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幸運な少年1

「あらすじ」

 私立愛西高校二年生、五十海優夜は氷の王子の異名を持つ少年。だけど、その実体は表情が変わりにくい体質と口下手なおかげで勘違いばかりされる気の弱いへたれだった。彼は幼い頃からずっと幼馴染であり本物の天才である高遠悠美に恋をしていたが、他にフラグが乱立する割に、彼女にだけはさっぱりフラグがたたないのであった。





 フラグ。それは相手との親密度を高めるためのイベントの目印である。


【街路】

 朝の街を少年と少女が並んで歩いている。サラサラのショートカットに、涼やかな目元、背はそこそこ高く、バランス良く筋肉がついている少年。きりっとした目つきに、長い髪、背は少年より少し低い位の少女。胸はあまり大きくないが、貧乳という訳ではない。少年の名前は五十海優夜(いかるみゆうや)。少女の名前は高遠悠美(たかとおゆみ)。二人は同じ私立高校に通う幼馴染で、同じ高校の制服を着こなしている。

 優夜はふと、遅刻しそうなのか、パンを加えて走ってくる少女(近くの公立高校の制服だ)を見つける。

優夜『わかりやす過ぎるフラグだ。だがしかし、そんなフラグはいらない。これは避けるが吉だな』

 心の中でそう結論づけた優夜が少女から興味を逸らした時、優夜は前方から小型のトラックが妙な動きをしながらこっちに向かってきている事に気づく。

優夜『ん?あのトラック…居眠り運転…いや、運転手が意識を失っていないか?』

 そのまま行けば、自分たち、そして少女にぶつかってしまうルートだという事に気付き、優夜は短く悠美に呼び掛ける。

優夜「悠美」

悠美「わかってる」

 優夜はトラックの目の前に飛びだしかけた少女を抱き上げて安全な所に移動する。少女が驚いた顔で自分と今までいた所を見るのを意に介さず、少女が怪我をしていないのを視覚だけで確認する。

優夜「大丈夫か?」

「大丈夫、です」

優夜「よかった」

優夜『女の子に怪我させたりしたら、説教ものだからなあ…』

 優夜は両親と姉による説教を免れた事に安堵し、薄く笑みを浮かべる。それを見て少女が頬を赤く染めた所で、我にかえり、少女を地面に下ろす。

「あの、お名前は…」

優夜「急いでいたんじゃないのか?」

「あ、そ、そうだった!ありがとうございました!!」

 少女がお辞儀をした後駆けだしたのを見送った優夜は、トラックの荷台にその辺から引っこ抜いた標識をぶっ差す事でトラックを止めていた悠美が、自分に冷たい視線を注いでいる事に気付き、冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。

優夜「悠美、大丈夫?」

悠美「当然でしょう」

優夜「ありがとう」

 優夜がトラックを止めた事に対して礼を言うと、悠美はふん、と鼻を鳴らして歩きだす。優夜は苦笑してそれを追いかけた。



【愛西高校・校門付近】

 悠美と並んで歩く優夜に、すれ違う生徒の何割かが声をかけていく。優夜は一言、二言ずつそれに返事をしていく。

優夜『うーん…やっぱり、慣れないなあ…』

 悠美が微妙に気の毒そうに自分を見るので、優夜は苦笑を返す。あるいは、苦笑をするしかないともいう。その時、少女の集団に囲まれ、優夜は小さく目を見開く。

「あの、王子、おはようございます!」

優夜「おはよう」

優夜『…オレは、別に王子じゃないんだけどな…』

 内心で苦笑しながら、優夜は平然と返す。他の少女たちにも同じようにあいさつされて同じように返す。悠美がさっさと先に行ってしまった事に気付き、優夜は内心悲しく思いながらも小さく首を傾げる。

