婚約者は 4
*ルベルト視点です*
「第三妃の娘……エリザベート殿とミュリリアンヌ殿だな?」
空は薄紫に染まり、宮殿内には明かりが灯されている。回廊をレミニアリスと共にエントランスへと急ぎながらルベルトは記憶を掘り返す。
現皇帝の妃は3人。エリザベートは第四皇女で、ミュリリアンヌは第五皇女だったか。
「はい。お母様の身分がそう高くなかったので……私より年上のなのですけれど、皇女の順番は低いのです」
レミニアリスは渋面をつくって語る。
「……第三妃様はもともと、お父様の寵姫だったそうです。お母様がこちらに嫁いで来た頃から寵愛が薄れたと耳にしました」
「よくある話だな。……エリザベート殿はそれ以前の子供になるのか?」
そうなるでしょうね、とどんどんレミニアリスの表情は暗くなる。それを見てルベルトは立ち止まった。
「どうかなされました?王太子殿下」
天青石の瞳は曇り、森で見たような輝きを宿していない。ルベルトはレミニアリスに近づくとその額を指ではじく。
「っ!?」
驚きに目を丸くしたレミニアリスはひたいを両手で押さえている。
「暗い顔になり過ぎだ。……姉君につけ込まれるぞ?」
一瞬、泣きそうな顔になったレミニアリスにルベルトのほうが慌てた。
「いや、別に、好きで殴ったわけではなく……!表情が暗かったからで……」
すると、今度はクスクスとルベルトを見て笑い出す。年下のレミニアリスに笑われるのは妙だが、気分が晴れたならそれで良しとしよう。
「ありがとうございます。……それと1つ、お願いしたいことがあるのです」
「お願い?できる範囲ならなんでもするつもりでいるのだが……」
内心、「お願い」といわれて胸が鳴る。……こういうときはどうすれば良いのだろうか?だめだ、恋を知ったばかりの少年のようではないか。
「お姉様に王太子殿下のことをはっきりと婚約者だと認識させたいのです。お姉様は……多少、奔放なところがありますから」
返ってきた答えにほっとしながら、肩を落とす。
「…わかった。こっちとしても夜会やらで絡まれる前に手は打っておきたいから、丁度いい」
そう答えたとき、エントランスへ入り込む。そこにはわらわらと人だかりができている。
しばらくの間、見ていたが姉2人は呆れてしまうほど傲慢だと思った。
「なんて、なんて……無礼な!」
こちらに姉皇女の来訪を告げた女官に手があげられそうになったとき、思わずルベルトは空を切った手を掴んでいた。あ
「……レヴァイノスの皇女殿下ともあろうお方が不当な理由で臣下に手をあげるのはどうかと思われますが」
感情を押し殺した声は低く、ある意味冷酷に響いた。
「レア様が!この方はどなたですの?!」
その問いに、レミニアリスは行動で示して見せる。
「こちらは、ザーシュバルドの王太子殿下。そして私の婚約者殿です」
ぎゅむっ、と腕に手を絡まされぎょっとする。そしてふわりと花の香りが鼻をかすめた。
──────お姉様に王太子のことをはっきりと婚約者だと認識させたいのです。
その言葉がなければ、きっと今頃おかしな表情になっていただろう。
腕に絡みついたぬくもりはすぐに離れてしまったけれど。
明日はテスト前なので投稿はできないかもしれません…!
よろしくおねがいします.m(_ _)m