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U・N・オーエンの告白  作者: 面沢銀
Chapter.3 感染市街
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Sherlock


 Sherlock



「さっきの話なんだけどリス子ちゃんさ、アニメとか好きなの?」


「それはどいう意味?」


 大介と紗代子の二人と別れてから、まもなく会話の途切れた寂しさにてかねて田名部学人(たなべ がくと)小手桐子(こて きりこ)に話しかけたのだが、桐子の返事は少なからず敵意が混じっていた。


 学人は調子が良いと揶揄される性格ではあるが、その長所の部分として他人のそういった些細な言葉に含まれた感情を敏感に察する事に長けていた。

 表現を悪くするならば、他人の顔色を伺うという事に長けているという事である。


 決してそれは現代社会においてマイナスとなる特技ではない、むしろプラスに働く事である。

 言葉の端々から相手の機嫌を伺い、相手をたて、気持ちよく会話する。それは一種の防衛術であって、さらに追求するならば田名部学人の胆の小ささでもある。

 

 重ねてそれは短所では無いと明言はするが、それを的確に纏めるならば世渡り上手の小物。それが田名部学人だった。

 

 であるからこそ、この小手桐子の反応に学人は困惑を覚えるのだ。

 先ほどの紗代子との会話でアニメの話題が出たから安全牌を切ったつもりでいた学人だったが、まさかの地雷踏みであったのだから。


 『あ、いや』としどろもどろになって言葉に詰まらせる学人を一瞥しつつ、桐子はため息を混じらせながら答えた。


「たまたまよ、好きな作品だったから観てた。そう年中観てるわけじゃないわ」


「あ、そうそう。えっと、星のアスクレピオスだろ? いやさ、俺も知ってるよ、そういうのが好きな友達がいるからさ」


 二千年代に入って数年が過ぎた頃からアニメ作品は深夜の時間帯へとシフトしていった。

 児童向けを対象にした作品ならば朝夕にも多少なりとも放送されているものの、九十年代頃のように夜の七時から八時といったゴールデンタイムと言われる時間枠で放送される作品など僅かであり、それも児童向けの枠から出る事はない。

 ゆえに好んでそういった物を観賞するのはオタク趣味を持っているのだろうと、学人は考えての発言だった。


 その学人の意図を見越したからこそ、桐子は『そうは思ってくれるなよ』と言葉の棘を文字通り刺したのだ。

 桐子そう思われる事をどうしてそこまで嫌うのだろうかと、察しの良い学人は気になりはしたが触れぬ事にした。

 この辺が田名部学人の処世術の上手さである。

 また、そこで一歩引いてしまうのが普通の反応であるのだろうが、学人はめげずに話を続けた。


「それじゃ、リス子ちゃんってさ好きな事とか趣味って何なの?」


 学人の我の強さに桐子は少し面食らった様子を見せる、仏頂面からの変化がないため学人は桐子の感情の内までは察する事ができなかったが、それでも多少の好感度は望めたかもしれないという手応えを感じていた。


