婚約者は 6
トントン、と軽いノックの後レミニアリスは「はい」と返事をする。今は夕食後で、静かに本を読んでいたいのだが。
「姫様、お時間はよろしいですか??」
かちゃりと扉をあけて入ってきたのはノエル。その腕にはたくさんの資料が抱えられている。そしてえいやっ、とばかりに重量感のある紙の束をレミニアリスの前の机に置く。
「それはなに?」
「皇后陛下から目を通しておくようにと厳命されたものでございます。……姫様、逃げないで下さいませ」
腰を浮かせかけていたレミニアリスは知らんぷりだ。それにしても、この量は多すぎやしないだろうか。パラパラとページをめくると、それはすべてドレスのカタログばかりだ。
「……まさかと思うけど、これは持っていく分になるの?」
「さぁ……私ごときには皇后陛下の考えはわかりませんが」
さらりと質問をかわされる。
「それで、これに目を通して明日お母様のところへ赴けばいいのね」
察しがよろしいことで、とノエルは肯定した。
「姫様、少し小耳に挟んだのですが」
「んー?なにかしら」
思い当たることはない、と思う。ノエルは珍しく躊躇い、しかしきっぱりと聞いてくる。
「……姫様が王太子殿下と糸杉の森で密会を」
「ないっ!してないっ!!絶対に!」
最後まで言わせずその言葉を遮るようにして立ち上がる。と同時に膝の上にあった資料はバサバサと床に落ちた。
「ならばようございました。…女官の間でそのような噂が広まっておりましたゆえ、ご確認をしようと思いました」
「………ソウデスカ。アリガトウゴザイマス…」
はぁーっ、と深くため息を付いて落ちた資料を拾う。まさかそんな話がながれるなんて、本当に困ったものだ。
「姫様は本当に王太子殿下とご婚約なされてよかったのですか?」
唐突に発せられたノエルの言葉にきょとんとし、次の瞬間にはそれを笑い飛ばす。
「いったじゃないの。お姉様と離れること、それが目的だって」
「ですが2つ目を伺っておりません」
あら?と思い返すとそうだったような気がする。……お姉様のじゃまが入ったのだった。
「……政略結婚だから私のことは愛さなくても構いません、って言おうと思って」
「………は?」
「だーかーらー。皇女の結婚なんて所詮、国のため。そこに私情はないから、愛さなくても構わないってこと」
ノエルがこんなに固まった事をみたことがない。それほどまでにレミニアリスの発言は突拍子もなかったのだ。
「どうなるかはこれからだけど……。別に愛妾がいたって構わないけれど、そこは勘弁してほしいわ~。あ、いないって仰ったかしら……ねぇ、ノエル?」
「そうですね……。………取り敢えず湯浴みをしてきてください」
妙にノエルに急かされてしまい、レミニアリスは首をかしげる。
そんな主にノエルはこれからの苦労を思った。
ノエルはかなり有能そうですよねヽ(•̀ω•́ )ゝ
よろしくお願いしますm(_ _)m