優夜「何か用?」

「えっと、その、私たち、王子に、プレゼントを受け取ってもらいたくて…」

優夜『え。そんな他の女の子から贈り物をもらったりしたら悠美がなんて思うか…。…ダメだ、冷たい目で見られるところしか思い浮かばない』

優夜「ありがとう。でも、受け取れない」

 優夜は仄かに困ったような表情をする。少女たちはなおも食い下がろうとするが、優夜は困ったような表情のまま告げる。

優夜「贈り物は特別な相手にするものだろう?」

優夜『…よく知らない相手に物をもらうのって何か色々怖いし』

 少女が引き下がると、優夜は気持ち早歩きでまた歩き出した。



【2-A教室】

 優夜が教室についた時、悠美の姿はなかった。きっと、図書室にでも行っているのだろう、と優夜は考える。悠美は読書家で、授業の合間の放課の時間には理由がない限り本を読んでいる。だから、毎朝その日に読む本を借りに行っている事を優夜は知っていた。

「優夜、宿題ってやってきたか?」

 後ろの席の少年が優夜に尋ねる。ぼさぼさの短髪に垂れ目の少年だ。彼は五十公野那智(いずみのなち)。優夜のそこそこ仲の良い友人だ。優夜は今日提出の宿題って何があったかな、と考えながら答える。

優夜「ああ」

那智「見せてくれないか?」

 照れたように笑いながらお願いのポーズをとる那智を見て、優夜はほんのりため息をつく。

優夜「自分でやらなければ意味がないだろう」

那智「んな冷たい事言うなって」

優夜「お前の為にならない」

 優夜が真剣な顔で返すと、那智はちぇ、と口を尖らせた。

那智「お前、相変わらず固いよなー」

 それを聞いて、近くにいた少年が口をはさむ。

「そりゃ、"氷の王子"だし?」

「いつも冷静沈着だから氷ってか?サブいネーミング」

優夜『それは否定しないけどオレは冷静沈着じゃないしその呼び名を認めた覚えもない』

 優夜が何とも言えない表情をしている事に気がついたのか、那智が優夜をフォローする。

那智「いや、カッコいいんじゃないか?幸福の王子みたいで。似合ってると思うぜ?」

優夜『それはフォローのつもりなのか?全くフォローになって無いんだが。そもそも幸福の王子ってカッコいいか?』

優夜「…嬉しくない」

 優夜がほんのり拗ねたような雰囲気を出すと、那智が珍しいものを見た、という様に目を瞬かせた。目を逸らした優夜は、悠美が教室に入ってきたのを見て、一気に機嫌を直す。悠美は腕に何冊かのハードカバーの本を抱えている。優夜が機嫌を直したのに気付き、その視線をたどった那智は、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

那智「へーえ。王子様もエロい事考えたりするのか」

優夜「…は?」

那智「隠さなくていいんだって。オレら、友達だろ?」

優夜「…意味がわからない」

優夜『一体こいつは何を言っているんだ?』

 そして、那智が指さす先を見て、仄かに頬を染める。クラスメートの少年の一人が、女性の殆ど隠せてない水着の写真が大きくのった雑誌を読んでいた。それを見ていたのだと思われた事に気付き、優夜は少し怒りを覚える。

那智「優夜もやっぱ胸はでかい方がいいタイプ?それとも逆に貧乳派?」

優夜『そりゃあ、小さいよりは大きい方がいいかなとは思うけど寧ろ手に収まる位のサイズの方が…じゃなくて』

 那智の言葉を聞いてそこまで考え、悠美の事を想定していた事に気付き、微妙に赤面する。

優夜「破廉恥な」

那智「これ位で破廉恥、って…お前、頭固すぎ」

優夜「女性の胸を注視するのは失礼だ」

那智「目が行っちゃうんだから仕方ねーだろ?」

 優夜が呆れたような目で那智を見ると、那智は心外だという顔をした。

那智「胸を強調してる様な服を着てる女の子がいたらそこに目がいくのは当然だろう?胸が大きい子の胸に目がいくのは当然だろう?貧乳を気にしている子の胸に目がいくのは当然だろう?つまり、男の視線が胸に向くのは当然のことなんだよ」

