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第4章:我がレオンハルトは銀の道にあり ( 17 )



「狂ってる……。自分でもそう思うわ。でも、これしか道はないのよね!」



銀の道の中継拠点「第四宿場」の広大な操車場。



吹き付ける雪を魔導障壁で撥ね退けながら、技術者テラは己の目の前で蠢く「巨大な物流の獣」を見上げ、4本の腕を操りながら、狂気と歓喜の入り混じった声を上げていた。



彼女が作り上げたのは、従来の「荷馬車」という概念を根本から粉砕し、再定義する代物だった。



「連結式高速縦列車」、通称「銀の列車」。



道幅が二車線しかないという物理的な制約に対し、アルスとテラが出した答えは、車両を縦に繋ぎ、一本の巨大な槍に仕立て上げることだった。


だが、その実現には絶望的なまでの技術的障壁が立ちはだかっていた。



五台もの巨大な荷台。


そこに満載された数百人分の膨大な物資と五十人ほどの兵士。


一車両目は物資を乗せるための倉庫。


二、三車両目は到着するまでに調理をして、暖かいスープやスパイスを利かせた肉を焼く厨房と食堂で。


途中の宿場でも食事を配って二十四時間かけて、戦場に栄養を届ける。


四、五車両目は兵士たちを休ませるための寝台列車となっていて、戦場で負傷した兵士を後方の宿場に届ける役割もある。


これらを引きずるには、最低でも二十頭以上の軍馬を並列・直列に繋ぐ必要がある。


しかし、二十頭の馬に呼吸を合わせ、同時に発進・停止・旋回をさせるなど、神業を持つ御者でも不可能だ。


一頭でも躓けば、その後ろに続く数トンの鉄塊が銀の道を瞬時に瓦礫の山に変えてしまう。



「だからこそ、こいつらの出番ってわけね」



テラが不敵な笑みを浮かべ、指差した先。


先頭車両に繋がれていたのは、しなやかな筋肉を持つ「馬」ではなかった。



そこにいたのは、北の山脈に生息し、現地の民から雪山嵐として恐れられる「氷原大熊アイス・ベア」だった。



通常の軍馬の数倍の体躯、雪上を物ともしない圧倒的な踏破力、そして一頭で馬十頭分に匹敵する牽引力。



「アルス様やの発想には恐れ入るわ。野生の魔物なら言うことを聞かないけれど、ジャックが裏ルートで手に入れた『魔導制御のかせ』を使えば、複数の魔物を一つの意志として同期リンクできる。……これなら、たった三頭の魔熊で、五連結の重車両を時速四十キロで維持できるわ!」



テラは連結された荷台を愛おしそうに叩いていく。この車両群は、単なる移動手段ではない。



「いい? この馬車はただの乗り物じゃない。『動く軍事基地』よ!」



これにより、王国軍は移動中に「休息、食事、治療」を同時に行うことが可能になった。


兵士たちは、魔熊の力強い足音を子守唄に眠り、戦場に着いた瞬間に「全盛期の状態」で解き放たれる。エレナが前線で振るう剣の鋭さは、このテラの狂気的な輸送効率によって支えられていた。



「テラさん、閣下――アルス様からの追加オーダーです。『現在稼働している列車5台のうち、1台をすべて兵士を載せる車両改造して欲しい。ただし、他4台の列車で5台と同等の積載量にして欲しい』と……」



王都からの伝令官が、青い顔で計算書を差し出した。



「1台をすべて兵士の寝台列車にする…?理由をアルス様に聞いてる時間もないわね。…いいわ、オーダー通りにしましょう。」



テラはゴーグルを跳ね上げ、魔物の生体データが刻まれる計算盤を睨みつけた。



テラの鋭い指示のもと、魔導技師たちが凍える手で魔熊の枷に調整を加えていく。



魔導回路が青白く発光し、三頭の魔熊の意識が機械的に統合されていく。



「全車両、ロック確認! 制動同期、正常! ……射出しなさい!」



咆哮と共に、連結馬車が銀の道へと躍り出た。



それは、生物の野生的な膂力と、人間の冷徹な科学、そしてアルスの執念深い計算が融合した、新たな時代の怪物だった。


雪を巻き上げ、蒸気を吐き出しながら加速するその姿は、暗闇を切り裂く黒い閃光だ。



「見てなさい、カスティアの田舎者たち。あんたたちが相手にしているのは、一万の兵じゃない」



テラは去りゆく列車の轟音を聞きながら、勝利を確信して笑った。



「最新の科学と、魔物の怪力、そして一人の天才の執念が凝縮された……これは『動く槍』なのよ!」



この「動く槍」が特区に到達する時、カスティア軍の崩壊は完成する。ボルグが守る道の上を、テラの怪物が、アルスの計算通りの時間で駆け抜けていく。



王国軍の真の恐ろしさは、剣の腕ではなく、この止まらない「供給の循環」にあることを、敵将エーリヒは間もなく身を以て知ることになる。

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