「ボクシングよ」


「えっ!? ボクシングって、あのボクシング。グローブをつけて殴り合う?」


「そうよ」


 感情の変化が読み取れない桐子と違い、学人の表情の変化は著しく、驚きを隠そうともしなかった。

 それは桐子の目には不快に映ったようだったが、さしもの学人もそこまで空気を読み切る事はできなかった。


 桐子の見た目は印象、そして話し方の印象にしても、そういった物に興味を持っていると連想するのは難しい。

 黒くやぼったい眼鏡と、そのフレームのおかげで目立ってはいないが、クマがかかった眼。そして日本人形のように黒く長い髪。

 黒という色のイメージから考えても、アクティブな印象を受ける事は無く、文学少女というイメージの方が強い。


 加えて色白といえば聞こえはいいが、その顔の印象から不健康そうな印象を強く受け、さらに口数も決して多くはない。

 これら全体からかもしだす雰囲気があるからこそ、学人は最初にオタクというイメージを持ったのだ。


「へ、へぇ~~。意外だなぁ……」


 にわかには信じられないという様子で学人は声をあげるも、そういった反応に桐子は慣れているのか、返事をする事は無かった。

 一瞬の沈黙の後、学人は話題を変えて話を続ける。


「そういえばさ、リス子ちゃんってあんまり誰かと話をしてる印象が無いんだけどさ」


「そうね、あまり学校では話さないから」


「ってか、普段も誰かと話をしてるイメージがないけど」


「そうよ、私はボッチだもの」


「そんな寂しい事をハッキリ言われてもな……あ、でも今はそうじゃないだろ、ほら俺達もう友達だし」


「あら、そうだったの?」


「そうだよ、友達!」


「あなたと友達、もちろん嫌よ」


「そう嫌だよな、って何でさ!?」


 ハッキリと話すぶん、実に淡々と事務的に会話をする桐子と対照的に非常に人間らしく緩急をつけて話す学人。

 学人に対してさして興味をしめさない桐子に対して、次第に意地をはるように桐子の興味を引こうとうする学人。

 二人は対照的だからこそ、支離滅裂なやりとりでも不思議と会話が噛み合った。


「気がつかなかったけど、すげぇ良いキャラしてるなリス子ちゃんて」


「あら、嬉しくないわ」


「どうしてそんなに人を突っぱねるんだよ。ってか、それなら何で今日は俺達に声をかけたんだ? あ、やっぱりあんな事件があったから怖くなっちゃった?」


 ニヤける学人に桐子は変わる事の無い口調でピシャリと「人が死んでるのに不謹慎よ学人君」と叱りつけた。

 その全うする言い分に学人はグゥの音も出なかったが、そんな学人に対して初めて桐子の方から学人に話しかけた。


「聞いたからよ」


「聞いたって何を?」


「あの体育館で人が死んだ時、確かに紗代子さんが『私のせいだ』って言ったのをね」


「ええっ! マジかよ!?」


「ええ、激マジよ」


 桐子の言葉もそうだが、桐子の言葉のチョイスにも学人は驚いた。

 人は見かけによらないという事を学人は現在進行形で学んでいる。


「それで、さっきはカマをかけてみたんだけど馬脚を表す事はなかったわね」


「馬脚って……いや、さっきも言ったけどリス子ちゃんって探偵か何かなんじゃないの?」


「何を言ってるの? 小説でもあるまいし、それに高校生探偵なんて今更カビの生えた発想よ」


「今でも多いと思うけど」


「そうね、そうは言ったけど私も悪いとは言ってないわ」


「リス子ちゃんってマジでいい性格してるな……」


「重ねましてありがとう、嬉しくないわ」


 そんなやり取りをしている途中で学人は足を止める。


「それじゃ、俺の家はこっちだから」


「あら、私の家はそっちじゃないわ」


 リス子の言葉に学人は不思議という顔をして首をかしげ、直後に表情を明るくさせた。


「やっぱりああいっても恐いんだな、オッケェー。ちゃんと俺が家まで送るよ」


「……何を言ってるの? DVDと漫画を貸すと言ったでしょう」


 照れ隠しでも何でもなく、本気でそう言ってるのだという桐子の様子に学人はさすがに苦笑いをする。

 苦笑いをしつつも、反撃するように一言そえた。


「でも、貸したりしてくれるって事はやっぱり友達って事かな」


 学人の前向きすぎる言葉の言いように、ついに桐子が陥落するように表情をほころばせる。


「なら、それでも構わないけど私の友達になるっていうのは存外にハードよ」


 再び二人は並んで歩き出す、その分かれ道から歩いて二百メートル。

 そして二人は遭遇してしまう、一人の少女と二人の男。


 いや、それは既に男の形をした何かだった。

 なぜなら、男の口は縦にも口が裂けており、瞳が黒く穴のようになっていたのだから。


 その常識から逸脱した存在を目の辺りにした学人は、驚きと恐怖のあまりに立ち尽くしてしまう。

 

「え、え、あ、あ、アレは何だよ!?」


 学人の悲鳴に近い声で三人は学人と桐子に気がついた様子で振り向く。

 少女は小首をかしげた後に、実に単純な言葉だけで脇に並び立つ化物に命令をした。


「襲え」



 

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