優夜「…意味がわからん」

優夜『とりあえず、那智が女の子の胸ばかり見ているという事はわかったが』

 優夜はそう返した所で、斜め前の自分の席に座っていた悠美から、那智ともども冷たい視線を注がれている事に気付く。弁解をしたいが、口下手なので無理だ。

優夜『…色々誤解だと叫びたい』

 優夜はこっそりと心の中でため息をついた。


 授業中。教師が微分の解説をしているのをノートに取りながらも、優夜の意識の半分は左斜め前に座る悠美に向いていた。悠美はけだるげな表情でノートをとっているが、矢張り熱心に授業を受けている様子はない。ふと、優夜の視線に気付いたのか、目が合う。優夜は微笑を浮かべて見せるが、悠美はそっと目を逸らした。

優夜『…やっぱ、まだ怒ってるのかなあ』

 そして、自分のノートが何時の間にか理解不能な言語になっていた事に気付き、苦笑して消して書きなおそうとした。が、消しゴムが転がって落ちてしまう。それを拾おうとした時、右隣の席の少女がその消しゴムを拾い、優夜に差し出した。

「はい」

優夜「ありがとう」

 優夜は小さな声でお礼をいい、微笑を浮かべて消しゴムを受け取る。少女がほんの少し頬を染めたのは、見ないふりをした。那智が女たらし―と呟くのも、聞こえないふりをする。間違っていた個所を書き直した時、ふと悠美を見ると、また目が合った。悠美の口が小さく動く。

悠美「(おんなたらし)」

 優夜がショックを受けたそぶりを見せると、悠美はふん、と鼻を鳴らしてまた前に向き直った。


 昼放課、本と弁当を持ってさっさと教室を出て行ってしまった悠美を、優夜は追いかけようとしたが、クラスメートの女の子達に捕まった。

「五十海君、よかったらお弁当一緒にどう?」

「お弁当のおかずを交換したりとか、しない?」

優夜「ごめん、先約があるんだ」

優夜『…正確には、約束してる訳じゃないけど、でも、この時間ぐらいしかあまり話したりできないし』

 優夜は自分の弁当を持ち、教室を出て悠美がいるであろう場所に向かった。



【中庭】

 中庭のベンチに悠美の姿を見つけ、優夜は近づく。

優夜「隣、いい?」

悠美「…勝手にすれば」

優夜「ああ」

 優夜は悠美の隣に座ると、弁当を広げる。その中身を見て、悠美は感心したように呟く。

悠美「相変わらず、きれいね」

優夜「父さん、凝り性だから」

 五十海家の朝食と弁当は父親の担当である。キャリアウーマンである母親が朝ゆっくり朝食を食べられるように、と父親が自分から提案したのだと優夜は聞いている。逆に、夕食は父親が一番帰宅時間が遅い為に、一番初めに帰宅したものが作る事になっている。

悠美「少し羨ましい」

優夜「そう?」

 父親は栄養バランスや見た目の彩りを考えて作るのはいいのだが、個人の好き嫌いは全く考慮しない為、優夜の苦手なアスパラガスが2週間に一度くらいの頻度で入っているのだ。母親が好きなのだという事は知っているし、春は態々家庭菜園で作ったものが食卓に頻繁に並ぶので馴染みのある野菜だが、嫌いなものは嫌いである。

 優夜は、弁当の中に入っていた肉巻きアスパラガスを箸でつまみあげる。

優夜「あげる」

悠美「好き嫌いしない」

 二人は無言で見つめ合う。そして、先に折れたのは悠美だった。小さくため息をついて、優夜の手ごとアスパラガスを持った箸を掴み、自分の口に運ぶ。硬直する優夜を気にせず、しっかりと味わって食べた後、少し意地悪そうに優夜に笑いかける。

悠美「好き嫌いをしてると、身長止まっちゃうよ?」

優夜「そんな事はない…と思う」

 否定するが、だんだん自信がなくなったのか、語尾が弱弱しくなる優夜を見て、悠美はくすり、と笑った。


 弁当を食べ終わって、持ってきていた本を読み始めた悠美の隣で、優夜は空を見上げていた。飛んでいく飛行機と飛行機雲を見て、しみじみと平和を感じる。

「こんな所にいましたのね」

 少女の声がして、優夜はそちらを見る。悠美は興味がないのか、反応もしない。ウェーブのかかった長い髪をした、目元がキツめの巨乳美少女だ。制服に改造を施しているのか、少し華美な印象がある。背はそこそこ高い。

