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世界を救うのは私情オンリーで1

「あらすじ」

 見習い天使エアリアは一人前の天使になる為、勇者を見つけ出し、その手助けをして魔王を倒させるという役目を与えられた。直属の上司であり、天使長であるハビエルに渡された勇者センサーによってエアリアが出会ったのは、強烈な個性を持った3人の少年少女だった。





【田舎道】

 のどかな田舎の道を少女がきょろきょろとあたりを見回しながら歩いている。青い瞳、金髪をツインテールに結び、派手すぎない程度にフリルのついた服を着ている。手には何やら奇妙な装置を持っている。何より特徴的なのはその背から生えた薄黄色の羽と、頭上に浮かぶ水色のわっか。少女の名前はエアリア。誕生してからまだ幾ばくも経っていない、見習い天使である。

エアリア「本当に、こっちでいいんでしょうか…」

 エアリアは装置を見て小さく呟く。そして、その装置を彼女に渡した上司の顔を思い出した。長い水色の髪に緑色の目、上位の天使を現すまっ白な羽と金色のわっか。天使長ハビエルは、天使をまとめ上げる立場だが、見習いの天使を育てる役目も自分からかって出ている。

エアリア「何か段々人里を離れてる気がするんですけど…大丈夫かなぁ」

 エアリアはそう呟いて前方を見る。道は森へと続いているが、装置は確かにその森の中を指し示している様だとエアリアは小さくため息をついた。



【森の中の道】

 木漏れ日のさす森の道をエアリアは歩いている。鳥の声がして梢を見上げるが、何処にいるのかわからなかった。

エアリア「此処、人が住んでるんでしょうか…」

 暫く歩いた所で、エアリアは人を見つける。銀色の髪をした恐らく12歳前後位の少年だ。木陰に座って大きな本を抱えるようにして読んでいる。装置が少年に反応している事に気付き、エアリアはゆっくりと近づく。

エアリア「あの…」

少年「…何か用ですか?」

 少年は本から顔を上げずにいう。エアリアは少しうろたえた後、覚悟を決めた様にいう。

エアリア「勇者さまになってくださいませんか?」

少年「…は?」

 少年は虚を突かれた様な表情でエアリアを見る。紺色の瞳と目が合い、エアリアは力一杯主張する。

エアリア「あなたの力が必要なんです!」



【森の中の私塾】

 とりあえず、落ちつけ、とエアリアは少年に連れられてさらに少し奥にいった所にあった建物を訪ねることになった。少年と同年代だったり、少し上だったり下だったりの何人かの子供たちの姿がある。その中に一人、亜麻色の髪をした青年がいた。青年は少年を見て薄青の瞳を瞬かせる。

