅くなります(^^;)


よろしくお願いします

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