「今年度最初の実力テストは負けてしまいましたけれど、次はわたくしが勝ちますからね」

 少女は仁王立ちしながらそう言って悠美に指を突きつける。悠美は本に没頭しているのか、全く反応しない。優夜がこっそりとつつくと、ちらりと見て、また本に視線を戻した。

「ちょっと、聞いていますの?高遠悠美!」

悠美「煩い」

 優夜は目の前の少女がテストで二位をとっていた(成績上位者の名前が発表される)六月一日宮美咲(ほずみやみさき)だという事を思い出す。ちなみに一位は勿論悠美である。ついでに言えば、優夜は割と上位ではあるが、全て3位だったリはしない。

美咲「相変わらず失礼ですわね…高遠悠美」

 美咲がそう言って鼻を鳴らす。そして、今気がついた、という様に優夜を見ていう。

美咲「あなたもですわ、五十海優夜。…数学は僅差で負けてしまいましたけれど、次は高遠悠美ともども叩き潰してやりますわ」

 そういえば、数学は2位を取ったんだった、と思いつつ、優夜は困ったように微笑う。

優夜「お手柔らかに」



【2-A教室】

 六限目が終わり、清掃の時間、那智が優夜に話しかける。

那智「高遠ってさ、美人だけどとっつきにくそうだよな」

優夜「…そうか?」

優夜『まあ、悠美は姉さん曰くツンデレだからなあ…』

 ただし、優夜は彼女のデレを殆ど見た覚えがない。殴られたり冷たい目で見られたりする事は頻繁にあるのだが。

那智「何ていうの?寄るなーってオーラを放ってる感じ?あんまり笑わないし」

優夜「ああ」

優夜『確かに、悠美は結構排他的だし、あんまり笑わないんだよな。可愛いのに、勿体ない』

那智「頭もすっげーいいみたいだし、ああいうのを天才って言うのかねぇ」

優夜「そうかもな」

優夜『でも、アイツの事を天才って言葉でひとくくりにするのは、アイツの事を理解しようとするのを放棄するみたいでいやだな』

那智「…もしかして興味がない?」

優夜「…いや」

優夜『他の奴が悠美の事をどう思ってるのかが気にならないって言ったらウソだけど、アイツ、自分の事噂されるのあんま好きじゃないみたいだからな…』

 優夜が淡々と答えて箒を動かしているのを見て、那智は不満そうな顔をする。そしてふと気がついた、という様にニヤニヤと笑みを浮かべる。

那智「そうか、優夜の好みは違うって事だな。誰だ?六月一日宮みたいな巨乳お嬢様か?安曇野みたいな貧乳眼鏡っ子か?寺沢みたいな美乳セクシー系か?それとも大穴で界間見みたいな隠れ巨乳系文学少女か?」

