選ばれた瞳
無言で鍵を開けると、既に靴があった。
密かにため息をつき、桂は歩みを進めた。
「あら桂。かえって来たのね、丁度いいわ。こちらへいらっしゃい。」
先程の靴の持ち主、和美がにこ、と笑う。
桂は返事をせず、和美の元へと歩み寄った。
「七年前に御子下ろしが終わったとは言え、完全に途絶えてはいないのは知ってるわよね?」
「・・・・・」
「今は、バラバラに御子下ろしをしている。・・・桂。あんたの目が選ばれたわ。儀式は一週間後。私が言いたかった事はそれだけよ。あああと・・・ほら、夕飯」
そう言って和美は、近くにあった皿を桂の頭上へと投げつけた。
熱々のスープが桂の額や頬を伝う。
「あはははは!ごめんねぇ。手が滑ったわ。じゃ。アタシはお店に行ってくるわ。
・・・七年前、あんたが選ばれれば良かったのにね!でもまあ良かった・・あんたのその忌々しい目がなくなるんだから。」
和美は低く、そう呟くと桂の隣を通り過ぎた。
桂はふう、と息を一つ吐く。
和美は相変わらずだ。それはいい。
だが、問題は。
「・・・御子下ろし、か」
髪の毛から垂れる雫が溜まり、水溜りが出来る。それをぼんやりと見つめながら誰もいない空間にそう言い放った。