双子と目 中
なんでだろう。
ずっと思ってたんだ。
だって、ほかのやつは竜手様のところに何回も行ってる。
なんで、俺たちだけ、いけないんだろう。
少しでも近付くと村の大人たちは烈火の如く怒った。
なんでだろう。
なんでだろう。
「・・・・三、蔵・・・・」
目の前の仁が、黒くて大きい目をこれでもか、というくらい開いてる。
なんだよ。やめろよ。
三蔵はそう言いたかった。
でも、出来なかった。
仁は、そういう冗談を言わない。
それに、三蔵自身感じ取っていた。
背後の、人ではない存在を。
[跪け]
聴覚ではなく、頭の中に声が響いた。
いよいよ最高潮まで達した心拍が、三蔵の耳に聴こえてきた。
全身ががくがくと震える。
逃げ出したかった。
だが、足が動かない。
[敬え、願え、唱え]
人の声とは思えないような声が響き続く。
ゆっくりと、三蔵は全身の拒絶に抗い振り向いた。
「・・・・・っ、あ・・・・
おかあ、さん?」
そこには、涙を流す母の後ろに、白い着物から除く限りの皮膚には無数の目、目と目のあいだに竜のような鱗を持った人間が立っていた。
「・・・竜、手、さま・・・・お許し下さい・・・あの子は、三蔵と、仁は・・双子ではありません・・・・」
母親が請願するように泣きながら呟く。
三蔵は、頭の中が真っ白になっていた。
[少年・・・・お前たちは・・・双子だ・・・紛れもない・・双子だ・・・ただ・・生まれる腹が違うだけ・・・私が、そうした・・・女・・・この女も双子だ・・女は・・言い伝えを守らなかった・・守らなかったから・・・お前たちの心臓と・・・目を・・貰う・・]
仁は状況が理解出来なかった。
目の前で起きていることより、たった今この男、竜手が言った事思考を巡らせていた。
(違う、腹から生まれた、、、?)
それに、母も双子だと言う。
呆然としながら前の弟の顔を見た。
弟はがくがくと体を震わせ、母の顔を見ていた。
[差し出せ・・・目・・・心臓・・]
「・・・お母さんから、離れろ!!!」
三蔵は涙でぐちゃぐちゃの顔で唇を引き締め、近くの棒を持って立ち上がった。目の前の自分達を脅かす「敵」はいとも簡単に三蔵の首を掴む。
仁は涙と汗が混じった顔を引きつらせ、必死に祈った。
(ゆめだ、夢だ、きっと覚める。大丈夫。夢だ、夢だ・・・・!!!)
だが、無常にも三蔵の悲鳴が耳を貫いた。
「ああぁああああぁぁぁあああ!!!!」
もう、ダメだーーーーそう思い、目を閉じた。
途端、目の前の竜みたいな人間が呻き声を上げ、まぶたの裏に光が走った。
先までの身を突き刺す殺気は消え、三蔵の悲鳴も止み、柔らかい空気が肌を巡った。
「・・・・仁、三蔵、目を開けて」
そうか。やっぱり夢だったんだ。
なら、起きて顔を洗って着替えなきゃ。
その前に弟の顔も拭いてやらなきゃ。悪い夢だった。長い夢だった。
母の暖かな声が耳を擽り、そっと三蔵と仁は目を開けた。
だがそこには、ボロボロの体で微笑む母親がいた。
「・・・ごめんなさいね。仁、あなたはわたしの子よ。三蔵・・・あなたは、私の双子の姉さん・・10年前、病で死んだ、時屋 輪花の息子。この村には、双子が生まれたら両方殺せ、という恐ろしい掟があった。でも私たちは竜手様を当時、あまり信仰していなかった。時代の流れね。それに、体も弱かったし、何より重大なお寺の子供だったの。だから村の人が匿ってくれて、別々に育てられたの。
それが・・・・同じ日、同じ場所で、全く顔も血液型も一緒な貴方達を産んだ。すぐに竜手様が怒っているんだとわかったわ。そして、姉さんは死んだ。病に倒れた。
だから、ごめんなさいね。貴方達を巻き込んでしまったわ。」
母、時屋 天花は美しく、笑った。
「おかあさ・・・・」
「ここでお別れよ。仁、三蔵。私は、消えてしまうわ。
最後の言葉よ。しっかりよく聞いて。
・・・・・・あいしてる。」