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ラヴァーズ  作者: 水瀬 ハル
8/20

双子と目 中

なんでだろう。

ずっと思ってたんだ。


だって、ほかのやつは竜手様のところに何回も行ってる。

なんで、俺たちだけ、いけないんだろう。

少しでも近付くと村の大人たちは烈火の如く怒った。


なんでだろう。

なんでだろう。




「・・・・三、蔵・・・・」



目の前の仁が、黒くて大きい目をこれでもか、というくらい開いてる。

なんだよ。やめろよ。

三蔵はそう言いたかった。

でも、出来なかった。

仁は、そういう冗談を言わない。

それに、三蔵自身感じ取っていた。


背後の、人ではない存在を。


[跪け]


聴覚ではなく、頭の中に声が響いた。

いよいよ最高潮まで達した心拍が、三蔵の耳に聴こえてきた。

全身ががくがくと震える。

逃げ出したかった。

だが、足が動かない。


[敬え、願え、唱え]


人の声とは思えないような声が響き続く。

ゆっくりと、三蔵は全身の拒絶に抗い振り向いた。


「・・・・・っ、あ・・・・



おかあ、さん?」


そこには、涙を流す母の後ろに、白い着物から除く限りの皮膚には無数の目、目と目のあいだに竜のような鱗を持った人間が立っていた。


「・・・竜、手、さま・・・・お許し下さい・・・あの子は、三蔵と、仁は・・双子ではありません・・・・」


母親が請願するように泣きながら呟く。

三蔵は、頭の中が真っ白になっていた。


[少年・・・・お前たちは・・・双子だ・・・紛れもない・・双子だ・・・ただ・・生まれる腹が違うだけ・・・私が、そうした・・・女・・・この女も双子だ・・女は・・言い伝えを守らなかった・・守らなかったから・・・お前たちの心臓と・・・目を・・貰う・・]



仁は状況が理解出来なかった。

目の前で起きていることより、たった今この男、竜手が言った事思考を巡らせていた。


(違う、腹から生まれた、、、?)


それに、母も双子だと言う。

呆然としながら前の弟の顔を見た。


弟はがくがくと体を震わせ、母の顔を見ていた。


[差し出せ・・・目・・・心臓・・]


「・・・お母さんから、離れろ!!!」


三蔵は涙でぐちゃぐちゃの顔で唇を引き締め、近くの棒を持って立ち上がった。目の前の自分達を脅かす「敵」はいとも簡単に三蔵の首を掴む。


仁は涙と汗が混じった顔を引きつらせ、必死に祈った。


(ゆめだ、夢だ、きっと覚める。大丈夫。夢だ、夢だ・・・・!!!)


だが、無常にも三蔵の悲鳴が耳を貫いた。


「ああぁああああぁぁぁあああ!!!!」


もう、ダメだーーーーそう思い、目を閉じた。


途端、目の前の竜みたいな人間が呻き声を上げ、まぶたの裏に光が走った。

先までの身を突き刺す殺気は消え、三蔵の悲鳴も止み、柔らかい空気が肌を巡った。

「・・・・仁、三蔵、目を開けて」


そうか。やっぱり夢だったんだ。

なら、起きて顔を洗って着替えなきゃ。

その前に弟の顔も拭いてやらなきゃ。悪い夢だった。長い夢だった。

母の暖かな声が耳を擽り、そっと三蔵と仁は目を開けた。


だがそこには、ボロボロの体で微笑む母親がいた。


「・・・ごめんなさいね。仁、あなたはわたしの子よ。三蔵・・・あなたは、私の双子の姉さん・・10年前、病で死んだ、時屋 輪花(リンカ)の息子。この村には、双子が生まれたら両方殺せ、という恐ろしい掟があった。でも私たちは竜手様を当時、あまり信仰していなかった。時代の流れね。それに、体も弱かったし、何より重大なお寺の子供だったの。だから村の人が匿ってくれて、別々に育てられたの。

それが・・・・同じ日、同じ場所で、全く顔も血液型も一緒な貴方達を産んだ。すぐに竜手様が怒っているんだとわかったわ。そして、姉さんは死んだ。病に倒れた。



だから、ごめんなさいね。貴方達を巻き込んでしまったわ。」


母、時屋 天花(テンカ)は美しく、笑った。

「おかあさ・・・・」



「ここでお別れよ。仁、三蔵。私は、消えてしまうわ。

最後の言葉よ。しっかりよく聞いて。



・・・・・・あいしてる。」


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