青年「おや、マグ。また一人で出歩いていたんですか?」

マグ「…だって、メアリーたちが邪魔で本が読めなかったんです」

 マグ…マーガレット=ヴェクサシオンは抱えた本をぎゅっと抱きしめた。青年は少し困った顔をし、少年の傍にいるエアリアを見て少し驚いた顔をした。

青年「ん?あなたは…」

エアリア「見習い天使のエアリアです。勇者さまを探しています」

青年「そうですか。大変ですね」

 私の名前はラキスです、と青年は小さく微笑みを浮かべる。エアリアは苦笑した。

エアリア「あ、あはは…。それで、えっとですね、この勇者センサーがですね、彼に反応したんです」

ラキス「…えっ」

 ラキスはエアリアが持った装置とマグを見比べる。そしていぶかしげな顔をする。

ラキス「…何か、反応が複数ありませんか?これ」

エアリア「え?…あ、本当です。気が付きませんでした。えっと…全部でみっつ…でしょうか」

 しかも、その全てがこの周辺にある。近くに他の建物やなんかはないので、この建物の中あるいは周辺にいる可能性が高い。

エアリア「そういえば、此処は一体何なんですか?」

ラキス「此処は私が開いている私塾です。親御さんから預かって、下宿している子もいます。…彼もその内の一人ですよ」

エアリア「そうなんですか」

 ラキスがそういってマグを見ると、マグはそっと目を逸らした。エアリアは小さく首を傾げる。

マグ「…先生、魔王なんて本当にいるんですか?」

ラキス「ああ。まあ、今の所、此処までは来ていないけれど…北の方は大変な事になっているみたいですね」

マグ「そうですか」

ラキス「…まあ、此処で立ち話をするのもなんですし、一旦中に入りましょうか」


【私塾・室内】

 私塾の中に通されたエアリアは、小さな子供に囲まれた。

「何で羽根が生えてるの?」

エアリア「私は天使ですから」

「飛べる?びゅーんって」

エアリア「びゅーん、ですか?えっと、よくわかりません。飛べるのは飛べますけど」

「それなあに?」

エアリア「これですか?これは勇者センサーといって、ハビエル様が、私が役目を果たす助けになるように、とわたしてくださったんです」

「勇者?」

エアリア「はい。この世界を救ってくださる人です」

 子供たちの質問に丁寧に答えるエアリアを見て、ラキスが苦笑する。

ラキス「ブラウン、メアリー、ペネロペ、アイビー、お客様を困らせてはいけませんよ」

「「「「はーい」」」」


ラキス「…それで、彼が勇者だというのは本当なんですか?」

エアリア「このセンサーによると、そうなのです」

ラキス「…そうですか」

 エアリアは首を傾げる。

エアリア「どうかしましたか?」

ラキス「何と言うか…信じられないというか、何と言うか…ぐふっ」

「ししょー、ししょー!何の話をしてるんですかー?」

 金髪の少年が突撃気味にラキスに抱きつき、衝撃でラキスがむせる。少年は翠色の目を煌めかせた。

「ししょー、ねえ、ししょーってば」

ラキス「ピエット、ちょっと、落ち着いてください。苦し…」

 ピエット…ピエットローニャ=ハグウアスーシがラキスを揺さぶっていると、背後からつかつかと歩いてきた少女に蹴りとばされた。

ピエット「いたぁっ」

「しつこいですわよ。もう少し人の言葉に耳を傾けなさいな」

 特徴的な赤い髪をサイドテールに縛った、紫色の瞳の少女だ。彼女の言葉を聞いて、マグが小さくため息を吐く。

マグ「…彼もあなたには言われなくないと思いますけど」

「何かおっしゃいまして?」

マグ「…別に」

ラキス「ミヤビ、だからといって、人を蹴るものではありませんよ」

 ラキスは苦笑して、少女…ミヤビ=ミクリヤに呼びかける。ミヤビはぷい、と顔を背けた。

「ミヤビ、先生大好きだもんねー」

ミヤビ「な、何を言っていますのスウリ?!」

 スウリと呼ばれた少女がくすくすと笑うと、ミヤビは顔を真っ赤にして怒ったそぶりを見せた。ラキスはほんのり困った様な顔をしている。

エアリア「…ええと」

ラキス「どうしました?エアリアさん」

エアリア「センサーがですね、そこのピエットさんとミヤビさんにも反応してるみたいなんです」

ラキス「…本当ですね」

 ラキスはセンサーを確かめて、エアリアを憐れむような目で見る。エアリアはそれに気づいて小さく首を傾げた。

ピエット「オレが何だって?」

エアリア「私は勇者さまを探していたのです」

ピエット「勇者?勇者ってすごいのか?」

エアリア「どうなんでしょう」

ラキス「まあ、勇者は魔王を倒す事が役目ですから…只人には務まらないかもしれませんね」

ピエット「でも、ししょーなら魔王だって倒せるんでしょう?」

ラキス「いえ、無理です」

ピエット「え?!」

ラキス「私は、勇者ではありませんからね」

 ラキスはそういってほほ笑む。ピエットは納得がいかない、という様に口を尖らせた。

ピエット「でもししょー、やってみる前に諦めるのはよくないって言ってたじゃないですか。ししょーなら倒せます!」

 ラキスは困った様な顔をして笑う。ミヤビが無言でピエットを蹴りあげた。


マグ「その、勇者というものには今すぐならなければいけないんですか?」

 マグが冷めた目でエアリアを見つめ、問いかける。エアリアは一生懸命に考え、答える。

エアリア「今すぐならなければならないか、ですか?…わかりません。でも、今困っている人が沢山いるのは確かです」

マグ「そうですか」

エアリア「マグさんは、使命感を感じられたりは…!」

マグ「僕である必要性はないんでしょう?偶々、僕に適性があるというだけで」

エアリア「え、ええとですね、勇者さま足れる人間はあまりいなくてですね」

マグ「この私塾に通う子供だけでも僕を含めて三人いるじゃないですか」

エアリア「それは此処が特殊なだけです!…そもそも、勇者さまが複数おられるなんて私も聞いてなかったですし…」

 何やらぶつぶつと呟くエアリアを、マグは冷めた目で見る。

マグ「…それに、僕の様な子供にできる事など、たかが知れています」

エアリア「その辺りは大丈夫です。私が全力でサポートしますから!」

 マグは信用できない、という目でエアリアを見る。エアリアはしょぼんとした。

エアリア「…はうぅ。人間は難しいですハビエル様…」


ミヤビ「ところであなた」

 唐突にミヤビに話しかけられ、エアリアはきょとんとして自分を指さす。

エアリア「えっと、私ですか?」

ミヤビ「ええ、あなたですわ。わたくしに勇者としての素質がある、と仰っていたようですけれど…何を持ってそういっていたんですの?」

