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第2章:帳簿の悲鳴と、情報の檻 ( 4 )



さらに、アルスはバルトロが推進した「農業改革」の急所を突いた。



「バルトロ、君が農民たちに麦を捨てさせ、薬草栽培を強制した件だ。確かに、薬草は王都で高く売れる『高付加価値商品』だろう。だが、その対価として、領内の食糧自給率を三十%にまで叩き落としたのは、致命的な失策だ」



バルトロは待ってましたと言わんばかりに、口端を歪めて言い返した。



「金があれば、麦など他領から買えばいい。高く売れるものを作り、安いものを外から仕入れる。それが効率というものでしょう! 閣下の仰る『統計』とやらでも、利益の最大化を説いているはずだ!」



「効率だと? バカを言うな」



アルスの声は、凍てつくほどに低かった。


その瞳には、目の前の小物に向けられた怒り以上の、深い懸念が宿っている。



「生存に不可欠なカロリーの決定権を外部に委ねるのは、喉元に刃を突きつけられているのと同じだ。この領地を見ろ。食料の七割を輸入に頼り切り、領民の胃袋は他領の『余り物』で辛うじて満たされている。もし隣領で戦争が起きれば、あるいは他国で飢饉が起きればどうなる? 街道が一本閉鎖されただけで、この領地は一週間も持たずに飢餓で即死する」



アルスは羽ペンを握りしめ、白紙の羊皮紙に鋭い線を描いた。



「他国が価格を吊り上げれば、我々は言いなりになるしかない。金貨を積んでも麦が手に入らなければ、その時、君の誇る『高付加価値な薬草』は何の役に立つ? 薬草を噛んで空腹を紛らわせとでも言うのか? グローバルサプライチェーンへの過度な依存は、平時には利益を生むが、有事には逃げ場のない『死の罠』へと変わる。君は、領民の命をチップにして、勝ち目のない博打を打っているに過ぎない」



それは、かつてアルスが前世の記憶の中で見た、脆弱な食糧基盤の上に成り立つ飽食の国への痛烈な皮肉でもあった。

海の向こうからの供給が止まれば一瞬で瓦解する、張りぼての繁栄。効率の名の下に「安全」という最も高価な資産を切り売りし、帳簿上の富に酔いしれる愚かさ。



「自給できない国は、独立を維持できない。食糧の蛇口を他者に握られている限り、我々は常に奴隷だ。君が『効率』と呼んだものは、システムの脆弱性を極限まで高めただけの、美しくも無残な設計ミスだ」



アルスは、その連鎖をここで断ち切らなければならないと強く確信していた。


数字を武器にする者として、数字の裏に潜む「死の確率」を無視することは、彼自身の魂への裏切りに他ならなかった。



「……バルトロ。君の犯した最大の罪は、金貨の量ではない。この領地から『自ら生き延びる力』を奪い去ったことだ」



冷徹な論理の刃が、バルトロの脆弱な慢心を音もなく切り裂いていった。

セバスのメモ帳

『ぐろーばるさぷらいちぇーん…?』

『まてまて、かろりー?』

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