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婚約者は 9


なにやら周りの人間の視線がうるさい。


ルベルトはそう感じた。


「シェス…。俺の勘違いならいいんだが」


一歩後ろで控えるシェスは涼しい顔で宮殿を見物している。


「はい?なんですか、殿下。皇后陛下の宮殿へ召されたからと言って、寄ってたかってイジメられる訳では無いのですからそう緊張なさらなくても」


「緊張なんざしてねぇよ!!」


まったく、この慇懃無礼の塊のような副官はいつになったら角がとれるのだろうか。


「ったく…。オマエも感じるだろ?痛い視線」


「そうですねぇ。…敵対、というよりか興味のほうが多そうですけど」


なぜかヒソヒソと話す話し声と、もの珍しそうにこちらを見ている視線。


「皇后陛下に呼び出されたことになにか関係があるのかもしれませんね」


皇后の使者がルベルトの滞在する宮殿へ来たのは昨日。


『明日、午後に皇后陛下の宮殿へお越しください。皇后陛下があなた様とお話がしたいとおっしゃっておられるのです』


思い当たるようなことはしていないと思うのだが…。レミニアリスとの婚約について母として話をするつもりなのだろうか。そうこうしているうちに大きな扉の前まできた。


「失礼します。皇后陛下のお呼び出しに従い、ザーシュバルド王太子殿下がいらしているのですが……」


シェスが女官に声をかけると心得たように彼女は扉の中に消える。しばらくして出てくると、女官は申し訳なさそうな顔でこう告げた。


「現在取り込んでおりまして…。少々、お待ち頂けますか?」


「わかりました」


「ありがとうございます。…こちらへ」


そう言って通されたのは応接室。白地に金の装飾がなされた部屋にはまだ温かい茶器があった。不思議に思ったルベルトは退出しようとした女官に問いかける。


「…誰かここにいたのか?」


「はい。レミニアリス様が先程こちらへいらっしゃいましたが」


レミニアリス殿?と眉をひそめるが女官は訳知り顔で微笑むと失礼いたします、とすぐに退出してしまう。

シェスは納得したようにポンと手を打ったが、ルベルトにはさっぱりわからない。


「シェス、何が─────────」


そのとき、扉が開かれ、皇后がにこやかに入ってきた。音に驚いて腰を浮かしかけたルベルトは立ち上がって礼をとる。


「王太子殿下、顔を上げてくださいな。急な呼び出しに応じてくれて感謝しますわ」


艶やかに微笑んだ皇后は座るようにルベルトを促す。その所作は若々しく、年齢は感じられなかった。


「お呼びしたのは………見ていただきたいものがあるからですわ」


見せたいもの?と首を傾げると扉が再び開き─────そこに立った人物にルベルトは目を見開いた。


天鵞絨の薄桃と紅色のドレス。上半身はピッタリと身体に沿っていてレミニアリス細腰を強調し、ふんわりと膨らむスカートには鳥籠のように広がっている。それだけでも十分に美しいのだが、デコルテや袖口、腰には精緻な金の刺繍がなされている。宝飾品は控えめで、レミニアリスの瞳と同じ天青石が耳や首に在るだけだ。艷やかな黒髪は複雑に結い上げられているものの、それが目障りな印象は全く無かった。着る者を選ぶようなドレスでもレミニアリスは完璧にそれを着こなしている。


レミニアリスは驚いて瞳を見開くと皇后へ非難の声を上げた。


「お母様っ!」


「よく似合っているわ、レア。……さぁさぁ、花婿様のご意見は如何かしら?」


皇后の言葉は今のルベルトにとって耳をかすめる雑音程度でしかなかった。それほどまでにレミニアリスは美しいのだ。煩悩を頭の隅へ追いやり、心を鎧ってルベルトは皇后の問に機械的に答える。


「私も……そう思います、皇后陛下」


ルベルトの答えにひどく面白くなさそうな顔をした皇后はすぐさまレミニアリスの元へ駆け寄る。そして何やらささやくと、そのまま退出してしまう。


「ちょっ、お母様ー!?」


いつの間にか応接室に女官たちの影は消え、ノエルとシェスが控えるだけである。ルベルトは食い入るようにしてレミニアリスを見ていたが、視線に気がついた彼女と目が合い、ふっと逸らした。そのことをどう取ったのかレミニアリスはしゅんとして頭を下げる。


「ご、ごめんなさい……!!お母様がいろいろと暴走…してしまったようです…」


華美な衣装を纏いながらも、いつもの控えめなレミニアリスだ。どれほど自分が美しいのか、欠片もわかっていないらしい。少なくとも、美しい令嬢や貴婦人に見慣れているルベルトの目を奪うほどだというのに。


「そんなことは、ない。……むしろ…」


「……むしろ?」


言い淀んだルベルトは腹を括った。自分らしくない、と。


「綺麗…だと思う。それはいつ着る衣装になる?」


レミニアリスはホッとしたように胸を撫で下ろす。


「…民への挨拶の時かと思います。これが一番派手で豪華ですから」


ちょっと着替えてきます、と逃げ出そうとするレミニアリスよ腕を思わず取った。え?とレミニアリスは驚くが、そんな自分の行動に本人が驚く。そしてその理由を探し、ひとつ思い当たった。


「…なぜ俺と婚約しようと思ったんだ?1つは姉君から逃げるため、だったな。もう1つを聞いていない」


あー、とレミニアリスはなにやらモゴモゴと口を動かした。そしてちらりとルベルトを見上げる。


「……申し上げて、怒りませんか?」


「怒らない」


即答するとレミニアリスは笑顔で爆弾を落としてくれた。


「皇女の結婚なんて所詮は国のため。お姉様からも逃れたいし、幸せになりたいなどとおめでたい事は考えておりません。普通に生きることができればそれで良いと思っておりましたから。とことん思案して、閃いたところに丁度、王太子殿下から婚約のお話が来ていたので受けさせていただきました」


呆然とするルベルトにレミニアリスはさらに言い募る。


「要するに、政略結婚なので愛さなくても構わないということです」

難しい…!!


明日も更新できると思います。。


よろしくお願いします<(_ _;)>

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