エアリア「ええと…」

ミヤビ「まあ、もっとも、何もかもが完璧なこのわたくしに、こなせないものなどありはしないのですけれどね。おーっほっほ」

 ミヤビはそういって小さな胸を張って高らかに笑う。エアリアはそれを見て素直に感心する。

エアリア「そうなんですか?それは素晴らしいです」

ミヤビ「だから、勇者として魔王を退治してやるのも、やぶさかではなくてよ?」

エアリア「本当ですか?!」

ミヤビ「ええ。ですから、魔王を此処へ連れていらっしゃいなさい」

エアリア「…えっ」

 ミヤビの言葉に硬直するエアリアに、ミヤビはいっそ高慢に言い放つ。

ミヤビ「退治するものの為に態々出向いてやるのは億劫だわ。だから私の前に連れてきなさい」

エアリア「ええ?!そんなの無茶ですよう」

ミヤビ「何が無茶ですの?それ位出来なくてはわたくしの下僕は務まらなくてよ?」

エアリア「…ええと、私ミヤビさんの下僕になった覚えはないんですが」

ミヤビ「あら、何故?」

エアリア「何故、って…」

ミヤビ「わたくしの力を借りることを望むのなら、その代わりにわたくしの下僕となるの位、当然の事でしょう?」

エアリア「え、そうなんですか?」

マグ「…そんな超ルール、当然のものにしないでほしいんですけど」

ミヤビ「あら、何か言いまして?マグ」

マグ「…いいえ、何も」


 エアリアにも、うすうすあの時ラキスがエアリアを憐れむような目で見た訳がわかっていた。簡単に言うのなら、大変に面倒くさい人材なのだ、三人とも。

エアリア「…三人とも、素直に勇者してくれなさそうです…」

 エアリアは小さくため息をつく。ラキスは苦笑してそれを見る。

ラキス「私は、彼らにやる気がないのなら、他の人材を探すべきだと思いますよ」

エアリア「そうしたいのは山々ですが、…恐らく、彼らしかいませんから」

ラキス「…その根拠は?」

エアリア「今代の魔王は、歴代でも五本の指に入る程強い力を持っているそうです。遠方からでも感知できる様な、強大な適性を持つ人がそうそういるとは思えません」

ラキス「だから、彼らに勇者になってほしい、と?」

エアリア「はい」

ラキス「…とはいえ、私は、彼らにその意思がないのなら、強制すべきではないと思いますから…説得の手伝いはできませんね」

 彼らを親御さんから預かっている立場な訳ですし、とラキスは付け加える。

エアリア「…ですか」

ラキス「彼らも、まだまだ幼いですしね」

 せめてあと6年…いや、4年は力をつけてから挑んでもらいたいものです。とラキスは呟く。そして、苦笑する。

ラキス「…その前にこの世界が滅んでしまったりすれば本末転倒ですが」



【私塾の傍の木陰】

 エアリアは考え込んでいた。自分はどうするべきなのか、という事である。彼女はまだ若輩である。"いと高きお方"によって作り出されてから、地上の時間で5年程しか経っていない。この、勇者を探し出し彼(或いは彼女)が魔王を倒すまでの道中の手助けをする、という役目も、彼女が見習いから一人前になるための試験の様な側面がある。

エアリア「…私はどうすればいいんでしょう、ハビエル様」

 ラキスにはああ言ったが、正直なところ、エアリアには自力で他の勇者たりえる人材を見つけられる自信がないのである。彼らが高い適性を持っているのも確かな事ではあるが。

エアリア「…でも正直、ハビエル様の仰っていたように勇者さまの手綱を取ることは、私には無理だと思うんですよね…」

 それは、エアリアの性格の話でもあるし、彼らの個性が強すぎるという話でもある。彼らに尊敬と敬意の念を持って接されているラキスはとてもすごい人なのだろう、とエアリアは思う。それがどういう意味でかと聞かれると答えに詰まるかもしれないが。

「ねえ」

エアリア「え?あ、えっと、何でしょうか」

 あの三人よりは年上であろう少年に話しかけられ、エアリアはきょとんとして返す。少年はエアリアの隣に座った。

シアン「僕はシアン。シアン=サルヴァローズ」

エアリア「エアリアです」

シアン「知ってる。あの12歳カルテットの内の三人に勇者適性があるって本当?」

エアリア「ええと、はい。勇者センサーが示していたのはあの三人ですし」

シアン「それって信用できるの?」

エアリア「天使長ハビエル様が発明したものですから」

 信用できる…はず、とエアリアは段々語尾を小さくする。そういえば父(養父)はハビエルの発明品をガラクタ或いは訳のわからないものと称していたな、という事を思い出したのだ。ハビエル自身は便利アイテムと称していたが。

シアン「ふーん。まあ、どうでもいいけど」

 エアリアはどう反応していいのかわからない、という顔をする。シアンは小さく肩をすくめた。

シアン「12歳カルテット…いや、3人ならトリオか。あの子ら、かなり癖が強いから、あの子らを連れてくってんならだいぶ苦労すると思うよ」

 僕らも苦労してるし、とシアンは呟く。実際にはこの私塾の生徒はほぼ問題児と目される様な子ばかりというのは口に出さない。勿論、シアン自身も問題児と言われていた。ラキスの教えを受けて少しは丸くなっているが。

シアン「先生(ラビ)だって時々手を焼いてるし」

エアリア「そ、そうなんですか…」

シアン「なにしろ、先生(ラビ)の私塾は親の手を焼く様な癖の強い子が集う所だしね」

 シアンはにぃ、と笑みを浮かべる。エアリアが意味を聞こうとした時、私塾の庭の方から大きな爆発音がした。エアリアとシアンの視線が揃ってそちらへ向かう。

エアリア「何か、あったんでしょうか…」

シアン「…魔術的な爆発の音、かな…。でも、あんな大きな音がする様な術を結界も無しに先生(ラビ)が使わせる訳ないし…」

 シアンは眉間にしわを寄せて立ち上がる。エアリアもそれにつられるように立ち上がった。

シアン「何か危険な事があったのかもしれないよ?」

エアリア「私も天使ですから、戦えます。それに、未来を担う子供ばかりを危険な目に合わせる訳には行きません」

 そういって、エアリアはふっと自嘲の笑みを浮かべた。シアンはそれを物言いたげに見ていたが、すぐに気を取り直して言う。

シアン「…そう。じゃあ、勝手にすれば」

エアリア「はい」

 二人は音のした、私塾の庭の方へと駆けだした。


【私塾・庭】

 庭は一目でそれとわかる程に荒らされていた。そして、人質なのか、私塾の子供の一人を腕に抱いた異形の男が、被膜でできた翼で宙に浮かんでいる。子供たちを背に庇い、ラキスが男を厳しい目で睨みつけている。