優夜「違う」

優夜『オレが好きなのは今も昔もずっと悠美一人だっての。…ていうか、こいつ女の子の胸にしか興味がないのか…?』

那智「大人しく白状しろっての」

優夜「何故だ?」

 優夜がうんざりした様な顔で問いかけると、那智は胸を張って答える。

那智「オレが気になるから」

優夜「却下だ」

優夜『そんな興味だけの理由で話すかっつうの。…本人にも伝えられてないのに』

 優夜がそっぽを向くと、那智は不思議そうな顔をした。

那智「何でそんなに隠すんだ?別に人に話せない様な趣味を持ってる訳じゃないだろ?」

優夜「必要性を感じない」

那智「オレは好みのタイプを聞いてるんであって、具体的に誰が好きか、なんて聞いてないぜ?」

優夜『その割には固有名ばかりでてきていたじゃないか…』

那智「潔くゲロっちゃえよ。本人に伝えたりはしないから♪」

優夜「誰が言うか」

優夜『寧ろ、お前それフラグだろ。言う気満々だろう』

那智「ちぇーっ」

 ふと、顔を上げた優夜は、丁度こちらを見た悠美と目が合う。そのまま数秒硬直し、悠美にぷい、と顔を逸らされて何となく寂しい気持ちになった。



【図書室】

 優夜は特には部活には入っていない。本当は悠美と同じ部活に入る位の事はしたかったのだが、悠美は茶華部に入り、其処が女子ばかりの部だったので諦めた。その代わり、優夜は授業後には毎日図書室に行く事にしている。流石に悠美が読んでいた本を全部読むのは物理的に無理なのでやっていないが、特に熱心に読んでいたものをチェックして、読む事にしているのだ。場合によっては借りて帰ることもある。

 図書室の中をさっと見まわした優夜は、ふと、背の低い少女が微妙に届かない位置の本を取ろうと頑張っている事に気がついた。脊椎反射レベルで刻まれた女の子を大切にしなきゃ精神が発動し、少女の傍に立ち、尋ねていた。

優夜「これ?」

「あ、ありがとうございます」

 ボブカットの髪型をした、長い前髪で目の隠れた少女だ。顔を合わせてから、優夜は彼女が那智が隠れ巨乳だと言っていたクラスメートの界間見幸(かいまみゆき)だという事に気付く。背が低いので、後輩だと思っていた事は言わないでおこう、と決め、優夜は口を開く。

優夜「危ないから、次は踏み台を使った方がいい」

 幸は受け取った本を抱きしめ、少し困った様な声で呟く。

幸「これ位なら、届くかな、と思ったの」

優夜「そうか」

優夜『確かに、いちいち踏み台を取りにいくのは面倒くさいからな…』

 優夜は肯定の意を示す。そして、ふと気がついた、という様に微笑を浮かべて付け加える。

優夜「もし、今度届かない本があって、近くにオレがいたら言ってくれ」

優夜『オレなら背が届かない本はないしな』

幸「う、うん」

 幸か不幸か、幸の耳がほんのり赤くなっている事に、二人ともが気が付いていなかった。


 携帯電話がメールを着信したのに気付き、優夜はそれを確認する。差出人は悠美で、件名はRe:何時になる?、とある。

『急用ができたから、先に帰って』

それだけの短いメールだ。それを見て、優夜は違和感を覚える。悠美はクール系美少女だが、アレで結構可愛いもの好きである。優夜へのメールには絵文字はないにしても顔文字などが使われていることが多かった。

優夜『悠美なら…"急用ができたから、先に帰ってて <(`・ω・´)"って感じかな』

 優夜はそう考えて苦笑した後、真剣な顔をした。

優夜『…まさか、また妙な事に巻き込まれてる、とかじゃないよな?』

 そう考えて、幾つかのパターンを想定した揚句、机に突っ伏した。

優夜『…否定できない。全く否定できない。…アイツ、勘違いされやすいタイプだし』

 自分の事を棚にあげてそう考えると、携帯電話をしまって立ち上がった。



【校舎内廊下】

 悠美を探して校内を静かに走り回っていた優夜は、とある教室の前で立ち止まる。

優夜『あれ、今悠美の声がしなかったか?』

 きょろきょろと見まわし、また聞こえたその声をたどって教室の中を覗き込む。そこには、何人かの少女の集団と対峙する悠美の姿があった。少女の内の一人が悠美を殴ろうとするのが見えて、優夜は教室の中に走り込む。

