Species
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「それで僕達も殺されてしまうのかな?」
柳沢は乾いた笑いをして赤蘭におどけてみせた。
おそらく彼女に敵意は無いであろうと信じてはいたが、その様子の裏側には恐怖を誤魔化そうという心理が働いているのは豊原の目には明らかだった。
万が一という事を考えて身構えていたが、静かに首を振る赤蘭の反応に、柳沢は不安は杞憂に終わったと胸をなでおろし、豊原も多少なりとも警戒を解くように、後ろに回していた手をさらけ出した。
柳沢はしたたかに感情を隠す。
温和な顔で赤蘭を懐柔せしめんと微笑みかけた裏で、反撃の算段も整えていたのだ。
それが先ほどの豊原の行動。
豊原も赤蘭に恐怖や奇異を感じていないかのような、人懐っこい笑顔の裏で、赤蘭が攻撃をしかけてきた場合に対しての反撃の準備はしていた。
それを物語るように手を後ろに回していたときに握っていた拳銃がジーンズの尻のポケットに刺さっている。
この拳銃は柳沢が先ほど軍服を来ていた男達を縛り上げる際に密かに抜き取っていたもので、柳沢もまた懐に一丁忍ばせている。
この二丁は来宮を撃ったものではなく、抜くことさえ出来なかった二人の物である。
では、来宮を撃った拳銃はどこに行ってしまったのかというと、教会の床に現在も転がっている。
これも柳沢の張った予防線の一つであり、赤蘭の見ている前で落ちていた拳銃を蹴り飛ばし、自分達は武器を持っていないという事のアピールである。
もし赤蘭が話し合いの果てに襲ってくるような事があっても、その印象から、飛び道具が無いと思いこんでいれば少なからず油断をつけるであろうという策だった。
「じゃあ差支えが無ければ教えて欲しいのだけど、君のその手は何かの病気なのかい? 僕は大学の先生をしているから、腕の良いお医者さんをいっぱい知っているから力になれると思うのだけど」
柳沢はあくまでも優しく接するが、それでも赤蘭はその質問には口を閉ざしたままである。
それならばと柳沢は自分達を襲った犬や、この三人の男達について尋ねるも、やはり赤蘭は貝のように黙ったままだった。
敵意が無いのは良いものの、これでは事情が掴めないなと焦りの色を見せる柳沢だったが、そんな現状を意に介さないよう豊原が赤蘭に話しかけた。
「ねぇねぇ、手を変化させる時って痛いの?」
「……痛くはないけど」
「よかったぁ~~。痛い思いさせてたらゴメンなさいしなくちゃと思ってたから。でも、その腕カッコイイね。それに便利そうだし」
豊原の発想は赤蘭にとっては予想していなかったもので、丸い目をパチクリさせ、鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。
「だって遠いところにある物を取る時とかとっても便利じゃない? 私ってものぐさだからいつも晶ちゃんに怒られてるのよ~」
「晶ちゃんって、あの?」
赤蘭は安らかな表情で気を失っている来宮に視線を投げた。
「お姉さんのがしっかりしてそうなんですけど……?」
来宮の度重なる失態を見たうえで、勇敢で的確な行動をした豊原と比べるとなると、赤蘭には豊原が来宮に劣っているところなど無いとしか思えなかった。
だが豊原は首を横に振る。
「ううん、私なんて全然だよ。きっと晶ちゃんがいないと何もできないんだ~。晶ちゃんがいなければ今の私はいないしね~。私は姉妹みたいに思ってるんだけど、そういうと晶ちゃんってば怒るんだよ~」
「豊原君、あれは照れてるっていうんですよ」
柳沢の合いの手にえへへと豊原は笑い、実に自然な流れで赤蘭に質問する。
「赤蘭ちゃんには兄弟とか姉妹とかいないの?」
「お姉ちゃんがいる」
「どれくらい歳が離れてるの?」
「同じ、私達は双子だから」
『そうなんだ』と豊原は言って『仲良いの?』とさらに言葉と質問を続けようとしたが、割り込むように今度は赤蘭が豊原に懇願すようように言葉を続けた。
「私達は普通の人間じゃないから。いいえ、人間じゃないから。ねぇ、私達はどうしたらいいのかな? いくら同じ姿だったとしても人じゃないモノにしたくないよ」
うっすらと予想はしていたが、少女にしか見えない彼女の口から実際にその言葉を聞いてしまうと、やはり二人は驚きを隠せなかった。
では、彼女は人の形をした何者なのであろうかと。
「それは君の腕に関わる事なのかい?」
柳沢の質問に赤蘭はうなずいたうえで答えた。
「私はスナッチって呼ばれてる。腕を変化させる事ができるだけ。そこしか適合してない。でも青蘭はキャリアって呼ばれててアレを体の中で創って、仲間を増やしてる。私は人じゃないのに、人が私達になるのが嫌なの、私が変なのかなぁ?」
ついには泣き出してしまう赤蘭。
柳沢と豊原は事情が飲み込めなかったが、その赤蘭の瞳から零れ落ちる涙を見て、その小さな体に、心に、果てしなく重い物を背負っていたのだろうと察して息を呑む。
「それで君は……何なんだい?」
「私にも……わからない……」
彼女はわからないと答えた。
しかし、柳沢は自分でした質問の意味を噛み潰す。
自身が何者かというの説明ができるのは確かな役職や、立場があってこそである。
そもそも彼女に対しては人であるのかという意味あいさえ持ち、彼女はそうではないと答えたうえで、自分が何なのか模索しているのだ。
残酷な事を聞いてしまったと、発した言葉に後悔する柳沢。
謎の存在。
柳沢はとんでもない事件に関わってしまったと混乱しつつも、どこか少し冷静だった。
謎の存在からの告白。U・N・オーエンの告白から事件発生
そんな名前をどこかで聞いたと思い出してみれば、当事者が全員死んでしまうミステリーだっと気がつき、演技でもないと頭を振った。
そして、同時に誰かが教会の前にやって来た事に気がついた。
U・N・オーエンの告白
Capter2 院外完成
END