エアリア「…魔族」

 呟いたエアリアの言葉が聞こえたのか、魔族の男はニヤリと笑みを浮かべてエアリアを見た。

魔族「おやおや、これはこれは、見習いの天使ちゃんじゃありませんか。奇遇ですねえ。どうしてここへ?」

エアリア「それはこっちのセリフです!っていうか、なんですかこの状況!人の家を訪ねて行うことじゃありません!」

魔族「良い子ちゃんの天使ちゃんはこれだから…。そんなの、決まっているじゃないですか」

 そういって、魔族はその笑みを深くする。

魔族「勇者の可能性を潰しに来たんですよ」

 それを聞いて、エアリアは目を見開く。ラキスはそれまでより目つきを厳しくした。

ラキス「それで私の生徒を襲ったという訳ですか。…許しがたい」

魔族「許しがたい?ただの人間如きがだからといって何ができる?」

 魔族が嘲笑すると、ラキスは手で子供たちを制し、下がらせる。そして、自らの耳に触れた。其処には、青い石でできた耳飾りがはまっている。

ラキス「…私が真実、ただの人間であるなら、そうですね」

 ラキスはそういってふっと笑みを浮かべる。魔族が訝しげな顔をした時、ラキスの体から光が放たれる。そしてそれが収まった時、ラキスの姿が変化していた。亜麻色だった髪は金色に。薄青だった瞳も僅かに色身を変え水色に。そして、何よりの違い。背に生えた薄水色の羽と、頭上に浮かぶ銀色のわっか。

魔族「なに、天使だと…?!」

ラキス「私は智の天使ラキエル。人に良き智を与える存在。…愚かしき魔族よ、消滅したくなくば、その子を解放し、即刻立ち去るがいい」

エアリア「ええ?!」

シアン「…驚きすぎじゃない?」

エアリア「だ、だって、ラキエルって事は、あの人は」

 大袈裟な位に驚くエアリアにシアンは訝しげな顔をする。

エアリア「私が生まれる前より先に地上に降りた、私の兄にあたる人です!」

シアン「はあ?そりゃ、今の先生(ラビ)と君は似てるけど…ていうか、そんなに年離れてるの?」

エアリア「私は生みだされてから地上時間で5年ですから…大体15年差位になるんでしょうか」

シアン「…って事は君5歳児ってこと?すごく不安になってきたんだけど。ガキばっかりで世界を救いに行くって?なにそれこわい」

エアリア「な…私はいと高きお方の御手により作りだされた天使、地上に生まれる人と一緒にしてもらっては困ります!」

 未熟な状態で生まれ、肉体的に成長する必要のある人間と、生みだされた時点で肉体的に完成している天使を一緒にするな、とエアリアは怒りを表す。シアンはなにそれ、という表情をして見せる。

シアン「じゃあ、何で勇者なんてものに頼る必要があるっていうの?」

エアリア「それは…」

シアン「天使様が人間より強いってんなら、天使様で魔王を倒してくれたっていいじゃない。僕ら人間の味方だっていうんならさ」

エアリア「…天使は皆、おのが役目を果たす以上の事はしてはいけないと定められていて…」

シアン「だから、人間である勇者が動く必要がある、と?」

エアリア「…本来は、天使はこっそりと地上の生き物の手助けをするのが役目です」

 地上で人に紛れ込んで役目を果たしていた兄様の様に、とエアリアは付け加える。

シアン「で、勇者に表向き魔王を倒したものの看板を背負ってもらう必要がある、と」

エアリア「…いや、私は魔王を倒す程の戦闘力はないので、実質にも魔王を倒すのは勇者さまですけども」

 シアンが無言でエアリアを睥睨すると、エアリアは肩をすくめた。

 シアンとエアリアがちょっとした言い争いをしている間に、ラキスと魔族は争いを繰り広げていた。といっても、子供を取り返そうとするラキスと、子供を人質兼盾にしようという魔族の駆け引きといった形になっていたが。

魔族「大見えを切ったわりに、手も足も出ないようですね、天使」

ラキス「子供を人質にしなければ私と対峙する事も出来ないあなたにいわれたくはありませんね」

魔族「人質を取るのも立派な戦法です」

 ラキスは子供が負傷する可能性を思うと思いきった攻撃はできない。だが、魔族は容赦なくラキスに攻撃を仕掛けてくる。戦況は徐々に魔族に傾いていた。

ピエット「ししょー!…ひきょーもの!さっさとアイビーを離せ!」

 ピエットがそう叫んでぴょんぴょん飛び跳ねる。空を飛べればきっと魔族に殴りかかっているに違いないだろう。

ラキス「ピエット、下がっていなさい!危険です」

「…先生が反撃できないのは、アイビーがいるからだよね」

 ピエットの隣にいた少年が魔族に向けて両腕をかざす。

ラキス「エピィ、何をする気ですか、下がりなさい!」

エピィ「固まっちゃえ」

 エピィの短い呪文によって彼の手から白い光線が発射される。それは魔族…否、魔族の腕の中にいたアイビーへ当たり、彼を一瞬にして石化させる。

魔族「何?!」

エピィ「そのままお前も固まる?」

魔族「…ちっ」

 触れていた所から石化の浸食が起こるのを見て、魔族はアイビーから手を離す。石像と化したアイビーはそのまま地面へめり込む。ラキスは厳しい表情をしながらもその隙を逃さず一気に肉薄し、刃を突きつける。

