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U・N・オーエンの告白  作者: 面沢銀
Chapter.2 院外完成 
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Mimic


 Mimic


 天井からぶら下がる赤蘭。

 黒く、長く、奇しく、禍々しい変貌を遂げたその右腕は例え現実離れしていても、確かに赤蘭の右腕であり、受け入れがたくとも確かな事実として豊原と柳沢の目には驚異として映る。


 その三本の触手の持つ破壊力を豊原と柳沢の目にしてしまったのだ、現状で赤蘭の敵意は薄いのだろうとしても、先程のように自分達が保護する対象としては考える事ができない。

 逆もしかりで赤蘭としては、この触手を見られた事に関しての対応を考えていた。


 事情を知らない者に、コレを見られたという事はマズイ事だと理解してはいるが、されど眼下の三人は悪い人間ではない。

 自分を殺そうとした三人の追跡者にしても人を殺す事には赤蘭にはまだ抵抗があるのだ。

 

 赤蘭は考える、ならばこの場から立ち去るべきだと。

 豊原と柳沢は考える、この状況の最たる原因であろう彼女を逃がしてはいけないと。

 来宮は考えない、とにかく肩が痛いと。


「うおおおおおおん!! どうして皆、助けてくれないの~!!」


 ガチ泣きだった。

 肩を撃たれたとはいえ、二十代半ばに差し掛かった女性が、しかも困った事にそれなりに美人といえる顔立ちの女性が、こうも子供のように泣きじゃくるという状況はあまりにもこの張り詰めた緊張には不釣り合いであり、あろう事か涙でゆるんだ粘膜は鼻ちょうちんを作り、そして弾けた。


 その酷い有様は良い意味で緊張をほぐした。

 来宮の様子に豊原も柳沢を大いに笑った、釣られて赤蘭まで笑ってしまった。

 状況が物理的にも見えていない来宮は三人に対して酷いとののしったが、その姿には迫力の欠片も無かった。


 山に入るというシチュエーションと、婦警という職業柄、そして豊原の性格的な部分もあり、豊原は応急手当のセットを携行していた。

 怪我の具合によっては病院に行かなければならなかったのだろうが、来宮の肩の傷は擦り傷も良いところだった。

 実際のところ弾が当たったというよりも、言葉の通り掠っただけであり血は出たものの本当に皮一枚を削いだというだけだった。

 なので手当といっても消毒液をかけ、大きめの絆創膏を貼り付けただけである。


「痛い! しみる! もっと優しく!!」


「わかったよ晶ちゃん、念を送るね。しみるな~~!」


「染みた~~~! 念なんて効かないじゃん!!」


 五分前には死ぬような騒ぎをしていた来宮だったが、豊原に宥めすかされ、泣き止んでからというもの、嘘のように元気になった。

 先程、あのような醜態を晒していた面影はないが、涙とよだれと鼻水でぐっちゃぐっちゃになった化粧が名残として残っている。

 豊原が来宮の傷の手当をしている間、柳沢は山に入る装備として持ってきていたロープで三人の迷彩服の男達を縛り上げた。


「とりあえずこれでよしと。赤蘭ちゃん、飴でも舐めるかい?」


 逃げる事はいつでもできたのだが、萩原赤蘭はそれをせずに三人の様子を観察するように眺めていると、作業を終えた柳沢が赤蘭に飴を差し出した。

 戸惑いながらも赤蘭はその飴を口にする。


「さて、これはどうしようかな。目を瞑るわけにもいかないし。豊原さん、警察の意見を聞きたいのだけど」


「どうしようね~」


「何をいってるのよ、コイツ等を吊るし上げればスクープ間違いなしよ! ついに私が報道担当に返り咲く事間違いなしよ!!」


 柳沢は警察の意見を聞きたかったのだが、返ってきたのは報道者の返事だった。

 先程とはうって代わり、現状の状況を把握した来宮の頭脳は勢い良く回転していた。

 怪談話はこの地域で何かおかしな事をしているという事、それは超法規的な実験のようなものである事、さらには武装者を配備するような危険な事である事。

 だとすれば政治的な要素も無論絡んできており、そうなれば警察にも手回しがされているであろう事も容易に創造できた。


 その時点で危険すぎるヤマである事は疑いようも無い事だが、来宮の脳細胞はリスクとリターンを最速で分析し、一つの答えを弾きだす。


 それは速攻だった。

 もはや事件に関わりを持ってしまった以上、この先の身の安全は保証はされない、ならば逃げるのではなく攻めに出て、確かな証拠を掴む。

 国内報道機関では隠蔽される可能性があるから、海外へスキャンダルをリークする。

 インターネット全盛のこの時代は、彼女にとって追い風でしかなかった。


「来宮君、大丈夫ですか? 酷く興奮してますけど」


「そりゃ興奮しますよ教授、生物兵器さながらの狂犬に武装した日本人。映画やゲームでしか見た事の無かった大きな事件に私達は今、関わっているんですよ」


「やめようよ晶ちゃん、無かった事にして帰ろう。ね?」


「無かった事になってもうできないでしょ、この三人にだって顔を見られちゃってるんだし。こういうのは私達に正当性がないと最終的には潰されるのよ、それとも本当に映画みたいにこの三人を始末とかするの」


 来宮の言葉に対して、豊原は警察官としては相応しくない表情を見せ、それだけで返事をしてみせた。

 柳沢は押して黙り、来宮は燃え上がった勢いが一気に鎮火する。

 それはつまり、自分達の安全を確保するためなら、それさえも構わないという豊原の危険思想。


 豊原が本気でその考えにたどり着くとは思っていなかった来宮は、その様子を受けて狼狽する。

 同時に、聡明な来宮はその選択も確かに考えるべきだったと考える。

 豊原ほど過激な思考をするには、来宮の良心は強く、言葉をどうまとめていいのかしどろもどろになってしまう。


 今後の運命を左右する判断。

 その三人の判断を助けるように赤蘭が一つの意見を提案した。


「もしそうするなら、私が()るよ。もともと、私がそうしなきゃいけなかったんだから」


 再びその腕を黒く、鋭く、滑らかな触手に変貌させる。

 豊原と柳沢は赤蘭の様子に、彼女が覚悟を決め、慈悲を欠いていると察し息を飲んだ。

 初めてまともにその赤蘭の触手を目の当たりにした来宮は、またしても目を疑う光景に息を飲めずに金魚のように口をぱくぱくさせていた。


「あわ、あわわわ、それ、それって、きゅう」


 またしても状況が脳の許容範囲を越えてしまったのか、それともただの酸欠なのか。来宮晶には気絶した。

 意識を手放した来宮の体は自由落下に逆らえず、鈍い音をたてながら後頭部を床にしたたかに打ちつけた。

 そのコミカルな様と来宮の安らかな顔を目にした三人は再び仲良く笑い転げた。



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