婚約者は 7
妹登場!
「ねぇ……そろそろいいんじゃないかしら?」
もくもくと湯気が立ち昇る天国から少し離れたところでレミニアリスはうつ伏せになっていた。ここは昨今上流階級の女性たちの間で人気があるらしい、と母が作った皇族専用(女性)の施設である。温かい湯に浸かりその身を癒やすのだとか。専門の女官が集められ、たくさんの女性がせっせと持ち場の仕事を行っている。
「なにをおっしゃいます。これからでございますよ」
柔らかく微笑んでいる美容専門の女官はレミニアリスの肌に香油を塗りこんでいく。
「姫様のお肌は良いですね…。若いって羨ましいですわ」
日に焼けたことのない肌はどこまでも白く、そしてハリがある。終わりましたよ、という女官の掛け声と共にさっとノエルが夜着を着付けた。
「…貴族のご婦人方は毎日こんなのしてるのかしら」
「面倒だと思っておられるのは姫様ぐらいです」
「……一言多いわよ、ノエル」
申し訳ありません、と反省した様子のないノエルが答える。
ふいにざわりと湯殿の奥がざわめいた。すると、湯殿の帳がさらりと捲られバスローブを纏った金髪の少女が姿を現す。少女はレミニアリスをその目にとめるとパッと顔をそ輝かせ、小走りになってこちらへ向かってくる。
「お姉様!こんなところでお会いできるなんっ」
ずしゃっ。
レミニアリスを『お姉様』と呼んだ少女は手前で盛大にコケてみせた。働く女官たちの声で賑わっていたはずの湯殿は一瞬で凍りつく。レミニアリスは呆れながら少女へと手を伸ばした。
「セシリア、……コケることがわかっているなら走らないほうがいいと思うけれど?」
無駄に凝った母のこだわりによってここは全て岩だ。そんなところでコケてしまったこの子が少々、哀れになる。
少女の名はセシリア・レヴェイン。正真正銘のレヴァイノス帝国第二皇女だ。実姉であるレミニアリスから見ても可愛いと思える容姿に、ゆるくウェーブする金髪はセシリアの雰囲気をそのまま表していると思う。
「お姉様はどんな時でも湯殿に来ればさっさとお帰りになるんですもの」
頬を膨らませてレミニアリスの手をとり、セシリアは立ち上がった。
「……そうだったかしら?」
「もうっ!姉妹水入らずでお話しましょう、って言ったのに逃げたのはお姉様ですよ!」
そんなこともあったわね、と明後日の方向を向く姉をセシリアはうるうるとした瞳で見る。…その視線に耐えられなくなったレミニアリスはセシリアと向きあった。
「…しょうがないなぁ。今回だけよ、セシリア。もうないからね」
言い終わるや否や、グイグイとに引っ張られ、強制的に浴槽へ入れられる。驚いている暇もなく、レミニアリスは再び湯船へ身体を沈めた。
「ね、お姉様?聞いてもよろしいですか?」
髪を1つにまとめ終わったレミニアリスは何気なく「ええ」と答える。
「……ザーシュバルドの王太子殿下と婚約なさったのでしょう?お姉様、まだ婚約したくないって仰ったのになぜですか?」
まさかセシリアの口からは聞けるとは思っていなかった言葉だった。核心を突かれたレミニアリスはしばし躊躇う。
「えっ……と。わからないわ」
「わからないのに婚約なさったの??」
「ええと。そういう訳ではなくて………」
「ではどういうことですか?」
純真で裏表のない質問はときに悪意を持つこともある。セシリアのように黒さを知らない無邪気な子を相手に『面倒くさいお姉様から逃げるため』という理由はいくら説明しても通用しない…と思う。
「……好きになったからよ」
「はい?」
「ザーシュバルドの王太子殿下!好きだったの!」
嘘八百もいいところである。ノエルはギョッとしてこちらを見ているし、女官達は興味津津で顔を輝かせている始末だ。
「まぁ………お姉様が??きゃーーっ!////」
セシリアは頬を上気させ、手足をばたつかせる。
「ふふふ、いいこと聞きましたわ~!」
ほくほく顔のセシリアとは対照的にレミニアリスは頬をひきつらせた。
レミニアリスには同腹の妹が1人、異母姉妹が3人います。
第一皇女 レミニアリス
第二皇女 セシリア ☜new!
第三皇女 ロゼライン ☜new!
第四皇女 エリザベート
第五皇女 ミュリリアンヌ
エリザとミュリーは知ってのとおりですが、ロゼラインは登場していません。
いずれ出すつもりなので取り敢えず名前だけ、です。
よろしくお願いします<(_ _;)>