魔族「碌でもない子供ですね。人質になった同胞を石化させるなど…」

ラキス「あれは後で説教ものです」

 ラキスの言葉が届いたのか、エピィはとても嫌そうな顔をした。

エピィ「いいじゃん、死んでないし怪我もしないんだから」

「だからと言って、石化させるのはどうかと思うぞ」

 エピィより年上だろう少年が困った様な顔でいう。エピィは不思議そうな顔をする。

エピィ「後でちゃんと元に戻せるのに、何がいけないの?」

「そういう問題じゃあないんだよ、エピィ」

ラキス「サーシャ、エピィとピエットを屋内へ」

サーシャ「はい、先生」

ピエット「オレもししょーと一緒に戦う!!」

サーシャ「お前がいっても邪魔になるだけだろう。先生のいうとおりにするんだ」

エピィ「煩いよ馬鹿」

 エピィがピエットの頭を割と本気で殴る。痛そうな音がして、ピエットは頭を抱えてうずくまった。

サーシャ「エピィ…」

 エピィはぷい、とそっぽを向く。サーシャはピエットを抱えあげて屋内に避難する。

魔族「忌々しい天使ですね…何故我らの邪魔をするのです?あなた達に人間を守る理由など、益など、ないはず」

ラキス「…確かに、私には"人間"を守ろうという意思はありません」

 ラキスはそこで言葉を切り、不敵な笑みを浮かべる。

ラキス「でも、この子たちは私の大切な生徒ですから」

魔族「成程、情がある、という訳ですか」

魔族が建物の方に手を翳した時、ラキスは魔族に回し蹴りをきめる。いい所に入ったのかせき込む魔族を見下したような目で見て、ラキスはいう。

ラキス「二度も同じ手をくう訳はないでしょう」

 魔族が石像と化したアイビーに目をやると、其処にはシアンとエアリアがいて、エアリアが小規模の結界を張っていた。シアンは自分と一回り近く違う少年を見おろし、厳しい顔をしている。

シアン「…下手にいじらない方がよさそうだね。アイツのオリジナルみたいだ」

エアリア「オリジナル、って…自分で開発した魔術という事ですか?そんな事…!」

シアン「…いつかはやると思ってたよ」

 シアンはそういって小さく肩をすくめた。そして、マグとミヤビ、それにスウリの12歳カルテット-1が建物から顔をのぞかせているのを見つけ、眉根を寄せる。

シアン「…本当、我らが弟分たちはやんちゃ者が多くて困るね…」

エアリア「どうしたんですか?シアンさん」

シアン「いや、別に。…ところでこの結界って内側から外側に攻撃する事って出来るの?」

エアリア「いえ、内外の全ての魔術・衝撃を弾きますから無理です」

シアン「それってつまり攻撃する為には解除しなきゃいけないってことだよね。意味ないじゃん」

エアリア「で、でも、これ位やらないと勇者さまを殺そうとするような魔族の攻撃を防ぐのは…」

シアン「それじゃ只のジリ貧になるでしょうが。君バカ?」

エアリア「はうぅ…」

魔族「…ふむ。天使を二体も相手にするというのは、無茶だったようです。しかも、それぞれ攻撃に優れたものと防御に優れたもの…互いを補える関係です」

ラキス「尻尾を向いて逃げ出しますか?」

魔族「真逆」

 魔族はその形を変えていく。その姿は最早シルエットすら人とは似ても似つかぬものであり、悪魔と呼ぶにふさわしいものだった。悪魔は姿を変えた事で喉の形が代わり、先ほどまでの様に話す事が出来なくなったのか、新たに生えた薄羽をすり合わせて音を出し、それによって言葉を紡ぐ。

悪魔『天使が魔王陛下の邪魔となるのなら、勇者ともども叩き潰すのみ』

ラキス「やれるものなら、やってみなさい。醜き悪魔よ」

悪魔『我が名はベルゼビュート!魔王陛下に仕える第一の騎士!!』

 悪魔はそう叫んで炎の息を吐く。ラキスは刃を障壁に変化させてそれを防ぐ。

悪魔『そのような障壁ごときで我が炎は止められん!』

 ラキスは炎の勢いに押されてその意思とは関係なしに後ろに下がる。それを見てエアリアが焦る。

エアリア「ど、どうしましょう、えっと、どうしたら…」

シアン「落ちつきなよ五歳児。お前、これから勇者のサポートをしようっていうんなら、あんなのと何度も戦う事になるんだろう?」

エアリア「何で落ち着いてられるんですか?シアンさん?!」

シアン「あんなものぐらいじゃ僕は恐怖を感じないから」

 それに、近くに慌ててる人がいると何か冷静になっちゃうよね。とシアンは付け加える。

マグ「たかきばしょよりみずよあれ」

ミヤビ「三界公、水官解厄大帝の名において命じ奉る。水龍よ、我が意に沿いて敵を飲み込め!急急如律令!!」

スウリ「ラーグ!ラーグ!ラーグ!全てを押し流す水を此処に!」

 マグとミヤビとスウリが其々に水の魔術を行使する。異なった(ことわり)を持つ魔術が互いに干渉し合い、その威力をただ同じ属性の魔術を合わせただけには留まらないほど爆発的に上昇させる。そしてその全てが不自然な軌道を取って悪魔に襲いかかる。

