業務依頼
「・・・で、調べて欲しいのは夕野 茜 六尾学園高等部、17歳で間違いないか」
三蔵がふぅー、と煙草から煙を吹き出す。
その様子に顔を顰めるでもなく、九条はああ、と呟いた。九条の真新しい白シャツの背景に、すすけた山積みの文献が見える。三蔵は不釣合いだな、と苦笑しながら煙草の灰を灰皿に落とす。
「ほぉー。六尾村ってのは確か、七年前に奇祭で女の子が一人死んで、以降禁止になった所だな。」
三蔵が煙草をくわえながらそう呟いた。
九条はこくり、と頷く。
「六尾村は閉ざされた村だ。外部の人間が近寄るといい顔をしない。何人かこの前にも探偵をあたったがみんななんの情報も得られず終わった。・・・残るはあんただけだ。いくらでも金は払う。だから、夕野 茜について、よろしく頼む。」
九条がぺこりと頭をさげる。三蔵はにやりと笑った。
「おー。任せなさんな。成功報酬の支払い先は後で送るよ。先ずは調べるから気長に待ちな。報告は一週間に一回でいいか?」
三蔵がそう言うと、九条は少し目線を下げ.低く呟いた。
「・・・いや、一日一回だ。迅速に頼む。」
「察するに、時間がないようだな。分かったさ。報酬は2倍だがな。」
九条はその言葉にほっとしたように頷き、やがて写真の入っていた鞄を持ち、失礼する、と三蔵に背を向けてたてつけのわるい木造の扉を開け、去って行った。
やがて九条の気配が完全に消えた頃、三蔵は畳の上に山積みになっている本に腕枕をしながら寝そべり、瞼を閉じた。
「・・仁。」
唐突にだれもいない空間へと三蔵が呟いた。
やがて何かの気配が三蔵の隣へやってくる。
三蔵は瞼をうっすらと開ける。
自分とおなじ、だが随分と色白な青年が居るのを確認し、三蔵はまた瞼を閉じる。
「六尾村について、ーーそれからできたら、夕野 茜について調べて来てくれ。」
そう呟くと、青年ーーーー三蔵と双子の兄だった仁がゆっくりと頷くのを三蔵は空気から感じた。
三蔵はがりがりと頭を掻くとまた起き上がり、部屋の隅のほうに積み上がっている文献の山をあさり始めた。
「・・・仕方ねえ。六尾と言ったらサキばあか。」
ぼんやりと、誰に言うでもなくそう呟いた。