プロローグ
「この街から出れたらね、花畑に行こうよ。それでね、いっぱい世界を見るんだ。
」
両手を広げて子供みたいにはしゃぐ彼女を、風がせせら笑うようにカーテンを揺らした。
彼女を照らす赤に、そろそろ時間か、と心の中で呟く。
「ああ。そうだな。そろそろ帰ろう。茜」
出来るだけ優しく、呟くようにそう告げると、彼女はまた満面の笑みでうん、と元気良く頷いた。
生徒達の喧騒をくぐり抜け、ふとグラウンドに目をやる。
そこには白いユニフォームに身を包んだ生徒達が、息も切れ切れに声を出していた。
カキン、と気持ちのいい金属音が鳴る。
その姿を見ることなく視線を前に戻した。
横の彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながら笑っていた。
その姿にほっ、と心の中で息を吐く。
踏み切りの警告音に足を止め、前を見据える。茜色の光が彼女と自分を照らしていた。
「じゃあね、桂。また明日。」
ふふ、と幸せそうに笑いながら彼女は手を降った。
「うん。また明日」
我ながら爽やかな笑顔で桂は手を振り返す。
端からみたら二人はさぞかし仲の良い恋人同士に見えただろう。
桂は踵を返すと、先ほどとは一転し、無表情で帰途へとついた。
夏の、生暖かい風が桂の頬をくすぐった。