エアリア「なんてこと!」

シアン「あいつら、なんて無茶な事を…」

 興奮したように目を輝かせるエアリアと対照的に、シアンは眉間にしわを寄せる。今回は偶然よい方向に働いたが、魔術同士が干渉しあって打ち消される可能性もあったし、それどころか暴走を引き起こす可能性もあった。それだけ危険な事をしたのだ。

悪魔『グ、グ…人間のガキが、舐めた真似を…』

 悪魔はちらちらと口から炎の舌を出しながら、目を爛々と輝かせて三人を睨みつける。だが、彼は状況の判断を間違った。横合いから殴られた事で頭に血が上り、目の前の敵を忘れた。

ラキス「――灰は灰へ、塵は塵へ」

 悪魔に水魔術が直撃した瞬間から詠唱を始めていたラキスの呪文が、浮かび上がった魔法陣と魔術文字が、彼の魔術を構成するものが、彼の魔力を帯びて輝く。そしてラキスは最後の言葉を唱える。

ラキス「このどうしようもない悪魔にも主の導きのあらん事を。アーメン」

 ラキスの魔術が発動する。敵を浄化の光で焼き尽くす神聖魔術。天使にのみ使用を許された大魔術だ。溢れる光が悪魔を包み込む。

悪魔『ばかな、この私がこんな所で…!』

 悪魔の最後の言葉を飲み込み、光が収まった時、其処には既に悪魔の姿はなかった。


 ラキスは再び人の姿になっていた。エピィがアイビーの石化を解除すると、アイビーは少しの間状況を理解できていないようだったが、すぐに勢いよくラキスに抱きついて泣きだした。ラキスはアイビーを優しく抱きしめて、よくがんばりましたね、と囁きながら慰めている。それを見てエピィは理解できない、というのと泣き声が煩いというのを混ぜた様な顔をしていた。

ピエット「ししょー、すっげーかっこよかった!さすがししょー!」

「あんなすごい魔術が使えるのに先生は魔王を倒せないの?」

ラキス「それは私の役目ではありませんからね…それに、天使は世界に干渉しすぎてはいけないのです」

 ぶっちゃけ今回のは処罰ものですねー…、とラキスは遠い目をする。

「せんせーは私たちを守ってくれただけなのに?」

ラキス「人を守るためなら何でもしてよいという訳ではないんですよ」

「だからエピィは後でお説教なの?」

ラキス「ええ。ですからエピィ、自分でも何が悪かったのか、考えてみてください」

エピィ「…わかった」

ラキス「それから…マグ、ミヤビ、スウリ」

マグ「…何ですか?」

ミヤビ「なんですの?先生」

スウリ「なあに?」

 口々に答えて不思議そうな顔をした三人に、ラキスは怒った様な顔を作る。

ラキス「あなた達もです。今回はたまたま上手くいったからよかったものの…あんな危険な事、何故やろうと思ったんです?」

マグ「…だって、先生が危ないと思ったんです」

ミヤビ「生意気にもわたくしたちの居場所を破壊しようとしたからですわ」

スウリ「だって、ムカついたんだもん」

ラキス「それで、三人が同時に魔術を使った、と?」

ミヤビ「わたくしが使ったら二人も使ったんですの。ですから、わたくしは悪くありませんわ」

マグ「だって、僕は直接戦うの苦手ですから」

スウリ「三人同時に使ったのは偶々だよ?魔術の中断だって危ないじゃん」

ラキス「周囲の状況に留意して魔術を使うのは当然の事ですよ。それが出来ずしてどうするのです」

 ラキスがそういってたしなめると、マグは黙って足元を見つめ、ミヤビは拗ねたように頬を膨らませてそっぽを向き、スウリは不本意そうな顔をした。

ラキス「魔術師が頭に血を昇らせてはいけないんです」

 ラキスが静かな声で言う。

ラキス「何故なら、魔術師はそうでない人間よりも、強い力を…簡単に相手を傷つけてしまう事の出来る力を持っているからです。魔術師がその力の使い方を誤れば、自らの大切な人を傷つけてしまうかもしれません」



エアリア「兄様は、私が妹だと知っていましたか?」

ラキス「確信はしていませんでしたが、まあ、そうだろうとは思っていました。同じ色ですし」

 まあ、あなたに会うまでその存在を知りませんでしたけどね。ラキスはそう付け加える。

エアリア「そうなんですか?」

ラキス「一人前と認められて以降、役目の為にずっと地上にいましたからね。まあ、あと10年か20年したら一旦戻ろうと思っていましたけど」

 一応、定期報告はしていましたが、送りっぱなしで返信は受け取ってませんでしたし。ラキスがぽつりと呟いた言葉は、エアリアの耳には届かない。寧ろ聞かせるつもりがない。

エアリア「兄様はお仕事熱心なんですねー」

エアリアが感心したように言った時、二人の間を通って何処からともなく矢文が地面に突き刺さる。二人がぎこちない動きでそれを見る。白羽の矢である。ラキスは恐る恐るそれを地面から引き抜き、結ばれていた手紙を開いた。それを読み進めると段々ラキスの顔色が悪くなる。エアリアが首を傾げると、それを読み終わったラキスは頭を抱えた。

