The Sombre Dimanche
第六話 Sombre Dimanche
1月20日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月21日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月22日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月23日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月24日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月25日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月26日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月27日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月28日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月29日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月30日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
1月31日
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
日記には中途半端に一月二十日から判を押したように、同じ文が綴られていた。
日記とはあるが、その文面からその日に何が起きたのかかなど伺い知る事などできるはずもなく。
それは日記というよりは、自分に対してそうであったと言い聞かせるためだけに記されているかのようだった。
常軌を逸したその記録を目にし、由良は眉をしかめながらも大介に訪ねる。
「たしか紗弥子さんのお母さんは友愛教という新興宗教にハマっていたという事は調べがついているのですが、さて私達の調べでは既に繋がりは無いという事だったのですが?」
だが、大介は答えない。
目も虚ろでそもそも、由良の言葉が大介に届いているのかも怪しいところであった。
それも無理からぬ事である、常識という殻の中で生きてきた大介にとって目の前の惨殺現場の目撃も、フェアリーなどと呼ばれる寄生生物も、それはもちろんショックではあるが直接目にしたところで切り離して考えられる、空想めいた事件である。
しかし、目の前で首を吊ってぶら下がっている死体はあまりにも現実めいていて、現実であり、そして近親者がそのような姿になっているのである。
これまでの立て続けにおきた出来事から、大介が感情を手放すのも当然であった。
「大介さん、しっかりしてください」
由良は大介の肩を掴み、グラグラと大介の体を揺らす。
そこまでして、やっと大介ははっとした様子で由良を目にした。
「由良さん」
「よかった、大丈夫……ではないところで恐縮ですがこの方の話をお聞かせ願いますか」
それが正常な判断のもとであったのかは、大介さえもわからないが、大介は自分の知っている事を由良に話始めた。
「沙弥子は昔、病気がちだったんだよ。お父さんは製薬会社の人で子供の頃はよく僕にも沙弥子がよくなる薬を作って外で遊べるようにって行ってた。でも、いつからかお父さんをあまり家で見なくなって。その頃からお母さんが変な宗教を始めたみたいなんだ。その様子がちょっとスゴくて近所でも話題になってさ。それでよくうちに沙弥子が避難みたいな感じでうちに泊まりに来てたりして」
「ふむ、なるほど。業の深い話ですね」
「でも、中学に上がる頃にはそういうのも無くなってたはずなんだ。沙弥子も何も言わないからそう思ってたのに」
「……いえ、案外これを見る限り沙弥子さんも知らなかったみたいですね。……でも、これはあなたは見ない方がいいかもしれません」
由良は止めるが、大介は由良がめくり続けていた日記に手を伸ばす。
5月1日
七年耐えて待っていた甲斐があった、あと四日で尊師様がお見えになられる。
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月2日
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月3日
尊師様に粗相の無いように、沙弥子の体を確認する。
教えを守り続けた甲斐あって、良い体に成長してくれた、これも尊師様のおかげである。
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月4日
明日は尊師様達がお見えになる。
家を清潔にしておかねばならない、子供の日に大人になれるとはあの娘はなんと幸福なのでしょう。
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月5日
今日は尊師様達がお見えになられた。
七年ぶりに間近でご尊顔を拝見できた私は実に幸福だった。
祈祷師様も十人もお見えになられて儀式は始まった。
あの娘も急な事で戸惑っていたが、悪霊は事前に知られてしまうと体から逃げてしまい退治できないそうだから仕方がない。
よほど悪い物が体に入っていたのだろう、ずいぶんと暴れていたが、じきに大人しくなってくれた。
尊師の教えを守り育てた甲斐があり、娘は純血なままだった。
