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第2章:帳簿の悲鳴と、情報の檻 ( 5 )



「……バルトロ、本日をもって君を解任する。君の資産はすべて凍結し、この領地の将来に対する賠償として差し押さえる」




「正気ですか、閣下! 私がいなければ、明日から誰が税を集めるというのです! 領民たちが素直に従うとでも!?」




アルスは、引きずり出されていくバルトロの背中を見つめながら、机の上に山積みにされた一連の「商会登録証」を指先で弾いた。



「……バルトロ、君が懐に仕舞い込んだのは、ただの現金だけではないな。君はこの領地の税を、自分たちが裏で立ち上げた『ロレンツ商会』の資本金へと密かに横流ししていた。つまり、領民の血税が君個人の商会の元手になっていたわけだ」



アルスはさらに、複雑な相関図が描かれた一枚の図表を突き出した。それは、領内の薬草流通を支配する連合組織の相関図であった。



「薬草栽培を強制したのも、単に高く売れるからではない。流通経路を君の商会連合で独占し、卸値と小売価格の差額、つまりマージンを二重に搾取するためだ。税を抜き、利益を抜き……この領地の経済そのものが、君という寄生虫に栄養を届けるための循環システムと化していた。まさに、この領地は君の私物だったというわけだ」



バルトロの絶叫が響く中、アルスは震える手で――しかし断固とした意志で、新しい布告書を掲げた。



「君のような『暴力的な徴収』はもう必要ない。これからは、税を罰ではなく、領地全体の未来を築くための『共同投資』へと定義し直す。複雑怪奇な四十八の税目は廃止し、所得に応じた単純で透明性の高い三つの税制に統合する。計算式は公開し、誰もが納得できる形で徴収する」





バルトロは引きずり出される間際まで呪詛を吐き続けていたが、アルスの耳には届かなかった。



「……セバス。これからが本当の地獄だ。特権を奪われた者たちは抵抗し、知識のない領民たちは、この変革を『新たな罠』だと疑うだろう」



アルスは椅子に深く身を沈め、瞳を閉じた。


現代社会で彼を追い詰めたのは、見えないシステムの歯車だった。誰もが「仕方ない」と諦めていた不条理。


だが、この異世界で彼は、その歯車を自らの手で組み替える権利を握っている。



「まずは、この『情報の檻』を壊すことから始める。透明性こそが、不信という病を治す唯一の薬だ。……セバス、明日から領地全域で、正確な人口調査と地価調査を開始する。一人の漏れも、一坪の誤魔化しも許さない」  



目を開けたアルスの瞳には、冷徹な経営者のそれと、壊れゆく社会を救おうとする一人の人間の必死な祈りが同居していた。



人口、税金、食糧、そして労働。


それらを結ぶ新しい糸を紡ぐための、孤独な戦いが本格的に幕を開けた。



アルスは今日は、今日だけはゆっくりと自室のベットで寝れると信じて、セバスに手配させたワインを飲んだ。

セバスのメモ帳

『循環しすてむ』

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