エアリア「どうしたんですか?兄様」

ラキス「…天界に一旦戻るように、と。所謂、召喚命令という奴ですねー…」

 ラキスが青い顔のまま遠い目をする。

エアリア「…という事は、どういう事です?」

 何で兄様は青い顔をしているんです?とエアリアは首を傾げる。

ラキス「一旦地上での役目を中断して…私塾を閉めて、天界に行かなければいけない、という事ですね」

 …まあ、十中八九、さっきの事についてでしょうが。ラキスは小さな声で呟く。(本人曰く)魔王の騎士(恐らく親衛隊)の一人を倒してしまったのだから、地上に与える影響は小さくないだろう。つまり、天使としての本分を越える行動をしてしまったという訳だ。

「ええ?!先生居なくなっちゃうの?!」

「先生居なくなっちゃやだー!」

ラキス「とはいっても、無視する訳にはいきませんからね…処罰によっては長く地上に戻ってこられない可能性もありますし」

エアリア「わ、私、兄様は間違った事をした訳ではない、と…」

ラキス「私のしたことが正しいとか、間違っているとか、そういう問題じゃあないんですよ、エアリア。重要なのは、私のしたことで、地上に大きな影響があるかもしれない、という事です」

 エアリアは押し黙る。ラキスは子供たちとエアリアを安心させるように、微笑みを浮かべる。

ラキス「大丈夫、二度と戻ってこない、という事はありませんから」

 …多分。と口の中で言った事は秘密である。



 一番年上で、遠方からラキスに師事しに来ていたサーシャとシアンが、他の地から来た子供たちを家へ送り届けることになった。

ラキス「…すみません。あなた達に迷惑をかけてしまう事になってしまいました」

サーシャ「気にしないでください。それより、先生は早く戻って、また、俺達に色々な事を教えてください」

ラキス「…ええ、約束します」

ミヤビ「…わたくしは、城へは帰りませんわ」

 ぽつり、とミヤビが呟いてそっぽを向く。

ラキス「ミヤビ」

ミヤビ「帰ったら、もう先生に師事することが叶わないのはわかりきっていますもの…わたくしは、帰りませんわ」

サーシャ「ミヤビ、我儘をいうものじゃないよ」

ミヤビ「我儘ではありませんわ!」

マグ「…十分我儘だと思います」

ミヤビ「何か言いまして?」

マグ「…別に」

 ミヤビに影響されたのか、今度はピエットが手を挙げる。

ピエット「オレはししょーについていきます!」

ラキス「無茶を言わないでください、ピエット。天界は只人に辿り着ける場所ではありません」

ピエット「でもオレは、ししょーにずっとついてくって決めたんだ!だから、ししょーが天界に行くんならオレもついていく!」

ラキス「ダメなものはダメです」

 そしてそこにマグが爆弾を投下する。

マグ「…じゃあ、僕はエアリアと一緒に行きます」

ラキス「えっ」

マグ「魔王を倒して、勇者になって先生を迎えに行きます」

ピエット「それならオレも行く!オレも勇者になる!」

ミヤビ「あなたみたいな馬鹿に勇者が務まるとは思えませんわ。文武両道、剣も魔術も使えるわたくしが勇者になりますわ」

ラキス「君たちは…自分の言っている事の意味を分かっているのか?」

マグ「はい。魔王の手下が僕らを殺しに来たから、先生は天界に帰ることになったんですよね。だからボクは魔王を倒します」

ラキス「…マグ、ちょっと落ちつきなさい。思考が短絡的になっています。確かにそもそもの原因はそうなのかもしれませんが、それは違います」

マグ「何が違うんですか?」

ラキス「私がやりすぎたのが問題だったんです…エアリアがやったと勘違いしてくれると思ったんですけどねえ」

 ラキスがぼやくと、エアリアがしょぼんとして言う。

エアリア「…兄様、私あんな高度な神聖魔術使えません」

ラキス「そうなんですか?」

エアリア「無理です」

ラキス「…そんな筈はないと思うんですけどね…」

 ラキスは物言いたげな目でエアリアを見る。エアリアは小さく首をすくめた。

マグ「…それに、勇者が魔王を倒さなくてはいけないんでしょう?」

ラキス「それは…」

エアリア「はい。魔王は地上を乱しすぎています。ですから、いと高きお方がハビエル様に魔王を倒す事を命じられ、私がその為の勇者の捜索と手助けの役目を与えられました」

 そう答えたエアリアを見て、ラキスは一瞬苦い顔をする。すぐに心配する様な表情に変わった為、それに気がついたのはシアンだけだった。



 そして結局、マグ、ピエット、ミヤビの三人はエアリアと一緒に魔王を倒す為の旅に出ることになった。

ラキス「…くれぐれも、気をつけて、無茶はしないようにね」

ピエット「オレはししょーの弟子ですから大丈夫です!」

ミヤビ「わたくしに不可能はありませんもの、心配はいりませんわ」

マグ「…無理はしないようにする」

エアリア「私が兄様の代わりに精一杯サポートしますから、大丈夫です!」

 ラキスの表情が、大丈夫かな―…、と言っていることを、シアンは口に出さなかった。その代わり、エアリアを見ていう。

シアン「君に先生(ラビ)の代わりが務まる訳ないでしょ。馬鹿じゃないの?」