その事を尊師に誉められ、娘の体から悪い物は取り除かれた。
明日からはより素晴らしい一日が待っているのだろう。
今日は良い天気だった、幸福な一日だった。
5月6日
娘が風呂場で手首を切って動かなくなっていた。
尊師様曰く、悪い物がからだから出ていった時はそうなる事もあるらしい。
明日に娘が目を覚ます儀式をするために娘を連れに来るらしい、これで安心だ。
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月7日
尊師様達が娘を連れていってくれた。
夕方、主人と一緒に娘が帰ってきた。
なぜ主人と一緒なのか問いただしても主人は答えず、娘は駅で偶然会ったとしか言わなかった。
おそらく主人も娘も尊師様の奇跡に戸惑っているのだろう。
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月8日
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月9日
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月10日
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月11日
今日、尊師様から連絡があり。娘は無事に蘇ったが悪い気が残っているのでこちらの聖域でしばらく養生しなければならないという話だった。
おかしい、娘は家にいるというのに。
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月12日
今日も良い天気だった、幸福な一日だった。
5月13日
今日、尊師様の元で修行を積んでいるという娘から連絡があった。
意味がわからない、娘は部屋にいるというのに。
果たしてどちらかが悪い物なのだろうか、ならばここにいる娘は偽物なのだろうか。
明日にもう一度連絡をとってみる事にする。
5月14日
家にいる娘について、それは幻であり私の徳がたりないから観えてしまうのだと諭された。
おかしい、娘は確かに存在する。話ができるし触れもするのだ。
おかしい、おかしい、おかしい。
5月15日
娘と昔話で談笑する。
この娘は幻でもなければ偽物でもない。
母親である私が間違えるはずもないのだ。
5月16日
娘と料理を作った。
5月17日
娘とテレビを観た。
5月18日
娘から学校の話を聞いた、大介君とは変わらずに仲が良いらしい。
小学生の頃はよく遊びに来てくれたし、娘が泊まりにも行ったりしていた。
どこか懐かしい。
5月19日
主人が帰ってきた。
娘と二人で晩ご飯をつくって主人を待った。
主人は美味しいと言って泣いてしまった。
そこまで喜ばなくてもいいのに。
5月20日
主人と娘と三人で買い物に出かけた、三人で出かけるなんていついらいだろう。
ここのところ毎日が楽しい。
肩の荷が降りたようだ。
5月27日
久しぶりに電話があった、幻は消えたかと意味不明な事を言われた。
あと、娘と名乗る人から話をされたが意味がわからなかった。
5月30日
なにか明日は皆さんでお見えになるらしい。
私が幸福かどうか調べに来るらしいのだが。
6月1日
娘は偽物だった。
6月2日
偽者が私に微笑みかけてくる! 紗弥子と全く同じ姿で! 同じ温もりで!
でも、違う!
偽者はそんな事はないというが、親の私には解る。
自分の腹を痛めた子を間違えるはずがあるものか!
6月3日
紗弥子じゃない、けど紗弥子よりも、優しく微笑みかけてくる。
偽者なのに偽者なのに偽者なのに、どうして本物よりも私に優しくするのだろうか!
私はアイツの親なんかじゃない!
6月2日
かえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえして
6月3日
何も信じられない、私はただ娘を幸せにしたかっただけなのに。
6月4日
目をつむるとあの娘の笑顔が見られる、だからずっと目をつむっていられるようにしたいと思う。
日記はそこで途切れている。
狂信で始まり、幸福を得て、最期には絶望で終わる日記ではあったが、一連の綴られた文面は激情と苦痛で彩られており母は単純に一握の幸せを求めていたということだけは伝わってきた。
それを感じたうえで、由良は吐き捨てるように言った。
「酷い母親ね」
日記を目にし困惑と同時に、同情めいた感情を持ち始めた大介はその言葉にハッとする。
最期はまるで被害者のように感じられるが、理由や動機はどうあれ、あきらかにこの母親は加害者であった。
「死体の状況を考えると、ここ二日以内というところですね。日記の日付の通りに首を吊ったとは考え憎いです。ともあれ死体は降ろしますか。手を貸してください」
由良に行われるままに大介は沙弥子の母親の死体を下ろすのを手伝うが硬直し、力の作用の無い体は二人ではとても支えきれず五十キロ前後であろう体はさらに重く感じられ、床に下ろすのがやっとだった。
「さてと、私はこの母親の宗教に関する手がかりを調べますか、大介さんは沙弥子さんに電話をしてもらっていいですか?」
「え、出ますかね……」
「もし、この日記の通り沙弥子さんが怪物で外の事件の犯人だったとして。これだけ時間が過ぎれば落ち着きを取り戻すでしょう。震えるお姫様を諭すのも王子様の仕事ですよ」
大介は由良に言われるままに沙弥子に電話をかける。
呼び出し画面の沙弥子という文字を見つめながら大介は思う。
果たして、この電話にでるのは沙弥子なのだろうかと。
「……もしもし」
そして電話が繋がった。