【空き教室】

 優夜は悠美を守るように割って入り、仁王立ちになる。思わず、という様に少女が呟く。

「何、で…」

優夜「声が聞こえたから」

優夜『全く以って事態が理解できてないけど、悠美を守るのはオレの役目だ。…いや、正直、必要ないかな、と思わないではないけどさあ、武力的な意味では』

悠美「邪魔しに来たの?」

優夜「探しに来ただけだ」

 後ろから、呆れた様な顔で問いかけた悠美に、優夜は背を向けたまま淡々と答える。

優夜『正直、つんだ\(^o^)/だよな。オレ、女の子は殴れないし。両親と姉さんの教育的な意味で。どうしようか。悠美を連れて逃げる?ええと、悠美のカバンは…』

悠美「必要ないのに」

優夜「必要だ」

優夜『主にオレの心の平穏の為に。悠美は多分放っておいても怪我したりしないんだろうけど、でも怪我する様な事はして欲しくないし、何も知らないのは不安だ』

 優夜はふと視線だけで悠美を見て問いかける。

優夜「急用って、これか?」

悠美「用があると言ったのはあっちだけど」

優夜「そう」

 そう呟いて、少女達を見据える。少女たちは何だか蒼い顔をしている。

優夜「どうしてそんな顔してるの?」

優夜『悠美を殴ろうとしたのは、自分達の方なのに。まるで、この世の終わりみたいな顔、っていうの?よくわからないな』

 優夜が僅かに首を傾げると、少女たちは口々に言い訳を始めた。主に、悠美を殴ろうとした子が悪い、その子にそそのかされただけだから自分は悪くない、という内容だ。優夜は呆れた顔をした。だが、優夜が呆れている事に気が付いているのは悠美だけで、少女達には見下したような目で見られているように感じられていた。

優夜「だから?」

優夜『そそのかされたのだとしても、行動した事に変わりはないんだから、同罪だろう。まあ、今回は結果が出る前にオレが止められた訳だけど』

「ご、ごめんなさい!!」

 リーダー格らしい少女が半泣きになりながら謝る。優夜が他の少女達に視線を移すと、他の少女達も謝罪の言葉を口にする。

優夜『…っていうか、これ姉さんに知られたら叱られるんじゃないか?どんな理由があっても女の子を泣かせた事には変わりない訳だし…ていうか、この子たち誰に謝ってるんだ?オレに?何でだ?謝るべきは、オレじゃなくて悠美だろう?…まだ実際の被害はなかったみたいだけど』

 優夜は小さくため息をつく。そしてハンカチを取りだして涙で顔がボロボロになっている少女の涙をぬぐってやる。少女が驚いたように優夜を見ると、優夜は呆れた表情のまま言う。

優夜「あまり泣くと可愛い顔が台無しになるぞ」

優夜『まあ、オレにとっては悠美の方が可愛いけど。ていうか、悠美なら泣いてたって可愛いに決まってるけど』

 背後の悠美から冷たい視線を注がれている事を感じ、優夜が思わず薄く苦笑を浮かべると、少女は真っ赤になった。ちなみに、女性に対する美辞麗句は標準装備である。



【校舎内廊下】

 少女達が大人しく悠美のカバンを返した事を内心意外に思いつつ、優夜は悠美と一緒に教室を出た。暫く両者無言で歩いていた所で悠美が口を開く。

悠美「…女たらし」

優夜「…誑かしてるつもりはないんだが」

優夜『女の子に優しくするのは当然の事だし、女の子を守るのは男として当然の事だし、寧ろ、悠美以外の女の子に興味なんかないから、誑かす事なんて有り得ないし』

悠美「…知ってる」

 優夜はきょとんとして悠美を見る。悠美は腹を立てている顔をしていた。

優夜『…もしかして、オレが気づいてないだけで悠美にもフラグが立ってるとか?』

悠美「…ばか」

 悠美の遠慮のない正拳突きが優夜のわき腹に突き刺さる。優夜は無言でうずくまる。悠美は鼻を鳴らしてそれを見た後、さっさと先に歩いていく。

優夜『…やっぱ、フラグは立ってないかも…』

 悠美の背中が遠ざかっていくのを見つめ、優夜は小さくため息をついた。






「今後の展開」

 悠美にフラグを立てようと奮闘する優夜だったが、やはりさっぱりフラグがたたない。それどころか、折ろうとしたフラグが増殖する始末。

 そんなある日、優夜は姉である優奈にあるミッションを言いつけられる。



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