エアリア「はうう…」

ラキス「…とにかく、無茶はしないでくださいね。君たちが無事に帰ってくることが私の望みです」

 ラキスはそういって四人をまとめて抱きしめた。

ラキス「…気をつけて」




【街道】

 四人が並んで歩いていく。向かう先は北方の街シディム。


―――見習い天使エアリアより、天使長ハビエル様への定期報告…

ハビエル様、私選択を間違ってしまったかもしれません!…うぅ、世界を救う勇者さまを選んで、その道中の手助けをするなんて、私には大役っていうか、荷が勝ちすぎたっていうか、役不足っていうか…とにかく、無理だったんですよぅ…。

マグさんは"結局偽善なんですけどね"ってよく解らない小難しい理屈を並べ立てるし、ミヤビさんは"何故ワタクシが他人の為に働かなければならないの?"って全然戦ってくれないし、ピエットさんは"オレ、弱いやつに興味ねーし"って私の話全然聞いてくれないし…。絶対この勇者センサー、壊れてるんですよう!

…え?"アレ"ですか?…いや、"アレは"なんていうか最後の手段なんで出来れば使わない方向で行ったほうがいいんでしょう?…っていうか、あんなの使ったら世界を救った後即行で私が殺られる気がするんですが…。

…うぅ、わかりましたよう。でも、もしもの時はちゃんと助けてくださいね?



 エアリアは、それまでの道のりで、三人が、あまり仲が良いとはいえないという事を悟った。ついでに、自分が天使として半人前もいい所であることも。それを上司に相談した結果答えは単純なものだった。

ハビエル『エアリア、そんな時こそ私の渡した便利アイテムを使うのです。その名も勇者がやる気になーる。やる気のない勇者にやる気を出させるための呪いのアイテムです』

 呪いのアイテム、と口にしている事にエアリアはつっこまない。というか、気が付いていない。躊躇うエアリアに、ハビエルは続ける。

ハビエル『大丈夫、いざとなれば私があなたを助けに行きます。これは世界を救うために必要な事なのです』

 そして、エアリアは決断した。


エアリア「マグさん、ピエットさん、ミヤビさん」

マグ「…何ですか?」

ピエット「ん?」

ミヤビ「何か用かしら?」

エアリア「えいっ」

 装置から溢れだした光が三人を包み込む。正直なところ、エアリアはこのアイテムがどういう仕組みで、具体的に何が起こるのかは知らない。そして、光が収まった後の三人の姿を見て、冷や汗を垂らした。

マグ「…!」

ピエット「なんだこりゃあ?!」

ミヤビ「一体、どういう事ですの?!」

 さっきまで、ほんの子供だった三人は、すっかり大人の姿になっていた。エアリアは何故これで三人がやる気を出す事に繋がるのだろう、と内心疑問符を浮かべる。

ミヤビ「ちょっと、エアリア、一体わたくしたちに何をしたんですの?さっさと戻しなさい!」

エアリア「え、ええと…ハビエル様にもらったアイテムをですね、使ってみたんですが…」

ミヤビ「それで、どうしてこうなるんですの?…大人になったら、先生の師事を受けることができないんですのよ?!」

 エアリアは、あー、それでか―…と思いつつ、手に持った装置を示す。

エアリア「恐らく、もう一度使えば戻す事が出来ると思うのですが、どうやら、随分発動に魔力を使うみたいで、今ので充填されていた魔力が空になってしまったんです」

ミヤビ「…そうですの。それで、あなたはどうするつもりですの?」

 ミヤビが微笑みを浮かべる。しかし、その目は全く笑っていない。エアリアは本能的な恐怖を感じて委縮するが、何とか自分を奮い立たせて続ける。

エアリア「放たれた魔力を吸収することで充填する事が出来るようなので、恐らく、魔王級の魔力を吸収させれば…」

ミヤビ「…そう、魔王級の魔術であなたを攻撃すればいいのね?」

エアリア「ち、違いますよ?!落ちついてくださいミヤビさん、話せばわかりあえるはずですぅー!!」

 エアリアとミヤビがそんなやり取りをしていると、マグがぽつりと呟く。

マグ「…つまり、魔王を倒さなきゃダメ、って言いたいんですよね」

エアリア「そ、そういうことなのです!」

 エアリアがそういって思い切り頷くと、マグがにっこりとほほ笑んだ。

マグ「…魔王が倒れたその後は、覚悟しておいてくださいね」

エアリア「それは殺害予告か何かですか?!」

ピエット「でもさー、今の方が強いんじゃね?大人になってるんだし」

ミヤビ「そういう問題じゃありませんわ!先生の前で段々花の開くようにさらに美しくなっていく予定でしたのに…一気にこんな年増になるなんて!」

マグ「…一体何を企んでるんですか…」

ミヤビ「何か言いまして?」

マグ「いえ、何も」





「今後の展開」

 旅を続ける一行は、魔王の配下、四将軍の一人の支配する街に辿り着く。そこで、魔王軍に抵抗をするレジスタンスに出会い、エアリアは三人に彼らと協力してその街を魔王軍から取り戻す事を提案する。



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